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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第四章
34/61

デジャブの邂逅

ピ~ヒョロ~♪

どん♪だん♪タタタッ♪

ジャジャ~ン♪


 昔のチンドン屋みたいな混沌に満ちた音合わせが終わった。


「ねえねえ!シュテン兄ちゃん、あたち達の演奏どうだった?」

「ふふ~ん、この子達、けっこう上手いでしょ?なんせあたし達の弟だもん…」


 真っ先に詰め寄ってきたのはドワーフ幼女のロロップで、ツンデレが標準装備なのがウサ耳のストリンだ。


「おれ…この楽器、凄い楽しいっ!」

「ドラムの方が…面白い…」

「シュテンお兄ちゃん…ちゅき♡」

「だあ~おぅーっ!?」


 自信満々で聞いてくる弟妹たちに、俺は正直に答えるべきか一瞬悩んだ。


「う、う~ん…まあ、初心者にしては?」

「「「「「ええ~~!?」」」」」


 まあ、本物のアニソンを聴いた事がない弟妹たちじゃ、基準が甘くなってしまうのも仕方ないよな。ルゥ兄ぃのように、いきなり俺の歌に合わせてアレンジ演奏できるはずもないし…。

 

 霊峰歌撃団の後継であり下部組織として育てている弟妹合唱団だが、彼等にはまだまだクリアせねばならない問題が山ほどある。

 その一つが…バックミュージックの存在である。

 選曲の物珍しさと天然無垢の可愛さもあって彼等のパフォーマンスは既にお金を稼げるほどなのだが、やはり純粋な技術レベルで考えるとまだまだ拙いのである。今までは吟遊詩人付きのマッスル聖女隊との共演で浮き彫りになっていなかったが、バックミュージック無しでは観客をアニソンのノリに惹き込むことはかなり難しいのだ。俺のように、二十数年分の熟練度を歌唱スキルにぶっこんだチート野郎じゃなければ…ね。


 そんな訳でルゥ兄ぃ監修の下、男児三人の素質に合わせた楽器を持たせてみたのだ。この試みは半ば成功しており、物心ついて間もない彼等は早速新しい個性を身に付け始めていた。

 ここで改めて”弟妹合唱団”の面々を紹介しておこう。


 まずはリーダーのドワーフ幼女ロロップだ。自称あたち。ドワーフは人間の倍の寿命があるが、それに比して成長も遅い。年齢は五歳だが、背丈は三歳~四歳児並み。陽気で好戦的だが、弟たちの面倒見はとても良い。孤児院でお姉ちゃんチョップの被弾率が最も高いが、身も心もタフなので反省が追い付かず勢いに任せて暴走しがち…。

 次はサブリーダーのウサギ獣人ストリン。ツンデレな性格であり、数多のお姉ちゃんチョップを避け続けた歴戦の兎ちゃん。足が速く孤児院で最も被弾率が低いが、長姉であるアリア十二歳の光速チョップは未だ避けられないらしい。何故かロロップの拳骨は良く当たるが、敢えて絡みにいくスタイルからして結構な寂しがり屋なんだろう。


 そして、ここからが新しい個性が芽生えた三人の弟たちだ。


 まずルゥ兄ぃが作った小さな改造リュート(ギター)を首から提げてるのは、最近”男の娘”から少年へ脱却しつつあるケイくん四歳だ。おそらく、自分だけの特技を得て自信を得つつあるのだろう。

 同じく四歳のユウくんは、ルゥ兄ぃ特製のドラムスティックで身体に吊り下げた複数の太鼓を叩いている。普段は歌う時以外口数の少ない彼だがどうやら没入タイプらしく、ドラムスティックを貰った直後から様々な物をコンコン叩いては反響を確かめている。

 三人目はちょっと遅生まれのコムギくん三歳である。器用な彼にはエルフ族に伝わる横笛を渡してあるが、綺麗な澄んだ声なので歌を主に間奏やソロ挿入の時に横笛にコンバートさせている。問題なのは…将来の夢は俺のお嫁さんになりたいらしい。一部特殊嗜好のお姉ちゃんたちに気に入られている所為か、ちょっとぽやんとしている超可愛い子(♂)である。大きくなるまでには、是非とも普通の感性を身に付けて欲しい…。


 そして、最後の特別枠は将来有望な二歳のクインくんだ。

 移動時はいつもロロップの背中に抱っこ紐で括りつけられているし、まだ「あー、うー」しか話せないけど一番音感が優れている超逸材だ。今は音程のベースとなるガイドボーカルとして活躍しているが、将来は最速で歌唱スキルをゲットして、弟妹合唱団のリードボーカルになるだろう天才だ。ここぞというタイミングで奇声を発するので、空気を読む才能やアピールする胆力もある。


 こんな頼もしい後輩に出会えたことは、俺達”霊峰歌撃団”にとっても幸運だったと思う。


 厳しい練習も一段落というところで笑顔の絶えない俺達の下に、ガーくんが胸に壺を抱えて外出から帰ってきた。

 もの凄く良い匂いを漂わせて…


「みんな~、お待たせしたッス~!休憩して串焼きを食べるッスよ~!」

「「「「「「「やったあ~っ♡」」」」」」」


 練習より息がピッタリだな。

 お金が稼げるようになったんだから自分等もその気になれば買えるのに、相変わらずお金は全額孤児院に献上しているようだ。コイツ等にはどんな魅力的な誘惑よりも、お姉ちゃん達に褒められて頭を撫でられる以上の御褒美はないらしい。ちょっとおバカだけど可愛い奴等だぜ。



 さて、そんな俺達がピクニック感覚で串焼きを頬張っているこの場所は、たぶんこの王都で一番見晴らしの良い場所……ハンターギルド横に生やした大樹の上である。

 枝葉の敷き詰められた台地は真ん中の方はちょっとふわふわしてるが歩きやすく、端に行くほど雲の上にいるような感触になり、一番端の方だと股までズボッと埋まってしまうので俺達幼児にも安全だ。

 ルゥ兄ぃいわく、かつて世界樹の上に住んでいた天上の神々の環境を再現したものだそうだ。日本神話の高天原や、ギリシャ神話のオリュンポスなんかにあたる場所だったのかもな。


 世界樹ほどではないが、この大樹の生活環境もかなり秀逸だ。

 ハンターギルド本部二階の端部屋を門番詰所兼ガーくん(ガーグ)の部屋として、幹の中にリビングルーム・その上にミュー(ミュルン)の部屋・さらにその上がルゥ兄ぃと俺の部屋となっている。

 しかし、俺達は目的を達成したら王都を去ってしまうので、その後はこの秘密基地を弟妹合唱団に譲るつもりである。セキュリティ登録もしてあるので安心だ。ロロップ達もしばらくはこの秘密基地を満喫するだろうが、最終的にはお姉ちゃん達と共有してファイリンザー孤児院のハンター支部 とかになるんじゃないかな?


 俺が王都に来た目的は、ルゥ兄ぃにバレないように寿命を伸ばす方法か魔道具を探すことである。表向きの理由は、ガーくんの強化方法の模索や有望なドワーフの情報集めなんだけどね。

 だが、伝説にあるような世界樹の実や、超科学に匹敵する魔道具なんかは王都に存在しなかった。いや、御伽噺には天翔ける大船とか転移装置とか、世界樹の種を原料にした延命ポーションとか事実として伝わっているんだぞ。しかしながら、この時代の魔道具はコンロとか冷蔵庫とか、生活用魔道具の日進月歩レベルに落ち着いている。鑑定台とか国家レベルで確保する魔道具は、僅かにダンジョンから発掘される遺物?に頼る現状らしい。

 もし、神話が本当だったのなら、魔導レベルや文明衰退に関する謎が存在することになるんだよなあ。ああ、勘の良いルゥ兄ぃに詳しく質問出来ないのがもどかしい…。

 まあ、他の周辺国とか、大樹海の外の世界には残ってるのかも知んないけど…。


 でも、そんな当初の目的も、コイツ等と遊んでるとついつい忘れてしまうんだよなあ。このままずっと可愛い弟妹と遊んでいたくなる。

 タレや油まみれの笑顔を見ながら、いつか来る別れの時を寂しく思っていると…


 ハンターギルド端部屋にある入口から、少年らしき怒鳴り声が聞こえてきた。

 分厚い扉越しでもギャーギャー聞こえるんだから、どれだけ怒鳴り慣れてんのか…面倒そうな奴なのかが分かる。


 覗き穴から観察していたガーくんが警戒心露わに言った。


「オヤビン…騎士がぞろぞろいるッスよ。無視した方が…」


 騎士だと?まだ今日の俺は何も悪戯をしてないはず…。

 先週のサイクロプス騒ぎでは既にお仕置きを受けたし…そもそもあの事件も俺的には冤罪の疑いが濃厚なのだ。


「むぅ……いや、今から弟妹たちに滑り台で遊ばせてやろうってのに、あんなのがいたら邪魔だ。ここは目一杯おちょくりまくって、二度とここへ来たくなくなるようにするべきじゃね?」

「………オヤビン、つい先日”丸焼き”にされたってのに、全然懲りないッスねぇ…」

「ガーくん、アレは不当な魔女裁判だったのだよ。無謀と勇気は紙一重!恐れを乗り越えてこそ、真の勇気は身に宿るんだぜい!」

「……まぁたカッコイイ台詞でオイラをノせて共犯者にするつもりッスね?だ、だがしかし…個人的にその心意気や良しッス!明らかに不正の匂いがする連中に屈する道理はないッスから。あえて無謀を貫くのも勇者への道っスよね!」

「う、うん…」


 ガーくん…俺が言うのもなんだけど、もうちょっと俺に対して警戒心を持とうよ。俺以外の誰かに騙されないか心配になっちゃうぜ…。


ガチャ、ギギィ…


 ちょっと不安な俺の勇者が、重厚な扉を押し開ける。


 扉の向こうには騎士を五、六人従えた金髪の生意気そうな少年が立っていた。


 年齢は十歳より少し上くらい。明らかに貴族と思われる煌びやかな服装に、将来有望なイケメンなのに傲慢が第一印象に残るイヤミな表情。

 なにより…既視感を覚えるほど、なんとなく俺に似ているところが不快だった。


「ふん…やっと出て来たか、無礼者め!」

「……誰だ、お前?」

「むっ…平民ごときが気安いぞ!」


 騎士の一人が剣に手をかけて威嚇してきた。

 そして、お約束のように傲慢イヤミ少年が手をあげてそれを制する。


 「低能な平民よ、今すぐここから立ち去れ!このヘイアン王国王都ルタンバにおいて王城さえ見下ろさんとするこの大樹は不敬の象徴。よって、今からこの第三王子である俺様マリウス=フォン=ヘイアンがこの大樹を接収するっ!」

「……かっちいいぃん!」


 今日この日…俺の生涯において、クソ猫(コゴロー)との邂逅に匹敵するくらい最悪な出会いを経験したのであった。


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