武闘会への挑戦
(シュテン視点)
ルタンバ王国から獣皇国に来て、一週間が経った。
なんというか忙しい日々だったと思う。
スラリンを仲間にしたり、コゴローへの恨みをこめて落書きしたら大好評でもっと描いてくれと頼まれたり、ちび忍軍の部下がいっぱい出来たり…まあ、退屈はしなかったな。
そんでセレスティアとエンデオ爺や(キューブ)っていう変な奴等と友達になったんだが、ちょっと世話してやったらなんか懐かれたらしい。ここ数日はずっと一緒に遊んでるからな。
で、今日も…
「♪ バーンバーンバンバーン! バーンバンバンバン! バーンブレイバーン! ♪」
「♪ ガガガ ガガガガ ガオガイガー! ガガガ ガガガガ ガオガイガー! ♪」
弾むようなセレスティアの歌に対抗するように、ガーくんも声を張り上げる。
お互い鼻先付き合わせて、どっちが相手の歌につられて音程や歌詞を外すかという遊びだ。本人らは推しの名にかけて負けられない、とガチモードだったりするが…。
どちらも内容やアニソンが似ているアニメなので対抗意識が強くなるのも判るが、どうしてこうなったんだっけ?
確か…セレスティア達に壁画の由来をしつこく聞かれて、ガオガイガーの紙芝居を見せてやったんだよな。そしたら、超ハマってガーくんとマブダチのように同じopを歌うようになっていた。
同じ頃、祖獣通りの北側の宿屋連中にも壁画を依頼されて、散々悩んで”勇気爆発!バーンブレイバーン”を選んだ。同じ勇者ロボアニメで、アニソンもガオガイガーと同じく王道ド真ん中なノリなんだぜい。その時は我ながら良い選定だと思ったね。
セレスティアもチビ忍軍と一緒に壁画制作を手伝ってくれたんだけど、休憩する度に講談形式でバーンブレイバーンのストーリーを語ってたらガオガイガー以上にハマってしまったのだ。俺としてはあの男同士の汗臭いストーリーはちょっとクドいと思ったんだが、女には受けがいいらしい。セレスティアだけでなく、女児の一部もナルトからこちらに転んだからだ。
御蔭で紙芝居の方も、近いうちに作る事を約束させられた。
ちなみにこの歌対決はセレスティアの圧勝だった。
「うああっ!バンバンうるさいッス!こっちは勇者王なんスよっ!態度がデカいッス。この裏切者ーっ!!」
「そっちもガが多過ぎですのっ!それに裏切ったんじゃなく、より興奮する方に乗り換えただけですの。貴方だって、友情を極めてロボットに転生したいでしょ?」
「うぐっ…た、確かにあの勇者に生まれ変わる展開はオイラの理想像ではあるんスが…しかしっ!ガオガイガーの合体の情熱と重厚な必殺技、それにサポートウェポンの数々が男の浪漫を掻き立てるんっス!」
「ふん…私は女だから男の浪漫なんて関係ないですの。第一、ゴーレムの貴方に性別なんて無いんじゃなくて?」
「ガハッ!?そ、それは言っちゃ駄目なヤツ…」
ガーくんが膝を付いて、またもK.O.されていた。
広義では仲間でも狭義になると熾烈に争う…これもオタクの宿命なのだ。
そう…セレスティアは口論がめっちゃ強いんだよ。気品だけでなく英才教育されて頭も良いから、俺もちょっと苦手かもしんないぜ。
まあ、エンタメの情報元である俺の優位性はこの先も安泰だけどな。
食堂での対決を横にニャン虎亭を出て、向かいに描いた壁画を仰ぎ見る。
「はぁ~…」
思わず溜息が出た。
ニャン虎亭の方はコゴローを生贄にしてやったのだが、”人を呪わば穴二つ”…ワン狼亭の方には白いぽっちゃり仔狼(変身した俺)がブロークンマグナム(鉄拳)に粉砕されようとしている。コゴローの方は太々しく睨みつけているのに、なんで俺の方はあんなにビビった顔してんだろう?ルゥ兄の言い付けで不承不承で描いたけど、なんであんな表情になったのか自分でも不思議でならないぜ。
「シュテン、どうしたの?」
「……な、なんでもないよ」
隣で手を繋いだルゥ兄が優しげに訊いてくる。
そう、俺にとってルゥ兄の言葉は絶対なのだ。不満があるなんて言っちゃ…
「ふくく…ボスったら、向かいに自分の姿を描かされたのが不満みたいよ?」
「なっ!?そ、そんな事言ってないだろ!ミューのくせに生意気なっ!また、俺の北斗一指拳を喰らわすぞっ!」
「あぶっ!?ちょっとぉ、そのセクハラ拳法は洒落になんないからやめてって言ったでしょ!」
俺の必殺拳を間一髪で躱したミュルンが、マジ気味な抗議の声をあげる。
「相手の弱点を見つけたら、徹底的にそこを攻めるのは戦闘の基本だぞ。くくく…次期フェンリルの討伐なら経験値もガッポガッポだぜい。なんかミューが俺の貯金箱に見えてきた…」
「かっちーん!アタシなら何度でも討伐できるって意味かな?スライムにも勝てないくせに…」
「うぐっ…俺はジャイアントキリングに定評があるお子様なんだよッ!」
お互いにガチな気配を発するが、あくまでもゴッコである。なんだかんだミューは最後には負けてくれる事も多い。……俺はマジでぎゃふん!と言わせる気だけどな!
「も~…シュテンもミュルンも、二人揃うとすぐフザけるんだから…」
ルゥ兄が嘆息して、俺達から距離をとる。
ごめんね、ルゥ兄。狼とは常にマウントを確認しておきたがる生き物なのだ。下剋上は赦さんぞぉーっ!
こんなこともあろうかと、いま俺のポケットには昨日厨房で隠れて作った胡椒爆弾がある。ウズラの卵の殻に良く挽いた黒胡椒を詰めた物だ。鼻の良いミューなら、当たれば一発で戦闘不能になって悶え回るに違いない。まあ、全然当たらないんだけど…。
俺がどうやってミューの隙を伺うか脳味噌フル回転していると、北の方から何やら騒がしい声が…
「こぉぅらぁ!ぽっちゃり小僧ーっ、ちょっと俺が城に行ってたらまた壁画を増やしやがってぇ!!」
ガオルンのおっちゃんが何か喚いているけど…そういや、どっか行く前にもう壁画は禁止って言ってたっけ?今まで忘れてたけど。
捕まればガミガミ説教を始められそうだと思った俺はミューと一瞬だけ視線を交わし、それぞれが最適な行動をとった。
「あっ、父ちゃ~ん!おかえりぃ~!」
「おおお~、ミュル~ンちゃ~ん♡」
最近、ツンが多い娘に愛想良く声を掛けられ、ガオルンのおっちゃんが両手を拡げてミューに抱き着こうとした。……そういうとこだぞ。
ミューは抱き締められる寸前で屈んだ。
そして、真後ろ(死角)にいた俺が絶妙のタイミングでおっちゃんの顔面に胡椒爆弾を叩きつけた。
「ぶわっ!?なんだこれ…ぶしゃっ!へえっくし!ごはっ!?げへっ!くしゃん!ひぎぃ…ぶしゃっ!」
くしゃみが止まらなくて苦悶するおっちゃん。
ミューと入れ替わるように前に進んだ俺が、”ゴブリンの嘆き”(棍棒)を振り下ろす。
ぶちっ!
「ぎゃあ!?」
爪先(小指の辺り)をピンポイントでブッ叩いたら、おっちゃんが足を抱えてひっくり返った。
「トドメじゃあ!!」
「うおわッ!?」
どすんっ!
頭を狙った棍棒を避けたおっちゃんが背中を見せた。
「ミュー!」
「がってん、ボス!」
俺は棍棒を捨てて肩に飛び乗り、ミューも背中にケツを落とした。
潰れたおっちゃんの紅髪を掴んで馬乗りで叫ぶ。
「ふはははーっ!獣皇討ち取ったりーっ!」
「あはっ、これがほんとのジャイアントキリングだね♡」
子供二人に乗っかられたおっちゃんは…完全に無抵抗だった。
「い、いきなり攻撃するとは、なんて卑怯な………ぐふ♡」
みんな、ガオルンのおっちゃんが怒ると思った?
だが、違うんだなあ。愛娘とのスキンシップに餓えているおっちゃんには、ミューが絡んでいるだけでどんな悪戯をしても赦されちゃうんだぜ。……何度も言うが、そういうとこだぞ。
あ~あ…この世にレベルアップ制があったなら、おっちゃんをシバきながら今頃チートなレベリングが出来たのになぁ。
「…という事で、俺が勝ったから今後落書きは自由に描いていいよな?」
「んなわけあるか!皇都の法律でも建物への落書きは禁止されてんだぞ。ここ数日だって、もう描いちまった壁画を認めさせるために、ガオレスに無理くり捻じ込んできたんだからな!」
「へー、そうなの?」
ガオレスってのはこのヴォルセニア獣皇国の宰相で、ミュルンの弟(二十五歳)だ。仕事を放り投げて家出中のおっちゃんには、相当大変なミッションだったと思われる。
「アイツ…俺の肩身が狭いからって、小言ばっかり言うんだぜ。しかも、訊いてくるのはミュルンの事ばっかりだし…。もっと父親を気遣ってもいいんじゃねえの?」
「うへぇ…あの子のシスコン、まだ治ってないの~?」
ミューがうんざりしたように嘆息する。
確か…ミューが家出した理由の一つに、弟の求婚がウザイって話があったな。獣人は交配と進化を繰り返して一族を形成してきたが、獅子獣人や狼獣人の祖も猫人や犬人であるらしい。昔は永い刻の中で獅子や狼と交配したという神話じみた説もあったが、どうやら一族による強者生存と収斂進化によって猫獣人から獅子獣人へと、犬獣人から狼獣人へと進化していったというのが真実らしい。実際にちょっとでも血が薄まれば獅子獣人の子供も猫獣人のように弱体化する傾向があり、獣皇国では近親間の婚姻も許される風潮なんだとか。
そういやうちの下僕二号が、ロリコン性癖を拗らせてなきゃ従弟と結婚してただろうって言ってた。
「話を戻すけど…んじゃあ、俺が新しく描いたバーンブレイバーンは…」
「アイツや官吏に知られたら、即行で塗り潰されるだろうな。慈悲はないぞ」
「ぐぬぬぬ…」
これでも俺は自分の作品にはそれなりの愛着をもっているんだぞ。ましてや、全てのアニメキャラは俺の敬愛する推しである。他人に塗り潰されるなど、あってはならない事態なのだ。
流石のおっちゃんも、もう一度息子に掛け合ってくれる気は無いらしい。
どんだけ肩身が狭かったんだよっ!
やっぱり、頼りにならない大人より、最後に頼れるのはルゥ兄しかいない。
「ルゥ兄ぃ~、大人達が俺をイジメるぅ~!」
ルゥ兄の腰に抱き着いてぐりぐり甘える。
「う~ん、イジメてるわけじゃないと思うけど…。あの…ガオルン、息子さんを説得できる材料って何かないんですか?ハンターの条件達成みたいな感じで…」
「そうは言ってもなあ。アイツ…ミュルンの事以外は超が付くほど堅物だからなぁ~」
「あっ、父ちゃんアレは?年に二回開催してるヤツ」
「獣皇武闘会か?確かに、都合良く今週中にもコロシアムで開催される予定だが…」
獣皇武闘会はこのヴォルセニア獣皇国の名物イベントとして、他国にも知れ渡っているそうだ。優勝者には獣皇と戦う権利が与えられ、もし勝てば獣皇の地位さえ与えられるという。まあ…建国以来三百年、誰も勝ったことが無いらしいが…。
現在は宰相をやっているガオレスが、宰相の地位を賭けて優勝者の相手をしているらしい。弟の方はフェンリルの能力を受け継がなかったようだが、姉のスパルタ教育の御蔭で人外の戦闘力は充分に備えているそうだ。
「種族もスキルも問わないし強化魔法や薬物強化もありだが、あくまでも戦いは武闘でなければならないんだぜ。ミュルンは即バレ必至だし、ルシュルゥは魔法戦特化、ガーグは新装備を着ても実力不足…どう考えても無理なんじゃね?」
背中から愛娘の尻の感触がなくなり、しょんぼりしたおっちゃんが身を起こす。
道行く通行人が、地べたで座り込むしょぼくれたおっさんに奇異な視線を向けている。
そりゃ、誰もこれが崇敬する獣皇様だなんて思わないよな。
おっちゃんの反論に、ミューがちっちっと指を振る。
「それじゃ面白くないし、アタシ等が前面に出るってのは筋が違うと思うんだよ。やっぱり、我儘を通したいんなら本人が出なくちゃね♡」
「は?……はあぁ!?」
何言ってんだこいつ…?
幼気な五歳児の俺が大人達の武闘大会出場なんて……いや、案外いけるのか?この間もハンター達が俺にビビりまくっていたし、傭兵は知らんけどハンターは腰抜けばっかだし、”ゴブリンの嘆き”で獣皇もぶっ倒したし、スラリンをテイムして俺も戦力増強している。………なんか…組み合わせによってはやれんじゃね?
「………くくく…ふははははっ!俺って意外と強いのかもなっ!いや、俺ならやれるっしょ!獣皇武闘会ってのに出てやろうじゃないか!わっはっはーっ!!」
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高笑いをする幼児を見て、お兄ちゃんが不安そうに眉をひそめていた。
「あぁ~…また、シュテンが果てしなく調子に乗ってるぅ…」
「まあまあ、ルシュ君も知ってるでしょ?ボスはあれで結構なんとかしちゃう子なんだから。子供は壁にぶつかるまでは伸び伸びと育てるもんだよ」
「……君は壁にぶつかってるのを見て、ケタケタ笑ってそうだけどね」
恨みがましそうにミュルンを睨むが、この国のプリンセスはどこ吹く風だ。
「だって、ボスと一緒にいると全然飽きないんだもん。毎日が楽しいよ♡」
「気持ちは判るけど、あんまりうちの子で遊ばないで欲しいな」
「あれぇ、もう舅のお小言かな?」
「………そうですね。老後までお世話してもらうのも悪くないかも…」
「あははは!それって千年どころじゃない先の話だよね」
心配している割に、冗談を言う余裕があるルシュルゥ。ミュルンの方も可愛い上司を危険な目に遭わせたいわけではない。ただ…シュテンには不思議な強運があり、いつも大体なんとかなってしまうのだ。まあ、とんでもない失敗をする事も多いが、見ていて笑ってしまうものばかりである。
次はどんな楽しい騒動を起こしてくれるのか、ちょっとだけ期待している二人であった。




