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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第一章
6/61

お硬いアイツ

連続投稿2日目の、本日一回目投稿です。

「ふおおお!やはり、おりぇの推測(しゅいしょく)はただちかったあ!」


 俺は画用紙に書いた己の絵を掲げ、思わずガッツポーズをとった。

 俺の脳内には『描画スキルを取得しました』と、妄想風味な心のシステムメッセージが鳴り響いていたのだった。実際は、スキル取得が感覚でなんとなく判るだけである。


 実は昨日のもふもふマッサージで、予想外の愛撫スキルを得ていたのだ。しかも、”テンマ”の十数年分の経験がそのまま熟練度に変換されて、だ。これはこの幼き身には破格だ。普通スキルを得ても概念やコツを得て習熟率がだんだん高くなるだけなのだが、そのスキル習熟率×”テンマの熟練度”がチート適用されて俺はテンマより更に上の技術を手に入れてしまったのだ。

 ちなみにどうして”愛撫”が戦闘系スキルに入ってるかというと、それでしか倒せないモンスターがいるからだ。この範囲が曖昧なところも”神々のやっつけ仕事”と言われる所以である。


 とはいえ、元は凡人オタク野郎の記憶なので、特技と呼べるものもそう数は多くない。同人誌を作りたくて何年か頑張ったお絵描きと、なんとかの横好きで二十年以上歌い続けたアニソンカラオケくらいかな?

 そんなわけで、もしかしたらとお絵描きの検証に入っていたのだが、思った通り描画スキルは存在した。そりゃあ、ほんとに神様がたくさんいたのなら、自分達の似姿を人間に描かせないわけがないよね。”叡智の宝宮”にこっそり追加した神様がいても不思議ではないのだ。


 手にした画用紙にはルゥ兄ぃの似顔絵が、本職レベルのタッチで描画されていた。

 まあ、ルゥ兄ぃの美しさはその程度じゃ写せるわけもないが…。


「ふむ……アリだみゃ」


 思わずこの最高の被写体を一生描き続ける人生も悪くないと思ってしまった。

 …が、ひょいと俺の処女作は横から伸びた手によって取り上げられた。


「へえ…すっごく上手く書けましたね。これは記念として僕に下さい。大切に保管します」

「あにょ?まだ熟れん度をかんぜんにショウ化しきってないから、もう少しまってちょー…」

「いいえ!シュテンの初めての作品だから価値があるんです。初めての作品が僕の似顔絵だったという感動も含めて、ね♡」

「むぉう!?な、なんか…むねが…」

「…?」


 俺の素敵な兄ちゃんがカッコ良過ぎてキュン死しそう!

 なんで俺は女の子に生まれなかったのか…。


 そんな事を思った瞬間に、外から本物の少女の声が聞こえてきた。


「ボ~ス~っ!ル~シュ~くん!あ~そ~ぼっ!!」 


 幼馴染の純粋で無邪気な掛け声。

 これから数え切れないほど聞くことになる定型句であった。








               ◇








「♪ふっふん、ふんふん…ねーボスぅ、おママゴトしよ~」

「やら」

「え~、そんじゃ多数決で決めよ♡」

「じぇったい、おりぇがまけるじゃん」


 この三十路ロリっ娘には良い情操教育にはなるだろうが、赤ちゃんプレイが約束されている俺の方は気乗りしない。これに関しては、ルゥ兄ぃが俺の味方をしてくれないからだ。過ぎし日の苦労と歓びを反芻するかのように、ミュルンに俺の可愛さを布教しようとするのだ。俺も愛しい兄ママンに孝行できるなら吝かではないが、そのうちオシメの方法までリアル実習されそうで怖い。


 今、俺を先頭に向かう先は我が家の近くにある小さな森である。

 ここはルゥ兄ぃが一から作った森で、小さいが様々な実の成る樹木や草が生えている。そもそも、ファラ姐が拾ってきた動物をここで育てるために作られた場所なのだ。


 森に入って、よたよたと小さな実をもいで食べては先へ進む。

 歩くのが遅いのは三歳児だから仕方がない。後ろの二人はそんな俺を観賞して愉しんでいるので、特にペースを上げる必要は感じない。

 フフフ…アイドルは存在してるだけで注目を浴びるのだよ。


 いつもはルゥ兄ぃに抱えられて通る道のりだが、たまには歩かねばデブになってしまう。何しろルゥ兄ぃが無限に『あーん』をしてくるので…。

 ちなみにぽっちゃりとデブの違いは二重顎というのが俺ルールだ。


 そんな感じで気ままにくっちゃべりながら、俺達は小さな泉のある森の中央広場へと辿り着いた。

 泉には小動物たちが集まっており、特に小岩に腰掛けた女性の周りに集まっている。


 朱色の髪を後ろで束ね、顔立ちは日本人に近いがややワイルドな美人である。外見年齢は二十代半ばくらい。森に適した動きやすい衣服を身に付けているが、あれは時々ハンターのフリして街に降りる変装らしい。その目的がまた婿探しだというのだから、その型破りな性格が察せられるだろう。ドラゴンのくせに種族を問わないその柔軟さは立派だが、女のプライド×年齢 の所為で未だに彼氏が出来ないのだと気付いているのかどうか…。


「ファラ姉っ♡」


 いの一番に飛び出してその胸に飛び込んだのは、やはりミュルンだ。

 朱と紅で髪色が似てるだけあって、並んでいるとまるっきり姉妹に見える。


「あらあら、ミュルンはいつも元気ねえ」

「えへへ~、今はボスと一緒にお散歩してたんだよ」

「ボス?」


 俺が声をかけようと口を開く寸前、背中に衝撃を受けてコテンと倒れた。


 直後、背中に乗っかる覚えのある重みに、俺は全てを察した。


「おにょれ、コゴろ…」

 

サクッ!


「いだぁああーいっ!!」


 不倶戴天の敵の名を呼ぶ前に、お尻にすっかりおなじみの激痛を受けて一瞬で泣きを入れた。


とふとふとふ…


「にゃふ…」

「ぐふっ!」


 奴はしっかり俺の上を歩き、後頭部まで踏み締めてからファラ姐の膝へと飛び乗った。


「ぐすん、うぇ……コ、コゴロぉおお、ゆるすまじ……」


 幼児に先制攻撃とは、なんて残酷な奴なんだ!

 アイツの爪は見かけより凶悪で超痛いのだ。

 先日、ちょっと食事中に排便(ぷりぷり)テロをしたってだけなのに…。


「プッ、あはははっ!相変わらず二人は仲が悪いねー」

「くっくく…ある意味、気が合ってるよねー」


 こっちは笑い事じゃないんだよッ!


「ファラ姐っ、コゴローがイジめた~!ちゃんとしかってぇー!!」

「え~?だって、いっつも子豚ちゃんがコゴローに突っかかってるだけじゃん」

「ボスってけっこう悪賢いから、躾はきちんとしないとね」

「うん…僕もこればかりは擁護できないなぁ~」

「うぅ、ひどい…ぴえぇ~ん!!」


 感情が抑制できずに俺が泣き声をあげると、周りの動物たちが鼻を寄せて慰めてくれた。

 結果、五秒で泣き止んだ。


 この優しい子達は、森ではぐれた動物の子供や赤ちゃん魔物だ。角ウサギや灰色オオカミ、ロックスネークや紫電鹿(ライジングディアー)等だ。この小さな森には全てが揃っているし、争いも無い。ほぼ楽園と言ってもいいはずなのだが、大概は大人になるとツガイを探しに山を降りてしまうらしい。仕方ないとはいえ、ちょっと寂しい。

 しかし、俺を含めみんなファラ姐にはとても感謝しているのだ。ただ、その寵愛の頂点にいるのが、あのデブ猫だってのが気に入らないだけで…。


 なので、今日こそは直談判してやるっ!


「ファラ姐ッ!おりぇ、加護がほしいっ!!コゴローから乗りかえてっ!」


 俺もドラゴンブレス(微)を吐いてみたい!


「ぷふっ…潔いくらい直球なお願いだねぇ」


 ファラ姐は俺の請願にちょっと考えたフリをすると、膝のコゴローを胸に抱えて頬擦りした。


「私も一大決心をして母乳をあげた子豚ちゃんが可愛くないわけじゃないけど、この毛並みを手離すのもちょっとね…。それにこの子はとってもよく働いてくれるしね~(ニチャア♡)」

「なぁう~、ごろごろ♪」

「ぐぬぬぅ…」


 三歳の幼児に働きを求めるとは…鬼か?

 確かにコゴローはこの森の主のほかに重大な使命を担っている。獄炎竜ファラネールの天敵であるあの黒くてカサカサ動く原生生物Gをサーチ&デストロイするというお仕事だ。この霊峰の中腹は高地にあるので本来はGの棲息する場所ではないが、たまにファラ姐の巨大な身体に便乗したり荷物に紛れたりしてこの地に侵入することがあるのだ。ルゥ兄ぃに聞いた話では、何十年か前に身体中をGに這い回られたファラ姐が発狂して大暴れ、この地を火の海に変えたという。

 俺も貰い事故で死にたくはないので、その仕事ぶりに文句をつけるつもりはない。


 ちなみに一大決心の母乳とは、頑張れば単為生殖で卵を産めるドラゴンの特性を利用し、ホルモンを調整して俺に母乳を与えてくれたのだ。未だ巡り合えぬ彼氏に泣いて謝ったという逸話を聞けば、本当に感謝しかないんだが…あの通りズボラで自由なお人なので授乳が一日一回だったり、ふらふら数日どこかに飛んでったりでさんざんルゥ兄ぃに迷惑をかけたらしい。

 まあ…ルゥ兄ぃの苦労の大半は、”異世界記憶”に無意識にアクセスした俺が知恵熱で死にかけてばかりいた所為なんだけども。だから、俺には一歳を過ぎるまでの記憶がほとんど無い。それでも死ななかったのはルゥ兄ぃの看病の御蔭もあるが、”竜の母乳”の状態異常耐性で病気に罹らなかったからもあると思う。その頃はルゥ兄ぃの加護も付いて無かったし。

 たまにその頃の話を振ると、何故かルゥ兄ぃが顔を赤くするのがちょっと不思議だが。

 


「ん~…それなら一つ、子豚ちゃんに頼み事をしていいかしら?成功すれば私の好感度も爆上がりかもね♡」

「ほんと!?」


 俺の悔しげな顔を充分堪能したのか、ファラ姐がやっと助け舟を出してくれた。

 ファラ姐はよく意地悪をするが、必ずフォローも入れてくれるので憎めない…というか大好きだ!


 ファラ姐は腰掛けていた小岩から立ち上がり、その岩をぽんぽん叩く。


「私の可愛い子豚ちゃん。あなたにはこの子の心を開いて欲しいの」


ゴゴギギゴゴ…


 石同士の擦れる音とともに、小岩が身を起こす。


「こ、こりは…ゴーレム!んぅ…?にしては…小っさ…」


 立ち上がった大きさは、ルゥ兄ぃやミュルンと同じくらい。

 しかし、その頭部には赤く光る魔核が怪しく光っていた。


「あたまに赤いまかくの…ゴーレム?」


 顔に横一文字のバイザーを被せれば、ジオン系のアレになりそうな奴だ。

 背丈が子供並みなので大して怖くはないが…。


「ふふ…ただのゴーレムじゃないからね。さ、ガーグ君…挨拶してあげて」

「………ガーグ、ヨロシク…」


 表情は無いのに、嫌々やってる感だけは伝わった。


「「しゃべったッ!?」」 

「へえ~、この大きさなら生まれて数年くらいだろうに…知能は千年クラスのゴーレム並みですね」


 ルゥ兄ぃの言葉にファラ姐がびしっと指差す。


「正解よ、ルシュルゥ君!この子は稀に生まれるユニーク種なんだけど弱点はもろバレだし、リソースを知能に取られるからあまり大きくなれなくて生存確率が低いのよ。実際に群れを追い出された途端、ジャイアントクロウに狩られる寸前だったしね」

「ああ…この霊峰の裏側にはゴーレムたちが棲息地していましたね。異質な存在が群れから追い出されるのはどこも同じですから…」


 えっ…ルゥ兄ぃ、何でそこで俺を見るの?

 一応、俺の設定は死んだ行商人の子って事になってるよね?優しい嘘を忘れてない?あからさまに同情されると泣いちゃうんですけど?


「んん、こほん。そういうわけで、この子の心を開いて生きるための知識を色々教えてあげて欲しいのよ。上手くいけば何千年後かには、賢者の石として無機質系の下級神くらいにはなれると思うの」

「かみしゃま?ふむぅ…気のながいはなしでしゅね」

「ふふ…そうね。でも、神々が捨て去ったこの混沌の大地は、新しい芽を育んでいくことがとても大切な未来への布石なの」

「……?」


 神々の捨て去った?何かヤバいこと言ってる?

 この世界の神話なんて、まだルゥ兄ぃから聞いてないんだけど?


 重くて暗くてお堅い話だと一瞬で判断した俺は、流れを軌道修正することにした。


「あいわかった!いさいしょうち!」

「え?」

「要はこのガーグくんとお友だちになればいいということだにゃ?」

「ん~?まあ、要約すれば…ね」


 小難しいことは要らない。幼児は単純なことしか理解しないし、する気もないのだ。


 俺はガーグ君のぶっとい指を掴む。


「ガーグくん、いっしょにあそぼうじぇ」

「……フン、メンドイ」


 繋いだ手を振り払われた。


「ありぇ?」


 ガーグ君は俺に背中を向けると、その場にしゃがみ込んで動かなくなった。


「あちゃ~、こうなったら簡単には動かないよ。心を閉ざしているって言ったでしょ」

「……くくく…なかなか手ごわしょうじゃんよぅ。あいてにとって不足はないじょ。ガーグくん、じぇったいおりぇのおしゃななじみ第二号にしてやるかんにゃあ!」

「……ウルサイ。チビ」


 ぐぬぬっ!な…なかなか口の悪いゴーレムじゃのう。まあ、口喧嘩の一つも出来なきゃ友達にはなれないもんだ。ここは腰を据えてじっくり攻略してやろうじゃないか。

 だけどな…


 今のチビって言葉は、必ず土下座で謝罪させてやるからなあああーっ!!

 


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