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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第四章
42/61

保護者召喚

プライベートでしばらく休止してました。

またボチボチ投稿していきます。

「やいやいやい、てめえが俺の親父だな?幼児の勘にビンビン来ちゃったぜ!五年前、大樹海に俺を捨てただけでなく、今になって大量の暗殺者までよこして来やがってぇ!いい加減にしろよ、この極悪人野郎がぁーっ!!」

「んなあッ!?!」


 いきなり幼児に不祥事を全部暴露された。

 国王ジューダスが権力や話術で握り潰す暇もなかった。


「なんとッ!?あの小僧が陛下の隠し子だとっ!?」

「確かに、あの見事な金髪は王族だと言われても…」

「よく見れば、面影が王子たちの幼い頃にそっくりではないか!」

「宰相殿、貴殿は何か知っているのではないのか!?」

「陛下ッ、どうか御説明をっ!」


 案の定、宮廷は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。


 そんな騒動の中、大柄な甲冑姿の老将軍…ジオニダス=ギネーブ伯爵はストンと腑に落ちる感覚を覚えていた。

 初めてシュテンを見た時から、三人の王子に似ているとは思っていた。ただ、あの天真爛漫でハチャメチャな悪童ぶりと、ふっくらぷくぷくな外見の所為で確信がもてなかった。やっと真相が知れたと思えば、国王の子殺しという知りたくもない大スキャンダル発覚である。何故、我が子を殺す必要があったのか不明だが、これが広く国民に知れ渡れば国王ジューダスの失脚は免れないだろう。

 だからこそ、国王の次の一手も容易に予想できた。


「ぐぬぬぅ…ライナスへの暴行に続いて、衆目の前で余の実子を騙るとは王家の血統への侮辱に他ならぬ!もはや幼子とはいえ許してはおけんっ!近衛よ、今すぐ此奴を斬り捨てよッ!」

「「「ッ!?」」」


 あまりにも無情な命令に、近衛騎士が即答もできずに凍り付いていた。


 そして、これを聞いたジオニダスの疑念は確信になった。おそらく、多くの者が同じ考えに到達しただろう。しかし、それを口にすることは同時に国王の破滅を意味する。疑念を訴えるだけで王家への謀反と捉えられかねない。


 国王へ声を張り上げていた貴族連中も、ピタリと押し黙っていた。


(くっ、どうすれば…。これまで平穏な治世を築いてきた名君の失脚と、真実を訴えた幼子の命…どちらかを選ばねばならぬのか?いや、事はそれだけには収まらぬか…)


 迷いながらものろのろと動き始めた近衛兵に反応するように、ミュルネシア姫とエルフの少年と背の縮んだ鎧騎士がシュテンを護る配置に付く。


 非常にマズい展開だ。彼等の戦闘力が侮れない事もあるが、敵対するのが隣国…ヴォルセニア獣皇国の姫である事が最悪だ。獣皇の正体は人類の守護者であり、獣神フェンリルである。ひとたび怒らせれば確実にこの国が滅ぶ。それが分かっているからこそ、近衛騎士の動きも鈍いのだ。


「ぐぬぬぅ…」


 頭に血が昇っていた国王も、徹底抗戦の構えを見せる隣国の姫を前に追加の命令を下せないでいる。

 貴族連中はこの場に居合わせた己の不幸を呪っている。

 将軍である自分でさえ、何をどうすればいいのか判らない状況なのだ。


 完全に事態は硬直していた。


 そんな地獄の緊張の中、一人だけごそごそと行動する者がいた。

 元凶の幼児シュテンである。

 周りの緊張を歯牙にもかけず、小さな手でもどかしそうに胸元のボタンを外して銀鎖を引っ張り出していた。


 銀鎖の先には小さな角笛。

 所々金の装飾が散りばめられ、幼児の玩具にしては不釣り合いな代物。


 元凶の悪童はおもむろに角笛を咥えると、思いっきり吹き鳴らした。


プルップ、プッペッピィーッ!!


 緊張感の無い音が謁見の間に響き渡る。

 そして、それだけだった


 静寂の中、近衛騎士や貴族達も空気を読まぬ”悲劇の王子”に非難の目を向けた。


「あーあ…ボス、それを吹いちゃったんだ」


 戦いの興を削がれたとでも言いたげに、ミュルネシア姫が脱力していた。


「ふっふーん、幼児のトラブルは大人にチクるのが常套手段なんだぜい」

「あわわわ…シュテン!駄目な大人に頼ったら、余計に収拾つかなくなる事だってあるんだよ!」

「こりゃ、被害拡大ッスね」


 なんか不吉な事を言い始めた子供たちに、国王ジューダスは思わず問いかけてしまった。


「貴様等ッ、いったい何をしたというのだっ!?」


 それに答えたのはお姫様の演技を捨てたミュルンだ。


「その角笛の名は”ギャラルホルン”。うちの父ちゃんが持たせた神遺物(レガリア)だよ。どれだけ離れていても望んだ相手に笛の音を届けられる。それだけの能力だけどね」

「なっ!?し、しかし…この状況で誰が駆け付けると…」


ゴッガァアアアアン!!


 突然、轟音とともに謁見の間の側壁が吹き飛んだ。


「ミュルン、大丈夫かあッ!?父ちゃんがやって来たぞーっ!!クソ餓鬼に卑猥な事なんてされてねえだろうな!!」


 巻き上がる土煙の中、溢れる覇気とともに巨大な白狼がギャンギャン吠えていた。


「アハハハ…思ったよりも近くにいたみたい…」


 他人のフリをしたいのか、ミュルンがガーグの背にしゃがみ込んだ。


「ひいいぃぃッ、モンスターがっ!???」

「ま、まさか神獣フェンリルかッ!?!?」

「ヴォルセニアの皇帝がなんでっ!?」

「まさか、単騎での侵略かッ!?」


 三百年前の大敗北の記憶が引き継がれているのか、貴族連中は予想以上に大混乱だった。


 そして、明らかな侵略行為に近衛騎士が飛び出して行くが…


「ぎゃあっ!?」「ぎえっ!?」「ぶはっ!」「げえっ!?」


 ぺしぺし前肢で叩き飛ばされる近衛騎士。悠々と子供達に歩み寄る神狼を誰も止められない。

 もはや完全に形勢は逆転していた。

 国王ジューダスはその光景を歯噛みしながら、悔しげに睨みつけるしかなかった。


「ガオルンのおっちゃ~ん!来てくれてあんがとな~っ!」


 シュテンがぴょんぴょん跳ねて飛び付こうとするのを、ガオルンが厭そうに顔を背ける。


「別にお前のためじゃ…って、なんでお前が”宣戦の角笛(ギャラルホルン)”を首に掛けてんだよ!?」

「ふむ、部下の所有物はすなわち上司の所有物という不変の法則があってな」

「んなわけあるかーッ!!」


 二人だけにしておくとまた漫才を始めそうなので、やれやれ…とミュルンが割って入る。


「ハイハイ、そこまでにしようね。……父ちゃん、なんか対応が早かったね」

「ミュル~ン、お前がいなくて父ちゃん寂しかったんだぞぅ♡」

「も~っ!いい加減、子離れしてよねっ!」

「オホン…実はたまたまファラと獣王国へ行く途中だったんだ」

「えっ、ファラ姉も一緒だったの?すっごい嫌な予感がするんだけど…」

「わはははっ…俺もだ!」


 場を弁えぬマイペースな談笑。

 そんな連中に無視されて、国王はもう我慢の限界であった。


「ええい、獣皇国皇帝ガオルンよ!城を破壊しての強行、いかに貴殿とて無礼が過ぎるのではないかッ?」


 家格としては歴史ある王国の方が遥かに格上だ。生物として敵わなくとも、無礼者に遜った態度をとってやる謂れなどない。武力に関しては…言わずもがな。


「おう、それはスマンな。可愛い娘が心配だったんでな」

「ぐぬ…」


 まさしく、その姫と敵対していただけに何と言うべきか。

 こちらは忌子を始末したいだけなのに、邪魔者が次から次へと…。



ゴオオオオオオーッ!!


「「「「「「ッ!?!?」」」」」」


 突然、謁見の間の高い天井が凄まじい炎に包まれる。

 見上げる視界が紅蓮からゆっくり降り注ぐ灰へと変わり、やがて…一面の空だけとなる。


 その間、恐怖に硬直した人間達は震える事しか出来なかった。

 信じられない高熱は天井を含め莫大な量の石材を蒸発させたが、しかし不思議なほど下にいる人間達に一切害を及ぼさなかった。


 そして、広い空の真ん中には一体の巨大なドラゴンの姿があった。


「ま、まさか…獄炎竜…ファラネールだとっ!!」

「魔竜の侵攻だあーっ!!」

「城に乗り込まれるなんて…この国は終わりだあーっ!!」


 まず真っ先に貴族達が恐慌に陥った。

 王族を守るべき近衛騎士も、あまりの格の違いに棒立ち状態である。


 混乱・発狂している下等生物を見下ろしながら、当の本人は陽気な声で宣った。


「おーほっほ!私の可愛い子豚ちゃんに呼ばれてただいま参上(惨状)よ。シュテンちゃん、お姉ちゃんがやって来たわよぉ!!」

「おおぅ!あんがと、ファラ姐っ!」


 ぴょんぴょん跳ねて歓迎するシュテン。

 その後ろでは一番めんど臭いお人が…とルシュルゥ・ミュルン・ガーグの三人が頭を抱えていた。




 パニックに陥った聴衆の前で、真紅の巨大なドラゴンが突如光に包まれて縮んでいく。

 シュテンが駆け付ける頃には、獄炎竜は綺麗な装いを纏った妙齢の女性になっていた。


「ファラ姐ぇ~っ♡」


 ぴょ~んとファラネールの胸に飛び込むシュテン。

 それを優しく抱き留める竜人の姿は、まさしく母のようで…。


「ぶにゃあ…」


 しかし、美女の肩に乗る天敵の姿を見て、無垢な幼児の顔は一瞬で鬼に豹変した。


「なっ、コゴロー!なんで貴様がここにっ!?」

「あら、それはね…」

「悪即斬ッ!死ねや、バカ猫ーっ!」


 答えを聞く前に、幼い悪鬼が目の前の猫に殴りかかる。

 …が、


「ニャッシャア!」


バリバリッ!

「うぎゃあああっ!!」


 柔い顔面に容赦なく×の字のひっかき傷を受けて、シュテンが転がり落ちた。


「ああぁあああぁあああーッ!!」


 幼児とはいえ罪業の流血を刻んで泣き悶える姿は、まさしく悪即斬!(被)の体現者であった。




 突然の闖入者と即落ちコントに呆気に取られている聴衆の中、追い詰められた国王だけが憎悪の眼でかつての我が子を見つめていた。


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