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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第五章
48/61

最弱王決定戦

「うるらーっ!死にさらせーっ!」


ボコンッ!


「ぴっ、ぴぴぃーっ!?」


 間一髪シュテンの振るった棍棒を避けたスライムが、反撃とばかりに幼児のお腹にダイレクトアタック。


「げぶっ!?」


 倒れたシュテンが地面を転がりながら、棍棒を捨てて拳を握り込む。


「オラオラ!生意気なんだよ、この野郎!」

「ピュ!?ぴぎぃ!」


 スライムも負けじと触手の鞭をビシバシ幼児に叩きつける。


 ……などと表現すればまともな戦いかと思うだろうが、傍から見ると…


「うんうん…なんか心が和む戦いだよね~♡」

「そうね~…小っちゃい子たちがジャレてる光景って癒しよねぇ♡」

「ぷくくく…おいおい、そんなこと言ってやんなよ。あれでも真剣に戦ってんだぜぇ~」

「にゃふん…」


 擬音にすれば…ぽこすか、ぷにぽよ、ころころ、ぽてんこてん…である。

 いわゆる最弱王決定戦とでも言おうか。本人たちの闘志が本物なだけに、余計に滑稽さが際立つ構図である。


「もう~、みんな酷いですよ!シュテンはまだ運動神経がちょっとアレなだけで…」

「そうッス!おやびんには筋力が足らないだけっス。もっと鍛えれば…」

「あっれ~?世界樹の雫の効果で、あと十年は成長の見込みがないんじゃなかったかぁ?」

「「うぐぐぅ…」」

 

 お兄ちゃんと子分による擁護の声は、一瞬で封じられた。


 ルシュルゥの制止も聞かず”世界樹の雫”を呑んだのはシュテン自身である。十年の不老を得たということは、ステータスの成長もほぼ止まっているという事に本人は気付いているのかどうか…。

 スライムに出会った途端、新しく獲得した得物を振り上げ「レベル上げだーっ!」と叫んだのを見るに、どうやら気付いてないっぽいが…。

 ちなみに、この世界にレベルアップ(無限に強くなれる)なんてご都合主義は存在しない。



 そうこうする内に最弱魔物と幼児の泥仕合は、既に消耗戦へと突入していた。

 シュテンの顔は蒼く腫れあがりスライムの身体も濁りが多くなって、お互い満身創痍である。いつもならとっくに泣きが入っているシュテンだが、やはり”最弱王”のタイトル獲得はプライドが許さないのだろう。

 もはや決定打を持たぬ者同士、小刻みな打撃でダメージを蓄積していくのみ。あとは互いの意地とプライドと根性が勝敗を分ける。

 

「はぁはぁ、はぁ…ごふッ…んにゃろ~ッ!」

「…ぴ……ぴぃぴゅい~ッ!」


 幼児のまんまる拳とスライムの触手腕が、クロスカウンターで互いに決まった。

 そこで両者限界だったのか、背後に倒れて動かなくなる。


 そして、中立にして最強の審判ファラネールが両者の容体を確かめて、片手を上げる。


「両者ノックアウトでドロー!」


 本人達にとっては、壮絶な戦いの果ての引き分けだった。


「シュテン!」

「おやびん!」


 ルシュルゥとガーグが飛び出し、揶揄う側にいたミュルンが出遅れてそわそわしている。


 抱き上げられて治療されようとしたシュテンが、首を振って息絶え絶えに言う。


「俺よりソイツを治療してやって…。いきなり喧嘩売って悪かった…な」

「…ぴぅ…ぴぴぃん」


 シュテンの差し出した拳にスライムの触腕がコツンとぶつかって…お互い崩れ落ちた。


「シュ…シュテえええぇ~ン!?」

「おやびぃ~~ん!?」


 絶望の叫びをあげてルシュルゥとガーグが号泣するが、痛みに耐性がない幼児が失神しただけである。


 只一人、獣皇ガオルンだけが難しい顔をしていた。


「この状況は………まさか、な」








 現在…一行はヴォルセニア獣王国帝都の付近の森の中にいた。

 ルタンバ王国を飛び立った一行はヴォルセニア獣王国へコゴローの嫁探しに来た…のだが、獄炎竜ファラネールが近付けばたちまちパニックである。少し離れた場所から徒歩で帝都に向かっていたのだが、例によって幼児の我儘で絶賛寄り道をしていたのである。


 ルシュルゥの生命魔法で傷跡も疲労もすっかり癒えたライバル達は、熱い友情の交流も終え…早くも別れを迎えようとしていた。


「我がライバルよ。俺は今日の戦いを忘れない。いつか、また決着をつけようぜ!」

「ぴ~ぴいぃ…」


 心を通わせ友情を育んだ二人は、既にガーグがヤキモチを妬くくらいにはお友達だった。


「じゃあな~」

「…………」


 背を向けて去って行く友をスライムはじっと見つめていた。

 それを獣皇ガオルンだけが…そっと気懸かりそうに盗み見している。


 そして、いよいよ一行が森の奥へと消えようとした時だった。


「……ぴ…ぴきゅいいぃぃ!!」


 スライムが大きく鳴いて跳ねてくる。

 そして、振り返ったシュテンの胸に飛び込んだ。


「おわっ、なんだ!?ん…名前を付けろ?なんか知らんが…じゃあ、スラリンだ」

「ピッキュイイィィ!!」

「わっ!?」 


 突然、歓喜の叫びをあげたスラリンが淡い光を発し、その光がシュテンの胸に吸い込まれる。


 その時、ガオルンが不満いっぱいに叫んだ。


「やっぱり、テイムスキルかよーっ!なんでこんなぽよぽよクソ幼児が…」

「えっ、これってテイムなのぉ?シュテンちゃん、凄ぉ~い!」


 悔しげな獣皇とは違い、ファラネールが羨ましそうな声をあげた。

 ミュルンも驚いた顔で問うてくる。


「父ちゃん、テイム術やテイムスキルって、確か取得条件がめっちゃ難しかったんじゃ…」

「ああ…魔物との死闘から友情の極意を悟るべし…なんて謎掛けじみた取得条件だがな。過去例としてはベテランハンターが親子の魔物に遭遇して戦って子供の方をテイムしてしまったり、元ハンターの商人が森で魔物に襲われて商品の酒を振舞い意気投合したって話もある。要するに、死闘を生き残る力と魔物にさえ慕われる優れた人格が必須ってことなんだろうが…」


 ガオルンの言葉に過保護なお兄ちゃんが首を傾げ…


「死闘って…あくまでも主観ですよね?客観的には微笑ましかったけど…」

「おやびんはオイラ達や年下のカリスマっすよ」

「ア、アタシまでその中に入れないでよね!」


 仲間達にはそれなりに納得できる内容らしい。


「スモールダウンし過ぎだろ、ちくしょう!俺だってずっと欲しかったのにぃ…」


 人族であれば”叡智の宝宮”の影響でスキルが取りやすくなるが、他の種族でも術や技として取得できないわけではない。世の中には”調教”や”飼育”なんてスキルも存在するが、従魔を従えて戦える”テイム”はより上位にあたるスキルなのだ。そして、魔物の多いこの世界でポケモンバトルっぽい事もできる、男子なら誰もが憧れる夢のスキルであった。

 まあ、幼児なシュテンはポケモンより頼りになる仲間にいつも守られているのだが…。


「うっほほーい!スラリン、これからよろしくな~♡」

「ぴっきゅ~♡」

「おやび~ん、ズルいっスよ!オイラもテイムして下さいっス~!」

「んぅ~?ガーくんは舎弟だけど、親友だからやぁだも~ん!」

「そんなぁ~」


 スライムを掲げてぴょんぴょん跳ねるシュテンを、ガーグが懇願しながら追い掛けている。


 本人はレアスキルゲットよりも、新しい仲間ゲットの方が嬉しいようだ。普段から小動物や小魔物と遊んでいるので、テイムといえどあまり特別感が無いのだろう。仲間の態度からしても、得るべくして得たスキルなのかもしれない。

 ガオルンのように全てを力ずくで屈服させてしまえる存在には、友情の極意とは無駄に難解な謎掛けにも感じてしまうらしい。



 帝都から歩いて三十分の森の中、寄り道からのちょっとした幸運エピソードである。

 しかし、このテイムスキル取得が後に帝都で阿鼻叫喚を巻き起こす発端になるとは、この時の一行に気付く者はいないのだった。


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