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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第三章
32/61

奥の手

 ガンダムと同じくらいの大きさの四つ腕サイクロプスが、ずいぶん苛ついた表情で近付いてくる。

 ”城壁崩し”と名付けられたユニーク種であり、過去何十年にも渡って周辺国に悪意を振り撒いてきた凶悪モンスターだ。

 なんとなく…その大きな眼は俺達(ウルフェン)を凝視しているような?


「オヤビン…間違いなくオイラ達がターゲットにされてるッス…」

「うっそぉーん!?」


 見上げた姿勢のまま腰が砕けそうになる。


「オヤビン、眼を見ちゃダメっス!あの眼力はもう魔眼の域に達してるッス!」

「そ、そんな事言っても…もう…」


 たぶん、威圧の類だろう。他に恐怖・混乱・服従・弱体など俺の幼い心が敏感に感じ取っていた。


「オヤビン、せめて魔力の乱れを鎮めてッ!身体が上手く動かせないッス!」

「ご、ごめん…無理そう…」


 単純な特殊効果ならそれなりに魔力で抗う方法を教えて貰っていたが、これはちょっと違うのだ。魔眼というより達人の眼力に射竦められているような…魔力じゃなくて精神で抵抗するべき類のものだと思う。当然、ガンダム級のユニークモンスターと五歳児では、精神力を比較することさえ烏滸がましい。


 ずしん!ずしん!と近付いて来るラスボスに、俺の恐怖が加速度的に増大していく。

 ぶるぶるぶる…このままではあの巨大な足で俺はペッチャンコに…


ガシッ!


「ウガッ!?」


ズッシィィンンンン!!!!


 地響きが起こるほどの転倒。

 ちょっとだけウルフェンの身体が浮いた。


 サイクロプスの右足には草結びのトラップが、巨人スケールで仕掛けられていた。

 勿論、そんな事が出来るのは…


「ルゥ兄ぃ!」


 俺達(ウルフェン)とサイクロプスの間には、いつの間にか絶世の美少年が立っていた。


「危なかったね。ごめん、あのサイクロプスと戦う為に少し準備が必要だったんだ…」


 そうだった。ルゥ兄ぃの権能は強力だけど戦闘向きじゃないのだ。あの草結びトラップも巨人を引っ掛けるために、深く地中に根を張らねばならない。おそらく今、この戦場全体がルゥ兄ぃのフィールドと化しているのだろう。


「とはいえ、僕にアタッカーは荷が重いので…ミュルン、頑張って下さいね」

「んもう、ルシュくんは苦手な事はすぐアタシに押し付けるよね。特にボスのお仕置きとか…」

「うっ…申し訳ないです…」


 ん?なんか不穏な言葉が聞こえたような…


 ミュルンは誰が落としたか大きな戦斧を拾い上げると、小さな肩に乗せて俺に不気味な笑みを向けた。


「そんじゃ、ルシュくんの同意も得たし、さっさとサイクロプスを倒しましょ♡迷惑をかけた皆の鬱憤を晴らすためにも、早くボスのお仕置きショーを開催してあげないとね!」

「ヒイイイィ~ッ!?!」


 ミューはヤると言ったら殺る奴だ!

 つまり、どっちが勝っても俺の死亡確定!?


 戦々恐々となる俺を置き去りにして、戦いの幕は上がった。


 サイクロプスが反射的に起き上がろうと身を起こした時、完璧なタイミングで将軍の爺ちゃんの投槍が巨大な眼へ…。


ズシャアッ!


 しかし、貫いたのは四つある内の掌の一つだった。

 ギョロリと巨大な単眼が完全に視えていたことを主張していた。


 同時にミュー(ミュルン)の戦斧が腕の一つを斬りつけ、ルゥ兄ぃの氷の槍が背中に突き刺さる。


「グウッ!?オオオオオッ!!」


 多少の痛みなど物ともせず、単眼巨人はルゥ兄ぃの拘束も引き千切って立ち上がった。

 その拍子に刺さった氷の槍は抜け落ち、戦斧による二の腕の切傷も出血もすぐに止まった。


「あちゃあ…皮膚や筋肉が硬いうえに、トロール並みの再生能力まであんの!?」

「あからさまな弱点である”一ツ眼”もかなりの高スペックです。思ったより隙が無いですね」


 その間にも単眼巨人は掌から槍を引き抜いて、爺ちゃん・ミュー・ルゥ兄ぃへと視線を巡らせる。

 今のところ妥当な警戒順位と言えよう。取り敢えず、その中に俺が入っていないようで安堵した。

 ただ、この短時間だけでこの固有種サイクロプスがSランク相当の強敵であると判明したのは知りたくない事実であった。






ドガッ!ガゴン!ズカッ!ゴガン!


「ウゴアアアアッ!!」


 四つの拳をメチャクチャに大地へ打ち付ける単眼巨人と、それを回避して足や腕を斬りつけるミュー。ルゥ兄ぃは地面から蔦を出して足留めしたり、空を飛んで顔面にウインドアローを放ったりして牽制している。将軍の爺ちゃんも絶妙なタイミングで槍を放っているが、威力はあってもせいぜい腕の一つを貫くに留まっている。

 もう他の人類やモンスターが介入する隙なんて微塵も残っていなかった。


 弱点がはっきりしているのに三人が押し切れない理由は、腕が四つあるとか魔眼じみた能力で迎撃力が異常に高いというのもあるが、更に厄介な能力が…


「ゴルルアアアッ!!」


ボバアアアーッ!

 

 単眼巨人の口から激しい熱風が放出され、ミューが慌てて逃げていく。

 熱風を浴びた蔦も一瞬で干からびてしまった。


 焼け付く吐息(ヒートブレス)である。

 この能力の所為で正面からの攻撃は無効化され、搦め手も根こそぎ薙ぎ払われてしまう。どうにも攻めあぐねる展開だった。

 そして、この均衡もミューが回避し切れなかったり、ルゥ兄ぃの魔力が尽きたり、爺ちゃんの投槍が品切れになったりした時点で終わってしまうのだ。


 そんな中、霊峰歌撃団のリーダーが後方で腰を抜かしている。

 いくら戦闘能力で劣るとはいえ、そんなの…


「そんなの誰が赦しても、この俺が赦せ~んッ!!」

「オ、オヤビン!?」


 たとえ本能の割合が高い幼児といえど、”異世界記憶”という他人の人生を覗いて五年もブーストしてきた身である。恐怖を乗り越える術もアニメからばっちし取得済みであった。


「ガーくん!今こそアレの出番だ。ガツンとやってくれい!」

「っ!?言われてみればまさしく絶好のチャンス…さすがオヤビン!持ってるッスね!」

「ふふっ…よせやい。ただ、俺の浪漫がそう叫んだだけさ」

「おおっ、超カッコイイっス!そう言う事なら…オイラも魂を込めて歌わせてもらうッス!」


 アニメ好きにはそれぞれのテーマソングがある。個々の人生に根差し、気力を奮い起こしてくれる神曲だ。そして、五年という短い人生ではあるが俺にも、魂の琴線をダイレクトに掻き鳴らしてくれるテーマソングがある。

 魂を震わせるのに魔法は要らぬ。(ただ)一曲のテーマソングがあればいい。


 くくく…俺の心と鼓動がバックミュージックを流し始めたぞ。

 さあ、我が友ガーくんよ…レッツ・シンギング!


LIVE for LIFE 〜狼たちの夜


『♪ 今宵 月は赤く染まり ♪

 ♪ 飢えたケモノ 群がり ♪

 ♪ うまい匂い 舌なめずり ♪

 ♪ 睨み合う DEAD or ALIVE? ♪』


 おおっ!?ガーくんに包まれている所為か、物凄い重低音スピーカーだぜ!

 心が躍り、魂が荒ぶる。

 ガーくんの歌が俺の恐怖を勇気で上書きしていく。


『♪ 誰にも 譲れないものがある ♪

 ♪ 倒れても 何度でも 立ち上がる ♪

 ♪ この世は 弱肉強食 据え膳 喰うより ♪

 ♪ 四肢を奮って 掴み獲れ ♪』


 このベン・トーというアニメは、半額弁当を賭けて戦う貧乏戦士たちの戦いを描いた物語である。動機こそくだらないが、戦う理由など案外そういうものだ。俺がルゥ兄ぃの膝の上を守るために、物心つく前からコゴローと戦っていたように…な。


『♪ 賭けろPRIDE 死ぬまでオオカミ ♪

 ♪ 負け犬に成る つもりはない ♪

 ♪ 汗はSPICE 傷あと輝く ♪

 ♪ 勝利の味を 噛み締めて 次のステージへ ♪』 


 魔力の乱れが消え、爆発的に魔力出力が撥ね上がった。

 まだ第一パートが終わっただけなのに、俺から恐怖の陰は完全に消え去っていた。


 ガーくんの歌に歌唱スキルのような恩恵は無い。この現象は俺の思い込みによる自家発電に近い。人生におけるテーマソングとは、いつでも使えて魔力の要らぬ強力な精神バフなのだ。


 そして、この専用テーマソングは俺だけでなく、当然ガーくんやミュルンも持っている。仲間の誰かが落ち込んだ時や奮い立たねばならない時、強制的に魂へ燃料を注ぐ霊峰歌撃団だけの裏技であり奥義である(弟妹合唱団にはまだ持ち歌と人生経験が足りないので未伝授)。

 ちなみに残念なことに、ルゥ兄ぃはまだ自分だけのテーマソングを見つけられていない。見かけ以上に複雑らしいルゥ兄ぃの人生に寄り添うアニソン(アニメを含む)は数千にも及ぶ俺のユニーク検索にもなかなかヒットしない。

 だけど、いつか絶対見つけてあげるからね!


「ガーくん、今からちょっと無茶するけど…付いて来てくれる?」

「オヤビン、水臭い事は言いっこ無しッス」

「……うん」


 ガーくんの操る呪鎧怨狼(カースド・ウルフェン)は、単眼巨人に正面から向き合っていた。


「よぉーし、目指すはアイツのハゲ頭だぜいっ!」

「任せて下さいッス!崖登りはオイラの得意技っス!」


 かつて、同胞に幾度も蹴落とされた辛い記憶だろうに…この発言は今のガーくんが全てを乗り越えてきた証でもあった。


 赤い単眼の呪われし狼はサイクロプスの死角から忍び寄り、取り付く隙を伺う。

 慌てたルゥ兄ぃとミューが顔芸で「あっち行け!」と示したが、気付かないフリをした。


 そして、やけくそ気味な二人の攻撃で巨人の気が逸れた時、俺達は飛び出した。


「ウガっ!?」


 サイクロプスの岩のような肌は体毛もなく、所々石や土がこびりついていたり古傷が盛り上がっていた。故にあまり硬くない爪でも引っ掛けられる所は無数にある。

 柱のような脚を半ば駆けるように登っていくと、腰の辺りで纏わりついたゴキブリを払うような強襲を受けた。一つでも避けそこなったらペチャンコだ。

 俺達(ウルフェン)は粗末な腰蓑にぶら下がりつつ、じっくり登頂ルートを見定める。


 そして…こんな時、道を切り拓いてくれるのが仲間なのだ!


「ほんと世話が焼けるっ!絶・天狼抜刀牙ッ!!」


 今まで非力を演じてきたミューが、とうとう奥の手を解禁した。

 巨大な戦斧を振り下ろす流れで、身体ごと高速縦回転をしながら斬り付ける技だ。さらにフェンリルの力で加速するので、さながら人間大の電動ノコギリだ。


 その威力は…ガンダム級巨人の手首が切り落とされた事で証明された。


「ギャガガァアアアアアーーッ!?!!」


 ”絶・天狼抜刀牙”とは”銀牙―流れ星 銀―”の浪漫あふれる必殺技なのだが、やはりアニメのように狼の姿で使うには効率が悪いので今のようなアレンジ技になった。

 ……邪道と言うなかれ。獣神形態のミューが鉄樫樹(てっけんじゅ)の大枝に牙をめり込ませて脳震盪で気絶した回数が三十回を越えたところで、俺とルゥ兄ぃがドクターストップを入れたのだ。

 アレンジ技の提案から頑固者の説得まで、なかなかに骨の折れた思い出なのである。


ドンッ!


「きゃあああ~っ!?」


 ”絶・天狼抜刀牙”は威力はあるが回転速度に移動速度が喰われるので、横から叩かれたら簡単に潰されるのが弱点である。

 お星様になったミューに心の中でお祈りして、俺達は巨人登りを再開する。


 ルゥ兄ぃが落ちた手首にアイスアローを撃ち込んで、傷口をズタズタにしている。当然、その分傷の治りが悪くなるから、サイクロプスは怒り心頭でルゥ兄ぃを追い回した。


 御蔭で俺達(ウルフェン)が頭頂に立つまで、サイクロプスに気付かれる事はなかった。


「ウガッ!?」


「投下!」

「イエッサー!」


 ウルフェンがぶるっと身を震わせると、炎のタテガミから炎の全部分がぽろぽろ足元に落ちた。

 すぐさま身を翻して頭頂から退避した。


バッシィーン!!


 三つの掌がハゲ頭を埋めるように叩きつけられた。


 間一髪、俺達は無事だけどな!

 だが、破裂寸前まで胞子を抱えた地獄火炎茸は今ので全部…


「アアアァァアアオオオオーーッ!?!」


 単眼巨人が一つしかない大きな眼から、滂沱の涙を流して泣き叫んでいた。


 そりゃそうだよね。いくら花粉症程度と言っても、アレルギーの元を眼球に大量摂取したらああもなっちゃうわな。なんか…掻き毟りたいほど痒いのに、眼球だから触るに触れずめっちゃもどかしい感じがよく伝わってくる。

 近くにいると俺まで痒くなりそうだから、がーくんもっと離れてちょー。


 ふっふーん…今回は俺達、かなり良い仕事をしたんじゃね?





 俺が作った隙を最初に突いたのは将軍爺ちゃんだった。

 顔を押さえて悶えまくる巨人の…四つ腕の隙間に投槍を通した。


「グゲエッ!?」


 貫通こそ出来なかったが、喉の真ん中に槍を突き立てられてサイクロプスが苦鳴をあげる。

 どうやら頸椎が硬過ぎたようだが、下拵えとしては充分だ。

 なんせ槍を引き抜いた巨人の真正面には、空中で弓を構えるルゥ兄ぃがいたからだ。


 やや太く、黒い葉を矢羽根にしたその矢はどこか不気味な色合いで…全体から瘴気を放っていた。

 ”邪神の宿り木”――かつて世界樹の大枝の一本を枯らし、神々の居住区の一画を地に落とした異界の寄生植物だ。一言でいえば地獄火炎茸よりマジめの特級呪物である。ありとあらゆる植物の種や枝が入ったルゥ兄ぃの巾着袋は、俺でも絶対触らせてもらえない禁忌のビックリ箱なのだ。


 大量の涙で何も見えない巨人に矢が放たれ、喉の傷口を通ってさらに奥に突き刺さる。

 サイクロプスには小さな痛みだろうが、ここで自傷覚悟の”焼け付く吐息(ヒートブレス)”を使わない時点で終わりである。

 貪欲な異界の寄生植物は、魔力も血も肉も吸収して急速に根を伸ばすのだ。その代わり火には極端に弱いそうだが、本体が体内にあっては燃やしようもない。


 やがて…喉の傷が再生され、大量の涙も止まって一度は落ち着いた様子を見せたサイクロプスだが、今度は呼吸困難になって悶え苦しみ始めた。

 おそらく、根が肺を浸蝕しているのだろう。

 いかに優れた再生力を持っていようと、こうなってしまってはお終いである。心臓に根が回るまで…苦悶の中で己の悪行を悔いることになるだろう。


 城壁崩しの異名を持つ極悪サイクロプスは、完全に死を迎えるまで十数分悶え苦しみながら逝った。


 膝を付き天に向かって四つの腕を伸ばす姿は、命乞いなのか天への恨み言なのかはっきりとは判らない。

 だが、それを眺める人間やモンスターはとても晴れ晴れとした表情をしていた。


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