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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第四章
45/61

お別れと旅立ち

この章はこれで最後となります。

(シュテン視点)



 空も赤みを帯び始めた黄昏時。

 ドラゴン形態のファラ姐に乗った俺達は、王都の上空を旋回しながら最後の王都の景色を焼き付けていた。


 人々が俺達を見上げて騒いでるようだが、まあ今日限りでとんずらする予定なので気にする必要もないもんね。どうせ数日中には、俺達が城でやらかした一部始終が噂で流れるはずだ。

 もう既に、王城の上半分が消失した事に気付いて騒ぎ始めているようだし…。


「あっ…ファラ姐、もうちょっと右。ボロいスラム街との境にある大きな建物の前に降りて」

「はぁい、了解よん♡」


 高度が下がるふわっとした体感を愉しみながら、巨大な真紅のドラゴンが王都の端に舞い降りていく。

 ふはははーっ!何やら叫びながら逃げていく王都民がアリンコみたいだぜ。

 向こうの世界には”虎の威を借る狐”なんて言葉があるが、堂々と大人を利用できるのが幼児の特権である。ファラ姐の威は俺の威なのだ。ビバ、ジャイアニズム!

 あと十年そんな特権が延長されたのだから、”世界樹の雫”をゲットできたのは今回最大の幸運だった。ルゥ兄には後でお説教されそうだけど、こればっかりは俺も譲れない一線なのだ。


 ファラ姐の背中には俺達”霊峰歌撃団”の面々と、ガオルンのおっちゃんとその胸に抱かれて寝ているクソ猫(コゴロー)がいる。なんでも、ファラ姐とガオルンのおっちゃんはコゴローのお嫁さん探しにヴォルセニア獣王国に行く途中だったそうで、俺の召喚にやたら早かったのも近くを飛んでいたからなんだと。

 まあ…いろいろやらかしまくった俺達だが、しばらくこの国から離れてほとぼりを冷ます必要があった。そして、タイミング良く相乗りさせてくれるファラ姐(ドラゴン)がいる。

 これはもう、乗ってくしかないでしょ!

 クソ猫(コゴロー)と同行するのは、めっちゃ気が乗らないけどなッ!!

 


 アリンコな王都民を逃げ惑わせながら、ファラ姐はファイリンザー孤児院前の通りに着地した。


 俺はファラ姐の頭に登って大きく息を吸う。


「おーい!シュテン様が帰って来たぞぉーっ!!」


 アリンコの中には孤児院のお姉ちゃんもいたらしく、ちょっと怖がらせちゃったかもしれない。

 よく通る俺の声が孤児院に届いたのか、真っ先に飛び出してきたのは可愛い弟子達…弟妹合唱団の面々だった。


「「シュテン兄ちゃん!?」」

「にいちゃん!」「あんちゃん!」「お兄ちゃん!?」「にーちゃ!」


 無謀な弟妹達を追いかけるようにお姉ちゃん達も飛び出して来て、ドラゴンの上に立つ俺と仲間達を発見する。


「えっ、シュテンちゃん達なの!?」「そんなところ危ないよっ!?」「皆がどうして…?」


 二十人近くのお姉ちゃん達に説明するのは面倒なので、俺はさっさと話を進めることにした。

 どうせすぐに噂が拡がるし、なんと言っても…俺が”幻の第四王子”だったと知られたら、めっちゃ照れ臭い!


「あ~、俺たち…ちょっと王城でやらかしちゃったんで、ほとぼりが冷めるまでここを離れることにしたんだ。いきなりのお別れで、ごめんっ!」

「「「「「!?!?」」」」」


 俺の言葉を聞いた何人かのお姉ちゃんが、尖塔がごっそりお亡くなりになった王城を指差して口をぱくぱくさせている。小高い丘にある王城は、王都のどこからでもよく見える。

 テンマの記憶で”テロリスト”なんて言葉があったが、似たような言葉を思い浮かべてそう…。


 そんなお姉ちゃん等と打って変わって、純真な弟妹達の反応はストレートだった。


「やだあああっ!シュテン兄ちゃん行かないでーっ!!」

「もう孤児院の子だと思ってたのにーっ!」

「お別れなんて嫌だよぉーっ!!」

「兄ちゃんの薄情者ーっ!!」

「僕も一緒に行くぅーっ!!」

「イヤイヤあああん!!」


 うぐぅ…慕ってくれてた弟妹たちの慟哭は心に響く。

 せっかく距離をとって…格好良く別れを告げるためにファラ姐の上から別れを告げたのに、もらい泣きしちゃいそうだ。

 さっさとお別れの言葉を決めて、ビシッとカッコ良く立ち去らねば!


 俺はもう一つの弟子ユニットである”マッスル聖女隊”に視線を向ける。


「おい、マルチャ!プリモ!」

「「ハ、ハイッ!」」

「アイドルは恋愛もスキャンダルも禁止だかんな!歌唱スキルを得るまでストイックに練習あるのみだ。くくく…俺が教えた”ライオン”をコンサートで聴くのを愉しみにしてるぞ!」

「「ひいいぃ!!」」


 ”ライオン”とはアニメ『マクロスフロンティア』のオープニングで、女性デュエットの名曲と謂われているアニソンだ。いくらこの世界に著作権が無くとも、それに見合う実力とリスペクトが無ければ歌わせられないのだ。


「それからルヴァート!」

「ハイ、師匠っ!」

「コンサートやるならせめて十曲は必要だ。残りはお前の作曲センスとプロデュースにかかってるんだぞ。俺の弟子として、見事その二人をアイドルとして輝かせてみせろ!」

「イエッサーッ!この命に代えましてもっ!!」


 咽び泣きながら応える本職の吟遊詩人。命って…幼児な師匠をどんだけ尊敬してんだよ。


 こうして、曲りなりにも可愛い弟子たちへの言伝は終わった。

 まあ、歌唱スキルには自信あるが…俺が創った曲じゃないから、ほんとは師匠面するのも烏滸がましいんだけどな。

 本当の作者と歌手さんには、俺が心からの感謝とリスペクトを送っておくぜ。


「それから…アリア姉ちゃん!ハンターギルドに生えた大樹の秘密基地第一号はファイリンザー孤児院に譲渡するぜい!あそこのギルドマスターには話を通してあるから、クラン創立に役立ててくれ!他のお姉ちゃん達も、頑張るのはほどほどにして楽しいハンター生活を過ごしてくれよ」

「シュテン君…うぅ、何とお礼を言ったらいいか…」


 フッ…俺に深いトラウマを植え付けたあの拳なら、ハンターとしても大成するに違いない。

 

 直後…俺の後ろからも、にゅっと仲間達が顔を出した。


「今度会う時は、アタシ直々にあんた達の成長を確かめてあげるからねっ!」

「僕の教えたレシピも忘れないでね♡」

「お姉さん達、次に会う時はもっと綺麗になってるッスよ。愉しみッス♡」


「「「「「シュテンちゃああ~ん!!」」」」」

「「「「「ミュルンさまああ~ん!!」」」」」

「「「「「ルシュルゥくうぅ~ん♡!」」」」」

「「「「「ガーグちゃあああ~ん♡!」」」」」


 お姉ちゃん達には酷い目にも遭わされたが、全力で俺を可愛がってくれたのも事実。マウントで圧し潰される生活も、離れる今となってはちょっと寂しく感じてしまうな。


 そして、そんなお姉ちゃんの嘆きに釣られて弟妹たちの号泣が本格的になった。


「ふぐぅ…帰って来なかったら、私達から会いに行ってやるんだからあああっ!!」

「うえっ、えっ…次ぎ会う時には一目惚れさせてやるぅ…うああああん!!」

「ぐすっ…ルシュ兄より楽器も上手く…なってるから…えふっ、ふえええん!!」

「うわあああん!!あんちゃんのバカああああん!!」

「ぶええええ~ん!でも、だいすきいいいぃ!うえええ~ん!!」

「びぃやああああああああああんん!!」


 ロロップ、ストリン、ケイ、ユウ、コムギ、クイン…

 ふぐっ、くそぅ…俺だってお前達のことが大好きなんだからな!

 たとえ十年経っても、お前等は永遠に俺の可愛い弟妹だぜい!


 あ…やばっ!俺の涙腺もそろそろ堪えられなくなってきた。

 弟妹たちに泣き顔を見られまいと、くるっと背を向けて…


ズルッ!

「あっ!?」


 小さな突起を踏み外して、俺はファラ姐の鼻筋を転がり落ちていた。


「のわあああ~~っ!?!」


 ころころと天地が何度も逆転し、鼻先で空中に放り出された俺は…


「シュテンッ!」


 当然のように…ルゥ兄の伸ばした蔦に足を絡め取られ、宙ぶらりんになった。

 そして…こんな体勢じゃ、俺の忍耐力が堪えられるはずもなく…


「ぶええぇえええ~ん!!お、俺だって…お前等と別れたくないんだよぉーっ!もっともっと一緒にアニソンを歌いたいし、一緒に王都の探索もしてみたかった。ひぐっ…ぷっぎゃあああああああぁ~ん!!」


 俺の正直な泣き言に一瞬だけ沈黙した弟妹とお姉ちゃん達は…次の瞬間、共鳴するように大音声で泣き喚き始めた。


うわああああああああああああん!!

いかないでえええええええええっ!!

びぃええええええぇぇえええええん!!

 

 皆とはアニソンで合唱したこともあったが、これほど息がピッタリ合うことは無かった。

 なんせ最強のドラゴンさえドン引きさせる威力があったのだから。


「ううぅ…ほんわかあったかいけど、これほど居たたまれないお別れは始めてだわぁ。シュテンちゃん、もう出発するわね~」


 気を利かしたのか羽ばたきもせず、浮かぶように離陸する獄炎竜ファラネール。


 こうして俺はファラ姐の鼻先で逆さにぶら下がったまま、家族のようなファイリンザー孤児院に別れを告げた。

 まあ、俺はただただ延々と泣いていたんだけど…。


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