呪われし幼フェンリル(イメージ)
俺の歌によってノリノリで飛び降りて行ったオッサン等は、オーガやトロールと元気に戦っていた。
下僕一号・二号も嬉々として剣を振るっている。
ミュルンは喧嘩の延長で適当にぶっ飛ばしたり、死にそうなハンターを助けたりと好き勝手に暴れている。
そんな連中の祭りに加わろうと、俺が考え抜いて生み出した姿がこれだ!
デバフ特化モード:呪鎧怨狼
一見すると、体長三メートルの禍々しいサイボーグウルフ(実はゴーレム系)って感じだろうか?赤い単眼とタテガミ。黒い鎧に蔦の筋肉が絡んだボディがまた悪者っぽい!
のどちんこの奥に俺の顔が配置されてるので、口を開けるとちょっとしたホラーだろう。
「こ…これは!?な、なんと禍々しい姿じゃ…」
ふふん、五歳にして俺の厨二心が暴発してしまったぜ。人生経験豊富な爺ちゃんを驚かせられたなら上々と言えよう。
だが、この形態には戦闘能力はほとんどない。爪も牙も植物だし、口内には俺がいるので基本的には噛みつきNGだ。
ならば何が出来るかというと…
呪鎧怨狼が城壁の上で戦場を見下ろし、ちょこんとお座りする。
俺はルゥ兄ぃの加護で得た微妙な風魔法で、口内にそよ風の乱流を作って魔力の圧を掛けていく。
そして、歌唱スキルに意識を集中して一言…
「ばぁかッ(馬鹿)!!」
俺の叫びをトリガーに口内の乱流が暴発し、ウルフェンの咆哮となって吐き出される。
『ヴァガッ!!』
波紋が響き渡るように…心に染み入るように衝撃が伝わり…。
「「「「ッ!?」」」」
この瞬間、戦場にいる全ての生物が戦いを止め、不快に眉を顰めてこの呪鎧怨狼を振り仰いだ。
「なんだ!?今の不快感は?」
「何ていうか…もの凄く馬鹿にされた気が…?」
「城壁の上だ!……な、なんて禍々しい姿だ!?」
「いや、あの鎧と赤い眼には見覚えが…」
「グルゥオッ!!」
「グルルルゥ!」
「ゴォアアアッ!!」
敵として戦っていたオーガやトロールも、イライラした感じでこちらに吠えている。
一般的に負の感情を込めた言葉は種族を問わず比較的伝わり易いけど、この呪鎧怨狼はそれを歌唱スキルに通した声を圧縮して放っているのだ。小さい頃から魔物と遊んだり喧嘩してきた俺だからこそ、魔物との意思疎通も経験で知っている。
このモードなら通訳要らずで、どんな種族・どんな魔物でも意思を伝えられる自信があるんだぜい(ただし、罵倒のみ)。
今まではテスト相手はミュルンしかいなかったが、今回は実践テストのサンプルがいっぱいいるのが有難い。まあ、早くも対象は無差別という欠点が判明したけど…大した問題じゃない。
ちなみに、ルゥ兄ぃには風の遮音結界を張って貰ってるから安心だ。
『ヴァヌゲ(まぬけ)!!』
『ウズヌオ(うすのろ)!!』
『アオン(あほー)!!』
その効果は覿面、なまじっかな盾職より挑発効果が高かった。
「ごるあ!てめえ、降りて来やがれーっ!!」
「ぶっ殺してやるぁーっ!!」
「なんか死ぬほどイラつくッ!」
「心に刺さったトゲが…くそ痛ぇ…」
「ギャオギャア!!」
「グオアオオン!!」
「ギャッシャア!!」
「ガオオウン!!」
アイツ等…さっきまで殺し合いをしてたくせに、何故か意気投合して俺を責め立ててきやがる。
「ボスのウンコ製造機ーっ!」
「デザイン悪趣味だぞーっ!」
「短足白饅頭ーっ!!」
ぷるぷるぷる…
ア…アイツ等、どさくさに紛れて…
「オ…オヤビン落ち着いて!」
ガーくん、俺は下剋上を赦さぬ上司なのだよ。
『ロリヴァアッ(ロリBBA)!!』
『ベダレエエッ(へたれ)』
『ドリゴゥンッ(ロリコン)!!』
くくく…奴等め、直撃を喰らって血反吐を吐いておるわ!
だが、この程度で終わると思うなよ。貴様等への仕置きはまだまだ終わらな…
「だから…戦場で遊ぶなと言っとろうがぁーっ!!」
ドカッ!
『キャン!?』
突然、俺達はぶちキレた爺ちゃんに城壁から蹴り落された。
ああ…そういや俺のデバフは無差別攻撃だった。
爺ちゃんに耳栓でも渡しとくんだったぜ…。
◇
『キャイン!キャン!キャン!』
やばい!やばい!やばい!殺されるうぅ~っ!
「待てこらぁーっ!!」
「バラバラにしてやらーっ!」
「ウゴアーッ(ぶっ殺すッ)!!」
「ガッ!ガッ!ガウッ!(殺!殺!殺ッ!)」
悲鳴をあげて戦場を逃げ惑うのは、俺とガーくんの合体した呪鎧怨狼だ。
そんな俺達を人間とモンスターが仲良く追い掛けて来るのだ。お前等、さっきまで戦ってたんじゃなのかよう!……ぐすん。
「その姿は嫌って言ったよね!ガーたんには悪いけど…ボスもろとも泣くまでボコる!」
「御主人様には厳しい躾が必要です!」
「アタイが後で慰めてあげるから…今は殴らせなッ!!」
デバフ&逃げ足特化のウルフェンだが、裏切り者たちが先回りして来る所為ですぐに回り込まれ何度も危機に陥っていた。これもミュー(ミュルン)のアホが、ウルフェンに戦闘力が無いことをバラしやがった所為である。
「オヤビン!もう自首するッス。これ以上ミュル姉を怒らせたら、オイラ達バラバラにされるッスよ!」
「駄目だっ!ガーくんはバラバラになっても生きてられるからいいけど、俺は…」
特にミュルンは俺に対して容赦が無いところがある。捕まったらどんなめに遭うか…。
「それはオヤビンの悪戯がいつも限界突破に挑戦するから…」
「しゃらっぷ!幼児は悪戯をせねば死んでしまう生き物なのだ!今は運命共同体なんだから俺の罪も背負ってもらうぞ、ガーくん!」
「ああ…思わぬところに変身のデメリットが…」
ガーくんの絶望の嘆きを聞いたところで、とうとう俺達は追い詰められてしまった。
スピードで勝るがパワーの無い人類を補うように、オーガやトロールがその隙間を埋めている。御蔭でフェイントがもう通用しなくなっていた。まるで二つのサッカーチームが一人だけを追い詰めるように、人と魔物が一丸となった連携を生み出していた。
お前等、敵同士だろうがっ!まさか、敵対関係忘れるほど俺等が嫌いなのかよ!
「ガーくん…こうなったら最終兵器を使うぞ!」
「さいしゅ…ってアレっスか!?アレはデバフの域を越えてもう特級呪物ッスよ!絶対、マジ恨まれるッス!」
「そんなの知らん!まずは今日を生き残らねば、明日はやって来ないのだ!覚悟を決めろ、ガーくん!」
「くっ…オイラがそういうカッコイイ台詞に弱いの知ってて!こうなったら……一蓮托生、ガンギマリっスーっ!!」
キタキタキターッ!!
魔力リンクによる共鳴は魔力量だけでなく、魔力出力まで倍加してくれる。つまり、ルゥ兄ぃの予測を超えて、微妙だった俺の加護も新たな境地へと踏み出せるのだ。
これは俺に駄々甘いルゥ兄ぃが、唯一お願いをきいてくれなかった案件。
マンイーターのように調整される事なく、死蔵されるべき特級呪物。
だからこそ、俺達が自力で開花させねばならない呪鎧怨狼の最終形態だった。
ウルフェンの鬣に生命魔法を集中し、魔力を流し込む。
もし失敗すれば…最悪この戦場に真の阿鼻叫喚を生み出すかもしれん。そうなれば確実にミュルンに殺されるので、そうなる一歩手前…つまり、爆発寸前の状態で特級呪物を維持しなければならないのだ。
そんな緊張の中、俺はお馴染みの特級呪物……地獄火炎茸の魔力波長を探り当てた。
タテガミに仕込んだ胞子が成長し、炎の形の茸がニョキニョキと伸びて背を燃え上がらせる。
この地獄火炎茸は俺の魔力を栄養素として成長したので、原則として魔力供給を止めれば萎れて灰になる。しかし、生殺与奪を操作された親株の意地か生命の神秘なのか、一度放散された胞子にはその法則が通用しないのだ。
……だからルゥ兄ぃも調整してくれなかったんだけど。
「なっ!?ボス…そ、その姿は…冗談…だよね?」
「ヒイイィッ!?そんな…またあの地獄がああ…」
あのミュルンが怯み、下僕一号が恐怖に震えながら膝を落とす。
ふはははっ…その絶望したリアクションはなかなか良いぞ。褒めて遣わす!
その危機感が種を問わず戦場の隅々に伝わり、本能的な恐怖を増幅していくのだ。
『最終呪装!凶痒痛獄!!』
息の合った合成魔声による決め台詞。
なんだかんだ言って、ガーくんもノリが良いのだ。
「お、おい…背中の大量のアレは…まさか…」
「そうだった!アイツにはアレがあったんだ…」
「”鬼畜童児”が恐れられる…悪業の一つ…」
「じじじ…地獄火炎茸ぇえええっ!!」
「グヒィイイイ!!」
「キャヒイイイン!」
「ウホォオオン!!」
一目で最終呪装のヤバさを感じ取った奴等が、おろおろと逃げ出し始めた。
血肉を掻き毟るほうが救いになるほどの痒み…考えただけで全身が痒くなっちゃうよな。
さしものミュルンも蒼い顔で身を翻していた。
「ボスのおバカーっ!それだけは洒落にならないんだからねっ!!」
「俺は悪くないもーん!俺を追い詰めたお前等が悪いんだもーん!」
『ワン!ワン!ワォン!』
ふっふっふ、形勢逆転!
地獄を纏った呪鎧怨狼が吠える度に、人も魔物も問わず悲鳴をあげて逃げ散らかっていく。
一番のろまなトロールの周りでぐるぐるしてやると、全身に発疹を出して失禁しながらぷるぷる蹲ってしまった。
まだ触ってもいないのに……おもしれーっ!
今度は普段「おれ様の好物は人間だぜ!」ってイキってそうなオーガの背を小突いてすっ転ばして、胸の上に乗ってみる。狼の口を開けてじっくり実物の俺と睨めっこしてみると…恐怖のあまり失禁しながら失神した。
きゃははは!情けないなあ。いつも獲物にしてることだろ?
でも、なんだか絶対的捕食者って感じでチョ~気持ちイイ~!
今度は人も魔物もごちゃまぜにして追い立ててみる。牧羊犬のように、戦場から逃げ出そうとする奴は蹴っ飛ばしてやるんだぜい。
お互い敵同士なのに、今は仲間みたいに仲良く逃げ惑っている。
きゃっはっは…これが人と魔物の交流って奴なんだぜい!
俺は良い子だから、人類の未来まで考えてるのだー!ぶっ倒れるまで追い回せば、人と魔物の間にだって友情が芽生えるはずだ。たぶん…。
「……バカ~!アホ~!エセ幼児~!」
実は、そんな俺の人類貢献の合間にもミューの罵声は飛んでいた。
俺から絶妙な距離を取って騒いでるので、なかなかに鬱陶しい。だが、この距離は逆に俺の安全を保障するものでもある。ミューを本気で怒らせたら、今の” 凶痒痛獄” でも全然盾にならないからだ。
森でメチャクチャ嫌われる地獄火炎茸だが、Aランクほどの魔物となると状態異常耐性も高く、花粉症くらいのダメージ(個体差アリ)しか負わなくなる。それが伝説のフェンリルとなれば言わずもがな…。今は情報漏洩を恐れて大人しいが、ミューを変身させた時点で俺の負けが確定する。
まあ、アイツもハンター・傭兵・騎士団…ついでに魔物にも義理はないので、俺の悪戯くらいで激怒ぷんぷん丸になったりはしないだろう。獣人態のミューに胞子をくっつけない限りは…。
お姫様が公平で優しいってのはただの幻想なのだ。
そんな人類貢献の最中。
人や魔物を追い回して、俺が御機嫌に吠えているといきなり空に蔭が差し…
ドオオオオオオンンン!!!
『キャヒイイイン!?!』
突然、俺の近くに巨大な岩が落下した。
トロールさえ余裕で潰せる大きさだった。
「ガアアアアアアアアアアァーーッ!!!!!」
戦場の隅々に響き渡る巨大な咆哮。
その苛ついた叫びは、その心境を察するに充分なものだった。
ズシン!ズシン!と地響きを立てる奴を、恐る恐る振り返る。
ガンダムと同じくらいの大きさの四つ腕サイクロプスが、ずいぶん苛ついた表情で近付いてくる。
なんとなく…その大きな眼は俺を凝視しているような?
「オヤビン…間違いなくオイラ達がターゲットにされてるッス…」
「うっそぉーん!?」
ガーくんと合身してなきゃ、オシッコ洩らしていたかもしんない…。




