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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第一章
5/61

もふもふ

本日投稿五回目。

本日はこれで終了です。また明日投稿します。


「せぇ~の…高い高~い!」

「ふぉおおお~……きゃはははははっ!!」


 十メートルくらい上空まで放り投げられると、見える世界が回転しながら全方位展開する。

 鳥のように周囲の全てが見渡せて、スリルもあって超面白い。


「こら~っ、ミュルン!危ないでしょうがっ!シュテンは君と違ってデリケートなんですよ!」 

「あははは!ルシュ君は心配性だねえ。だいじょぶ、だいじょぶ♡」


 難なく俺をキャッチしたミュルンが、樹海前の草原を駆ける。


 俺達の家がある霊峰オーエヤムは富士山とは比べ物にならないほど大きいが、その裾野である樹海もとんでもなく広大だ。この霊峰を境に人間の国が三つに別れているそうだが、中腹から見渡しても都市の影一つ見えないほどだ。神話ではかつての世界樹の残骸が霊峰オーエヤムであり、枝葉の落ちた周辺が樹海になったと伝えられている。

 ここまで降りてくると違いに気付くが、確かに俺達の家周辺は霊気や魔力に満ちていた。


 今日は晴れてお友達になったミュルンに、半ば拉致されるように遊びに連れ出されている。

 普段は過保護気味なルゥ兄ぃと家の中でお遊戯しているのだが、”テンマ”の記憶に汚染されて早々に自我が確立してしまった俺にはいささか退屈でもあった。陽キャで活動的なミュルンが幼馴染になってくれた事は、俺の野望的にも大変有意義なのだった。


 それにしても、神獣種という獣人の能力は凄いね。

 三歳児の俺を肩車しながら、物凄い速さで走る九歳くらいのロリっ子。本物の狼と駆けっこしても余裕で勝てそうなスピードだ。

 俺も生まれて初めてのスピード感にわくわくと腹の底から込み上げるものが…


ケロケロロェェ~…


「おえぇぇ……ゔぅ、よっぢゃっだ…」

「ご、ごめんね…シュテン。ちょっと、はしゃぎ過ぎちゃった…」

「ほら、言わんこっちゃない」


 ルゥ兄ぃが俺の背中を撫でながら、生命魔法で体調を調整してくれる。

 うん…確かに三歳児はデリケートでした。ついつい、”テンマ”の記憶を自分の体験と勘違いしちゃうんだよなぁ。


「あ…でも、ほらほら、シュテンのケロケロの御蔭で魔物の方からこっちに来てくれたよぉ。ちょっとお迎えしてくるね」


 確かに…やけに筋骨隆々な凶悪顔の怪物が三体こちらに歩いてきていた。

 まだ、かなりの距離があったが…


「わだいそらちが、ごういんだっちゃい!」

「ふふっ、ミュルンはあまり深く考えず、気分とノリで生きてるからね」


 ああ…だから落ち込むときも半端無いのか。あれで三十年近く生きてきて、未だアホの子認定なんだよな。うぅ、なんて不憫な子…。



 そんなミュルンは俺達にいいとこ魅せるために、早速三匹のハイオークに飛び掛かっていた。


 優に倍以上の大きさの斧ハイオークに跳び蹴りで詰め、斧を蹴り上げて体勢を崩して懐に着地。

 鋼の腹筋にズドン!と拳を叩き込む。


「オブォ!?ゴ…オヴェ~」

「わっ!?ばっちぃ!」


 汚物がかかる前に跳び退る。


「ギャオッ!」


 その隙をついてミュルンの背後から大剣ハイオークが得物を振り下ろす。

 …が、その股を潜り抜けて、幼女がオーク尻にローリングソバット。


「ブッギイイィィーッ!?」


 吹っ飛んだ大剣ハイオークは、悲鳴を上げながら草原に長い轍を刻んだ。


 最後に残った槍のハイオークは早々にやられた二匹を見て…槍をぽいと捨て土下座した。


「ぷ…ぷぎゃ、ぷひいぃ~!」

「え~!もう降参しちゃうの?う~ん…まあ、いいや。じゃあ、また次も遊んでね♡」

「ぷっひいぃ~ん(泣)」


 どうやら知り合いだったらしい。

 やられたハイオーク達も気絶はしているが、大きな怪我はしていなかった。ぺこぺこしている槍ハイオークの顔は引き攣っているので、強制的に遊び相手にされてるようだけど…。




「うほー!みゅるん、しゅっげーっ!!」

 

 俺としては残酷な殺生がなくてホッとしたのもあり、素直に感動させてもらった。


 それと比較して、ルゥ兄ぃは冷めた表情で解説をしてくれる。


「まだまだ余裕がありますけどね。ハンターの基準ならミュルンの強さは…

 近接戦闘:B  汎用性:C  神獣化:S  総合戦闘力:A

 …って感じじゃないかな?」

「おおおおお!?Sがあんにょ?ちょーしゅっげー!!」


 そもそもハンターの基準が判らないけど、Cでベテランパーティ(四人くらい)の討伐レベルというのがライノベの基準だ。ここのギルドも似たようなもんだろう。おそらくSは神獣フェンリルへの変身だろう。


 近接戦闘:Bか…凡人の俺がどれだけスキルを鍛えても、あんな風にはなれないと思う。ましてや、幼くして不老を目指す俺にはな。この歳でちょっとばかし強くなっても誤差の範囲だし、そもそも加護を得るためには最弱を維持しなければならない。

 俺の強みは凡人だった”テンマ”の記憶のみ。ただ、状況によって化けるかも知れないのが異界の知識である。正直、汎用性:Sのルゥ兄ぃの能力を知ってしまうと下手な知識なんて役に立たない気がするが、若さと希望に満ちた三歳児が早々に諦めるわけにはいかない。

 必ずや俺だけのスキルを身に付けて、仲間とともに人間の街へ旅立ってやるのだ!



 俺が輝かしい展望を夢想していると、敵?お友達?を撃退したミュルンが帰ってきた。

 そして、俺の前に膝を付いて頭を差し出す。


「ん?なぁに…?」

「んもぅ!部下がよく働いたらヨシヨシしてあげるのが良い上司なんだって。父ちゃんが言ってたよ」

「じょうしって…おりぇが?」

「うん。君が…ボ、ボスだもん♡」

「なぜにてれる?あ…」

 

 ぽんと手を打つ。


 そういや、ケモ耳をガジガジしてキャイン!と言わせたっけ。

 ただ…あれでマウントは取ったけど、その気になればいつでも奪還できるでしょ?え、そんな気は無いの?いや、俺も友達相手に威張るつもりはないけど、まあ…本人がそれでいいならいっか。

 そういや、犬系統ってリーダーの存在に安心する生き物だっけ?こいつ結構アホの子だし、陽キャの自由人だし、頭を使うリーダーなんて性に合ってないんだろう。


 俺は本人の希望通り、小さな手で紅い髪をアホ毛ごと撫でる。

 勿論、どさくさに白い狼耳をそっとクニャっとしてみるのも忘れない。


「じゃあ、これからはおりぇもミューって呼ぶね♡」

「……うん!」


 ミュルンは嬉しそうにナデナデを受け入れ、ケモ耳を弄られた時はくすぐったそうに赤面していたが、結局最後までされるがままだった。

 あ~…この従順な感じ、”テンマ”が犬派に拘っていたのも判る気がするわ。アホな犬系ロリっ娘が可愛くないわけがないし。

 まあ、ぽっちゃり三歳児である俺の方が可愛いけどなっ!



 その後も俺とルゥ兄ぃは、ミュルンに草原や樹海を引き回される感じで遊びまくった。

 まあ、幼児である俺の活動限界までね。


 俺がウトウトとお昼寝の欲求に抗えなくなった頃、ルゥ兄ぃの帰宅宣言にミュルンがこう言った。


「それじゃあ、あたしが獣化してボスたちを送ってあげる。一瞬で帰れるよ♡」

「なぬッ!?」


 俺も一瞬で目が覚めちゃった。


「神獣化!」


 ミュルンの全身が金のオーラに包まれると、全身が白い体毛に覆われる。身体が大きくなり、四肢が伸び、骨格が変形していく。紅髪も白く染まっていたが、一房のアホ毛だけが紅を保っていた。

 尻尾を入れない体長で三メートルほど。金色のオーラを放つ神々しい白狼が、その雄姿をまざまざと魅せ付けていた。

 

「ふぉおおおおおおーっ!?!」


 すっげーっ!カッコイイ!羨ましい!

 変身は男の子の憧れである。他人の記憶で知っているのと、三歳児の体験で見るのとではまるで違うのである。思えば…ミュルンの父の神狼姿は遠目に見たことがあるのだが(鬣が紅く、体長はさらに倍)、その時は変身シーンは見られず怖いと感じてしまった。それに比べ、ミュルンの神狼は凄味の中にも女性らしい優しさを感じられる。それに頭頂に生えるアホ毛が、ミュルンの面影を色濃くアピールしていて親しみやすい。

 それに…それに…


「も…も、も…」

「…ん…も?」


 犬派の前でその肢体は、据え膳のお預けに等しい!

 こんなん我慢できるかッ!


「もっふもふじゃーーっ!!」

「え…きゃーっ!?」

 

 三歳児にしては異常な瞬発力を発揮して、このもふもふフェンリルの背中に飛び付いた。


「むふぉーっ!こりぇがじつぶつのモフモフ…。そーぞーよりも…よい、よいじょー!」

「ボスぅ!?なんだか触り方がやらしいよ~」


 やらしい?ふむ、初モフモフの動揺で邪心が混じってしまったか?俺もまだまだ若いな。”テンマ”の飼っていた犬は、それはもう信頼し切ったように昇天していたそうだ。これはもう”テンマ”のテクニックを100%ダウンロードするつもりでトレースを…


 俺が犬派の新たなステージに突入しようとした時、横からひょいと抱え上げられた。


「このままじゃ、すぐに振り落とされちゃうからね。ミュルン、ちょっと縛るけど我慢して下さい」

「うん、いいよー」


 ルゥ兄ぃが腰の巾着から何かの種を取り出し生命魔法を流すと、たちまち蔦が生長して神狼の胴体に絡みついた。蔦はルゥ兄ぃの意思通りに変形し、やがて鞍に形を変えた。


 これが汎用性:Sのルゥ兄ぃの特技である。ハイエルフはユニークの生命魔法と風・水・土の属性魔法に高い適性がある。それらを応用したのがこの植物の急速生長で、集落のインフラはルゥ兄ぃ独りで大概のことはこなしてしまう。ちなみにここ数年、魔法の使用頻度が最も多いのは俺のおまる生成とウォシュレット魔法だそうだ。うん、もう一生頭が上がらんね。


 その後、俺を抱えたルゥ兄ぃがミュルンに乗り、怒涛の速度で霊峰オーエヤムを駆け登った。







            ◇







ドドドドド!!

ザザーッ!


「ハイ、とうちゃ~く!ね、すっごく速かったでしょ?」

「………」


 確かに速い。鞍とルゥ兄ぃに揺れも緩和されて、酔う暇も無かった。


 でも、最初あんな危険走行にそのまんま俺を乗せるつもりだったの?落ちたらミンチだよ?死んじゃうよ?

 やっぱり、ミュルンのアホの子認定は正しかったと言わざるを得ない。

 だが、まあ…結果良ければ全て良し。ここはボスとしての度量を魅せておこう。


「ありがと、ミュー。お礼に異世界わんわんまっさーぢをやってあげりゅね」

「え、異世界わんわん?うんうん、やってやってぇ♡」


 ふふ…無邪気な部下を持つというのも、なかなかに面映(おもはゆ)いものである。


「あ~…なんか嫌な予感がするなぁ。オチが読めちゃったかも…」


 ルゥ兄ぃがなんか不穏な事を言ったが、止めないということは大した事じゃないって事だ。


 俺はミュルンを仰向けに寝かせ、靴を脱いでその大きな懐に飛び込んだ。

 そして、”テンマ”の100%ダウンロード版もふもふテクニックを発動した。





 十分後、アヘ顔でピクピク失神する幼狼フェンリルと、その上で爆睡する俺の姿があった。ルゥ兄ぃは予感に従い、ちゃっかり屋内に退避。


 夕刻、ミュルンの父ちゃんが帰宅した時、可愛い娘があられもない格好で異性に組み敷かれる姿を発見した。危うく憤死するところだったという。

 その夜、俺は隣家のおっちゃんにしこたま怒られたのだった。


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