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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第四章
35/61

大樹のセキュリティ

タイトル変更しました。読み方は シュテンどうじん です。

元からその予定でしたが、序盤で風呂敷を拡げるのもどうか…と迷っていました。


「低能な平民よ、今すぐここから立ち去るがいい!このヘイアン王国王都ルタンバにおいて王城さえ見下ろさんとするこの大樹は不敬の象徴。よって、今からこの第三王子である俺様マリウス=フォン=ヘイアンがこの大樹を接収するっ!」

「……かっちいいぃん!」


 横柄な物言いをする王子に、条件反射でシュテンが切れかけた。


「あっちゃあ…ッス」

 

 明らかな相性の悪さにガーグはその後の展開を容易に予想したが、そんなオヤビンの蛮勇を止めるという選択肢もまた無い。蛮勇も讃えるべき勇気の一つなのだ。


「帰れっ、クソ王子!お前に恵んでやる部屋はねえよ。他人に物を強請(ねだ)るなら、まずは口の利き方から学んで来いや!」

「「「なっ!?」」」


 小さな五歳児に下から見下された王子一行は、ポカンとしたまま二の句が継げなくなった。


 小馬鹿にしたように悠々と部屋へと引き返していく生意気幼児の背を睨み、第三王子がわなわな絞り出すように問うた。


「な、なあ…アイツは王子である俺様を…侮辱したのか?まるで、物乞いを追い払うように…」

「マリウス王子、落ち着いて下さい!相手は幼過ぎて身分の分別がつかないのです」


 騎士たちが王子の暴走を抑えようとした。…が、


「落ち着いて堪るかッ!どう転んでも極刑しかありえんだろうが!直ちにアイツを斬って捨てろッ!」

「「「は、ハイッ!」」」


 内心嫌々ながら幼児を追いかけ、部屋に突入する騎士たち。


「「「「「ッ!?」」」」」


 その足が…部屋に入って数歩で止まった。


「む…お前達、さっさと始末しろよ!これだから未熟な騎士は役に立たんと…」

「お、王子っ!入って来てはなりませぬッ!」

「この部屋には…」


「はぁ!?幼子相手に何を警戒する必要が…」


バタンッ!

「っ!?」

 

 マリウス王子が部屋に入った瞬間、背後でいきなり扉が閉じた。


 そこまで至って、マリウス王子は騎士達の足が細い根のようなものに覆われているのに気付いた。


「お前達、何だそれは!?」

「くっくっく…知りたいか?では、間抜け面が似合うバカ王子くんに特別に教えてやろう」

「なんだと、貴様っ!」


 ついには怒りに任せて剣まで抜く王子だが、既にその足にも細い根が絡みついていた。


「マリウス王子っ、ここは我々が!」

「もはや幼児とて容赦はせんっ!」


 罠に嵌められたと知った騎士達が、殺気立ってざくざくと根を断ち始めている。


「あーあ~、大人しくしてりゃいいのに…。大樹の疑似精霊に侵入者と認識されたら、この部屋に寄生している魔樹も敵に回すんだぜい」


 本来、これほどの大樹にもなれば精霊が宿るのも不思議ではないが、自我ばかりは人と数十年一緒に暮らすなりしないと育たない。故にその代わりとしてルシュルゥは、セキュリティの条件付けを与えて疑似精霊として運用したのだ。

 今はまだマイコン程度の知能しかない疑似精霊だが、マスター登録された弟妹合唱団とともに自我を育て、やがては彼等の良き友人となる事が約束されている。

 そして、譲り渡すシュテン達の方も、後先考えずに拾ってしまった仔犬を後輩に頼んで育ててもらう感覚である。子供の世界はその場のノリと好奇心で構成されているのだ。


 さて、そんな疑似精霊が己を傷つけられた時の対処も、ルシュルゥによって条件付けされていた。

 まずは宿主として寄生したマンイーターに攻撃命令を発した。


 壁に擬態していたマンイーターがぞわぞわと蠢いて、その強靭な蔓を鞭のように叩きつける。


バシッ!ベチィッ!ビシッ!


「うおっ、痛っ!?」

「へぶっ!?」

「うぎゃっ!?」


 殺傷能力こそ無いが、かなり嫌な痛い攻撃である。それでも鎧を着ている騎士達は比較的耐えられたが、剣しか帯びていなかったマリウス王子は結構悲惨だった。


「あだっ!?痛っ!ぐあっ!?お前等…は、早く何とか…しろぉーっ!!」

「は、はいっ!あぐっ!?」

「た…ただちに…!」


 騎士達は絡みつく足を引き抜き、王子のために身を呈して剣を振るう。

 幾つもの蔓が断ち切られて床に落ちた。


「あーあ…第二攻撃形態のトリガーが…」

「ドツボっスね」


 呆れた声を出しつつも、ニヤニヤと愉しそうな主従。

 弟妹たちも摩訶不思議な秘密基地の防衛力にわくわくが止まらない様子だ。


 どっしりと裏ボス感を出すふくふくガキ大将に、後ろにいた幼児達も目を輝かせて沸き上がった。


「すっごーい!さすが、あたち等のシュテン兄ちゃん!」

「ふふん、バカ王子ってロロ姉より単純そうだわね」

「おれ…騎士様ってもっと凄いもんだと思ってたのに…」

「ちょっと…後が怖いような…」

「シュテンお兄ちゃんが一番素敵…」

「ばうばーっ!」


 自分達がマスターとして譲り受けた秘密基地の価値も知らないまま、無邪気に囃し立てている。


 第二攻撃形態は天井の擬態が解けることで始まった。


 天井にゴツイ向日葵(ひまわり)のような花が、真下に向かって並び咲いた。

 そして、それに気付かぬ王子一行の真上で…一斉に爆発した。


ドバアァンッ!!


「ぶへッ!?」「ぎゃあ!?」「うげっ!?」「おごっ!?」「げあっ!?」「がっ!?」


 クレイモア地雷のような無慈悲な種子の雨を脳天に受け、王子以下六人が床に倒れ伏せる。

 辛うじて気絶しないよう、威力は最大限の痛みを与えるために調整されたものだ。


 頭を抱えて呻き声をあげる一行の上では、次の花が開花し始めていた。

 毒々しい紫の花から蜜が滴り落ちて、倒れ伏した者たちを濡らしていく。


「んぎぃ!?」「こ…この蜜は…」「あががが…」「し…痺れ…毒か!?」「う、動け…な…」


「ぐぅ…ぜったい…殺し…てや…」


 動揺するだけの騎士とは違い、屈辱と苦痛にまみれたマリウス王子は怒りで震えていた。


 そんな王族を敵に回す恐ろしさを知ってか知らずか、毒花が枯れるのを確認して子供達がニヨニヨした顔で歩み寄る。

 そう…正座後の悲劇の如く、痺れて痙攣する騎士達は幼児にとって格好の獲物だった。


「ここが痛いの?それとも…ここ?」

「うぎゃああああ!?」


「たん、たたたん!どん!たたたん!」

「ひいいい!俺で…遊ぶなあああっ!!」


「つん、つん、つん、つつつん…たのしい…」

「あひぃ!はぁ、はぁ……もう…許して…」


「あたち等のシュテン兄ちゃんをイジメようとした罪は…重い!」

「んぎゃあああっ!!背中で踊るなあああーっ!!」


「ふっふっふ…何かに目覚めそう。ふみ、ふみ…」

「いぎっ!?ぎゃっ!ひぐっ!あぎゃあ!」


 幼児ならではの無邪気な拷問の中、シュテンとマリウス王子の間には険悪な空気が流れていた。

 それもそのはず、シュテンの足は王子の後頭部をむんずと踏み付けていたのだ。


「こ…殺す!ぜったいに赦さん!」

「ふふん、やれるもんならやってみそ」


 恨みと殺意が溢れる王子に対し、シュテンは余裕の表情である。

 大樹海では、お山を下りる度に凶悪な魔物に襲われてきたシュテンである。ぬるま湯に浸かった我儘王子の殺気など屁とも思わないのだ。

 それよりも、顔を見た途端ムカついて頭を踏んづけた自分の行動に戸惑っていた。


「オヤビン…」


 ガーグは二人の顔を見比べながら、腑に落ちるものがあった。

 この出会いからの対立はやはり運命だったのだ。

 二人の顔や髪色などの特徴があまりにも似通っている。おそらく血縁…シュテンを捨てた親と何らかの関係があるのだろう。脳天気なシュテンは全く気付いていないが、本能的に相容れぬ存在だとは感じているようだった。

 王族相手に喧嘩を売るなんて無謀もいいところだが、そんな己に正直なオヤビンだからこそガーグは心酔しているのだ。シュテンの進化形紙芝居(アニメもどき)によって勇気を知り、彼を見本として共感しながらガーグは様々な感情を獲得していった。血の通わぬゴーレムの身体に勇気を漲らせ、感情を昂らせることが出来るのも、大部分でシュテンと共感・共鳴している御蔭なのだ。たとえこの国の軍隊が押し寄せて来ようとも、ガーグは死ぬまで恩人で友人であるシュテンのために戦うだろう。

 それこそがガーグが憧れ、己に課した勇者の在り方だった。


 そして、その場のノリでロールプレイ(おままごと)を始めるのも、オヤビンの憎いところである。


「フハハハハハ!それでは不良勇者よ。屈辱に塗れながらしばしの眠りに就くがよい。また再来しようとも、我が魔王城はいつでも貴様等をおちょくってやるであろうぞ!」

「きゃははは!シュテン兄ちゃんカッコイイ!」

「よっ、魔王様!」

「ここって魔王城だったの!?」

「さすがお兄ちゃん!」

「けっこん…する?」

「あう、あう…あーっ!」


 二歳のクイン君の勝ち鬨に合わせるように天井に白い花が咲く。

 やがて、眠りの花粉が王子一行に降り注ぎ、不届きな侵入者はカックンと意識を落とした。


 後片付けは最終防衛ラインのトレントが枝を伸ばして、騎士達を次々と詰所横の穴…滑り台へとボッシュートしてゆく。

 初めから遊具という扱いだったが、実はこれが本来の使い方なのである。


「よーし…これで邪魔者も排除したし、やっと滑り台で遊べるぞーっ!」

「「「「「やったーっ!!」」」」」


 歌の練習も楽しかったが、やはりお遊戯全開で遊び倒したいお年頃である。


 下で積み重なっているであろう王子一行をいないものとして、幼児たちは元気に横穴へ飛び込んで行った。



 その後、お昼寝の時間まで何度も滑り台を往復した幼児達によって、クッション代わりになっていた王子一行は全身足跡だらけにされた。

 トボトボと王城へ帰還する一行の中で、王子のキンキン声だけが煩く響き渡っていたという。


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