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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第四章
44/61

宝物庫の攻防


 蝋燭の光だけが灯る薄暗い地下通路を、宰相を先頭にして霊峰歌撃団の面々は歩いていた。


「おった~からっ♡おった~からっ♡」


 陰気でじめじめした場所だというのに、シュテンの声と足取りはどこまでも陽気だった。


「おやびん、嬉しそうっス」

「当ったり前だぜい!今から俺達が見た事ないようなお宝が見られるんだぞ。そして、それを貰えるってんだから、テンションも上がるよね!」

「慰謝料だから当然の権利ッスね」


 そんな陽気にはしゃぐ二人と違って、ルシュルゥとミュルンだけは警戒を崩さない。なにせ昨日まで暗殺者を送り込んできた黒幕の一人が目の前にいるからだ。


「……さすがに今の時点で僕達をどうこうするとは思えないけど…」

「うん、なるべく早くこの国から出て行った方がいいよね」


 せっかく弟妹合唱団やファイリンザー孤児院の面々と仲良くなったのに、少し残念な気持ちはある。一応、王城に殴り込みに行く前に、そのまま逃亡するかもしれないと皆には言ってあった。

 たぶん…王城を半壊させて宝物庫を荒らした幻の第四王子の噂は、瞬く間にルタンバ王国中に拡がってしまうだろう。権威失墜した王族の箝口令なんて、あそこにいた貴族達が守るとは思えないし…。


 行き当たりばったりなリーダーに代わってお兄ちゃんお姉ちゃんがアレコレ考えていると、不穏な一行は重厚な扉の前まで辿り着いた。

 扉の両脇にはフルプレートの甲冑を着た騎士が二人立っている。


 宰相は騎士と二言三言話した後、壁の文様に手をあてた。

 すると、一瞬だけ文様が光り、ゴゴゴ!と重い音をたてて扉が開いていった。


「この宝物庫には数々の国宝が納められております故、くれぐれも慎重に…」

「ぅわ~い!」

 

 爺の諫言など露ほど聞く気もなく、シュテンは宝物庫に突撃した。


「あっ、こらボス!罠があったらどうすんのっ!」

「罠ぁ!?お、おやびん待ってッス~」

「も~…しょうがないなぁ」


 頼れる仲間(保護者)達が後に続く。








「ふわああ…すっごいキラキラだぁ~…」


 想像通り、宝物庫の中は財宝や国宝がこれでもかと、置かれ・積まれて・並べられていた。

 魔剣や宝剣の類は武具の棚に纏めて並び、拳大の宝石や魔石も綺麗な配置で妖しい光を放っている。


「この地下宝物庫には、この国でも唯一と言える宝物ばかりが保管されております。普通の金銀財宝や金銭は国庫の方に分けられていますので、あくまでも国財の一部ですがね」


 宰相の言葉はシュテンというより、ミュルンに向けられている言葉だ。その意味を正確に感じ取った隣国の姫が、拗ねたように唇を尖らせる。


「えーえー、そうでしょうよ!獣王国(うち)はこの国より税率が格安だもん。いつもカツカツで運営してるから、こんな財宝の山なんて所有してないわよっ!」

「ほっほ…我がルタンバ王国は歴史だけはありますので。しかし、民に慕われるヴォルセニア皇族の在り方は、この大陸に住まう貴族の手本でもあります。決して恥じる必要はないかと」

「ふんっ…それもただの建前でしょ!」


 本心じゃ、国民から税金を搾り取るのが貴族の使命だと思っているに違いない。じゃなければ、こんなに財宝を貯め込めるはずないのだ。

 

 宰相の後頭部にべーっと舌を出すミュルン。

 そんな仲間を余所に、シュテンはお目当てのお宝に飛び付いていた。


「ねえねえねえ、ルゥ兄!これってミスリルの鎧だよねっ!ねっ!」

「え?…うん、間違いなく総ミスリル製の鎧だよ」

「ひゃっほぅーっ!早速ガーくんのパワーアップアイテムをゲットだぜい!」


 神々しい輝きを放つ鎧を、ガーグとともにベタベタ触っているシュテン。

 それを横目にする宰相の苦々しげな表情が対照的である。


「……さ、さすがお目が高いですな。その神銀の全身甲冑はいつか我が国より勇者が現れた時のために秘蔵していた逸品でしてな。この量のミスリルを集めるのに、ミスリル鉱山をまるごと二つは掘り尽くさねばならないのです。金銭的にはそこらの魔剣など比べるべくもない価値があり…」


 蘊蓄を騙る宰相だが、聴いてくれるのはお行儀のよいエルフ少年だけである。


「うおっほん!ま、まあ…これでシュテン様への慰謝料は完済という事になりますかな?」

「はああ!?おっちゃん、なぁに寝惚けてんだぁ?」

「は…?」


 まるで予め用意していた台詞のように、嫌な幼児が宰相の言葉に被せてきた。


「迷惑かけられたのは俺を含め”霊峰歌撃団”の仲間達なんだから、慰謝料は四人分にしてもらわなきゃ困るだろ?んん~?」

「そんな馬鹿なっ!?」

「馬鹿じゃねえよ!俺はいつもルゥ兄にお利巧さんって褒められてんだぞッ!」

 

 お利口ってより、お前のは悪賢いって表現するべきでは!?

 思わずそうツッコみそうになった宰相だが、この鬼畜な幼児の機嫌を損ねるととんでもない目に遭いかねない。父としては最低でも国王としては優秀だったあの方に、殺すより残酷な復讐を果たしてケタケタ笑っていたのだ。


「……と、とにかく、この件は私の一存では…。一旦持ち帰らせて頂き検討を…」

「へえ…それなら、王族の説得はアタシに任せて貰おうかなぁ?」


 ミュルンが指をポキポキ鳴らしながら、ニタァと意地悪く笑った。


「ぐぬぬぅ…」


 宰相が顔を歪めて絶句する。


 つい先程、心が壊れた父親(敗者)の復讐を叫び、三人の王子が剣を抜いて襲い掛かる事件があったのだ。

 そこに待ってました!と割り込んだのが皇女ミュルンで、見事に地獄のボディブローを鳩尾に三連発決めて魅せた。気絶する事もできず血反吐を吐いてのた打ち回る三人の兄の前で、プププと笑う末弟の構図に兄弟の絆を感じたバカはいないだろう。


 今も傷心と腹痛に苦しむ王族に、この鬼畜な連中を会わせるなんて酷過ぎる話だった。


「………わ、わかった。一人一つ、あと三つだけですぞ!」

「やったぜ~!」

「ふふーん、判ればよろしい♡」

「くっ…」


 この瞬間、宰相は本気で引退すると心に誓っていた。

 しかし、国王が使い物にならなくなった以上、これからの仕事量は倍増が約束されている。あの第一王子が戦線離脱を許してくれるとはどうしても思えなかった。




 独り項垂れている宰相を余所に、霊峰歌撃団の面々は笑顔で盛り上がっていた。


「おめでとう、おやびん!オイラはこの鎧で充分ッスから、オイラの権利はおやびんの物っス」

「良かったねえ、シュテン。僕も欲しい物は無いから、シュテンが好きに選んでいいよ」

「えっ、この流れ……ア、アタシだって皇女だからこれくらいの宝は見慣れてるもんっ!アタシの権利も…ボ、ボスにプレゼントしてあげちゃおう…かな?」

「おーっ、皆ありがとー♡」


 聖剣・魔剣の並ぶ棚をチラチラ見ながら、ミュルンはちょっと名残惜しそうにしていた。

 些かセレブの意識が薄い彼女だが、仲間にセコいと思われるのだけは姫のプライドが許さないのだった。



 三つのお宝選択権を与えられたシュテンは、大喜びで財宝を漁りに駆けて行った。

 ミュルンお勧めの魔剣・聖剣のエリアをチラッと見るが、幼児の趣味に合わないのであっさり通り過ぎた。そもそも普通の武具には、幼児サイズが無いのだ。


 そのまま武器エリアを流し見するように歩いていると、不意にその足がピタリと止まった。


「おおお、これカッコイイ…俺、これがいい!」

「えっ…ちょっとボス、本気なのっ?」

 

 ミュルンが顔を引き攣らせ、復活した宰相がガッツポーズよろしくグッと拳を握った。


 それは他の武具のようにプレートはなく、エリアの端に立て掛けられて値札のようなネームが付けられたものだった。

 一見するとただの棍棒。その名札には”ゴブリンの嘆き”と。


「いやいや、さすが王族の血を引くだけあってお眼が高い!一見するとゴブリンが使うような只の棍棒ですが、多くの血を吸って黒光りするこの威厳はオーラさえ感じるほど。しかも、ダンジョンのアイテムなのに神遺物(レガリア)に匹敵する特殊能力を秘めているのです!」


 急に怪しいセールスマンになった宰相に、仲間達の視線は冷ややかだった。しかし…


「おおお~っ!ねえねえねえ、こいつの特殊能力って!?」

「「「あちゃあ…」」」


 おバカな幼児には刺さりまくりだった。


「くくく…この”ゴブリンの嘆き”は攻撃力こそ見たままですが、その携帯性が抜群でして…なんとポケットに入るくらいの大きさに縮小できるのです!」


 宰相が棍棒を手にとって柄尻を二回叩くと、ポフン!と掌に納まるほど小さくなった。


「うっひゃあーっ!?すっげーっ!!」


 宰相がまたミニ棍棒を二回叩くと、棍棒は元の大きさに戻った。


「俺、これに決めた!これがあればコゴローにも絶対勝てる…ような気がするっ!」

「ほっほっほ!」


 明らかに手玉に取られて仲間は不満顔だが、キラキラと無邪気に喜んでいるシュテンを諫めるほどではない。一般的にはあまり使い道のないガラクタでも、子供には立派なお宝なのである。


 老練な宰相は、それからも能力はあれどガラクタに区分しそうな品ばかりを勧めてきた。

 心憎いのは、言葉巧みに浪漫を刺激して幼児の心を擽ってくる事だ。おそらく、孫やひ孫の御機嫌取りで磨いたテクニックなのだろう。

 そうしてシュテンが選んだ三つ目のアイテムは…


ピポぺップピロ~~♪


「ほっほ…どうやら気に入っていただけたようですな。そのオカリナ型の笛は”魔笛ハーメルン”。迷宮産…異界のアーティファクトです。小動物や自我の薄い子供なら陽気に踊らせる効果があるようで、吟遊詩人である坊ちゃんには相性ぴったりの品と言えましょうな」

「ピポ~♡プペ~♪」


 自分で吹いた効果で陽気に踊っている幼児を見下ろし、宰相がほくそ笑んでいる。


 傍から見ている仲間達としてはなんとなく気に入らないのだが、当の本人が喜んでいるので口を挟めない。どれほど価値が高くても、幼児の好みに合わなければ何の意味も無いのだ。

 元々はゴネて譲渡枠を増やしたので、慰謝料としてはもう充分儲けているというのもある。



 そうして、宰相の誘導に翻弄されているシュテンが、いよいよ最後のアイテムを決定しようかという時だった。

 愉しげにアイテムを眺めるその視線が、とある宝から動かなくなった。


 それに慌て出したのは、それまで勝利の笑みを浮かべていた宰相である。


「そ、その王冠だけはなりませんぞ!何せ我が国の王権の象徴ですからな。それに坊ちゃんの趣味には合わないと思いますが?」

「うん、まあね。けど…なんか目が離せないんだよなぁ…」

「ふむ、それは真ん中に填められた宝玉が神気を放っているからでしょう。国王の威厳を強化するためのちょっとしたギミックですな」

「ふーん…」


 種が判ればそれ以上の興味はなくなる…はずだった。

 後ろでエルフ少年がポツリと呟くまでは。


「あ、世界樹の雫…」

「…っ!?」

「おおっ、さすがエルフですな!知っておいででしたか?」

 

 宰相が声をあげたその後ろで、シュテンが強く反応していたことは誰も気付かなかった。


「そう、今から二千年ほど前になりますか…。邪神の侵攻によって世界樹が倒された時、生命の力が凝縮して零れ落ちたものが”世界樹の雫”と謂われております。一つ食べれば寿命が十年延びると伝承にありますが、不老長寿に取り憑かれた貴族によって醜い争いも勃発したようで。おそらく、この時代まで遺った物はもうこれだけでしょうな」

 

 素直に蘊蓄話を聴いてくれるルシュルゥが気に入ったのか、宰相はシュテンに背を向けて話している。

 その背後ではシュテンがルゥ兄にも見えない角度で、ミュルンにハンドサインを送っていた。

 ”話を長引かせろ”と。

 そして、ガーグとこしょこしょ内緒話を始める。


 ???を浮かべたミュルンだが、基本的に悪戯には悪ノリしていくタイプである。後の責任はボスに丸投げしてやると決め、宰相に話し掛ける。


「ねえねえ、宰相さん。寿命が十年延びるなんてどうして判ったの?当時はまだ迷宮産の鑑定台なんて無かったよね?」

「ふむ…確かに寿命の判定なんて判り難いでしょうな。しかし、寿命を延ばすというのは便宜上の言葉であって、実際にはその姿のまま十年の刻を止めるという能力で…」


 気持ち良く語る宰相の後ろで、王冠にそろ~っと近付くガーグ。

 そして、世界樹の雫の填め込まれた銀の台座に触れ、土魔法を流し込んだ。


「「…っ!?」」


 魔力の気配に振り向く宰相とルシュルゥ。

 その時には、ガーグの掌の中にぽろっと宝玉が落ちていた。


「こらあっ、何をしているッ!?」

「ガーグっ!?」


 今回ばかりはルシュルゥに意図を悟られる前に行動せねばならない。

 ガーグは即座に宝玉を投げていた。


「おやびんっ!」

「ナイスだ、ガーくん!」


 狙った先には、大口を開けたシュテンが待ち構えていた。

 運動神経は鈍チンのシュテンだが、普段からオヤツのひょいぱくキャッチで遊んでいるため、これだけはミュルンより上手い自信があった。


ひょい…パックン!


「ハッ!?シュテン、駄目ぇーっ!」


 普段は兄に対して素直な弟だが、にっこり笑ってゴックンした。

 すぐにシュテンのぽっこりお腹がぼんやり光り、全身に拡がっていった。


「「あああぁ…」」


 宰相とルシュルゥが、がっくりと膝を落とす。


 宰相は歴史ある国家権威の一つが消失した事に。ルシュルゥは人として在るがままという教育方針が崩壊してしまった事に…だ。


「ルゥ兄…ごめんなさい。でも、俺…ずっとルゥ兄と一緒にいたいから…」

「シュテン…僕だってその気持ちは凄く嬉しいんだよ。でも、いつかお別れしなきゃならない事は忘れないでね」

「…ル、ルゥ兄ーっ!」


 ひっしと抱きしめ合う兄弟。


 愛しい弟に真っ当な人の生を歩ませてやりたい。ルシュルゥの責任感あるその想いはそこらの親よりも強いだろう。ただ…唯一の家族を慕う幼児(シュテン)の執着心が、それを更に上回っているだけ。

 たぶん十年後も、同じ悲喜劇が繰り返されるに違いない。


「「♪♡♫」」


 ミュルンとガーグが互いを見合わせ、嬉しげにコツンと拳をぶつける。


 真面目なお兄ちゃんは人として”停滞”だと嘆くだろうが、そもそもシュテンの器が人の社会に収まるとも思えない。今回の事はシュテンが長命種と共存する上でも、良い試金石になると思う。


 彼等二人はこの楽しくて退屈しない日々を、もっともっとず~っと続けて行きたいのだ。


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