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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第三章
30/61

マクロス


「お・れ・の~…歌を聴けえぇーーっ!!!!」


「「「「「…ッ!?!」」」」」


 城壁の一番上に立った俺に、覇気のないオッサンどもの視線が集中する。


ジャジャ~ン♪


 ルゥ兄ぃの改造リュート(ギター?)が迫力のある音を掻き鳴らす。ついでに音を増幅しながら砦中に拡がるように、風魔法で音の流れる方向を操作してるんだぜ。

 俺もこのスピーカー魔法はいつか覚えたいんだよなぁ。


 どこか懐かしい伴奏に気分を高めつつ、子供の高い声をなるべく低くして腹の底から声を搾り出す。


『♪ マクロの空を つらぬいて~ ♪

 ♪ 地球をうった いかづちは ♪

 ♪ 我ら幼い人類に ♪

 ♪ 目覚めてくれと 放たれた ♪

 ♪ マクロス マクロス ♪』


「小僧…お主、その歳で吟遊詩人だったのか…」


 将軍の爺ちゃんが驚きをもって呟いた。


 人類専用のスキルシステムが未完成というのは常識だが、その証左として歌唱スキルが挙げられる。システム構築の途中で神々が捨て去ったと揶揄されるように、歌唱スキルには剣術や槍術スキルのような細分化された技のスキルツリーが存在しない。未分化な技術をアナログで磨く必要があるので、難易度がめっちゃ高いのだ。声量拡大スキルだとか音程補正スキルとか、あれば絶対欲しいのに!

 だから吟遊詩人がマイナー扱いなんだよっ!

 

 そして、俺が五歳にして、ちょっとチートな吟遊詩人になれた理由は三つある。


1. 絶対音感の天才であるルゥ兄ぃの演奏。


 まずこれが欠かせないだろう。年齢や嗜好の違う聴衆を一瞬で惹きつけるには、質の高いバックミュージックがあってこそ俺の歌う土台が出来上がるのだ!


2. ユニークスキル”異世界記憶”から異世界人テンマの二十数年のアニソン(カラオケ)経験値を、スキルシステムが熟練度として誤変換してくれたこと。


 これによって俺の吟遊詩人はプロレベルにまで上がったのだ。まあ、幼児ゆえに声が高過ぎたり、声量がなかなか出せなくてちょっと苦労してるけどな!


3. この世界にはない完成された楽曲…アニソンレパートリー。


 俺が不幸の大元である”異世界記憶”を嫌いになれない理由でもある。今では俺の歌を皆が楽しんでくれるし、俺も好きなアニソンをこの世界に布教しながら歌うのがめっちゃ愉しい。

 吟遊詩人は俺の天職なのだ!


『♪ 雄々しく立った若者は ♪

 ♪ 愛する人を かばいつつ ♪

 ♪ 旅立つ日々を~ 戦いひらく ♪

 ♪ WILL YOU LOVE ME TOMORROW ♪ 

 ♪ 闇を切り裂き 飛びゆく先は~ ♪

 ♪ 遠く輝く青い星~ ♪

 ♪ マ~ク~ロス マ~ク~ロス ♪  

 ♪ マ~クロ~~ス ♪』


 歌詞にイマイチ分からない単語があったり、壮大過ぎてイメージ出来ない部分もあろう。なんせ、これはロボットに変形する戦闘機に乗って、空や宇宙で戦う戦士たちの話だからな。

 だが、細かい事はどうでもいいのだ!

 俺が気持ち良く歌って、この昂ぶりをオッサンどもに共感させれば勝ちなのだ!

 その証拠に…


「おおおっ!?魔力がどんどん溢れてくるぞ!」

「ほんとだ!?すげえ…身体強化率も半端ねえぞっ!!」

「それよりもこの昂ぶりだ!吟遊詩人ってこんな…狂いそうなほどの戦意高揚が出来るもんなのか!?」

「わはははっ!大司教の”聖戦”発動レベルかもなっ!!」

「くふふふ!坊主め、俺等を狂戦士に転職させる気かよっ!!」

「ちくしょう!”鬼畜童児”に上手くノセられちまったのは癪だが…燃え上がっちまったもんは仕方ねえよなあっ!!」

「おおよっ!俺は”マッスル聖女隊”と”弟妹合唱団”の大ファンだが、”霊峰歌撃団”の元祖『お願いマッスル』もまた聴かせてくれよなっ!!」


 まだ第一パート後の間奏だってのに、ノリノリで吠えたオッサン達が城壁を飛び降りていく。


 ここって三階くらいの高さが……戦闘スキル持ちって脳筋ばっかだな。

 だが…この程度の増幅率で驚いてちゃ、まだまだ…。事前に俺の”進化形紙芝居(アニメモドキ)”で布教してたら、絶対鼻血ブーものなんだぜいッ!!


 100%の力を届けられない事に少しもどかしさを感じつつ、俺は砦前の平地を睥睨する。

 ルゥ兄ぃの風魔法の風向きが変わり、平地全体に音が通りやすくなった。


 よっしゃ、第二パートもノリノリでいったるぜい!!


『♪ 宇宙の子らを ひきつれて ♪

 ♪ 星の彼方の 闇の中 ♪

 ♪ 万古に続く戦いを ♪

 ♪ 目指して飛んだ 運命(さだめ)の矢 ♪

 ♪ マ~ク~ロス マ~ク~ロス ♪』


「うぅ~…もう、我慢できないっ!アタシも参戦してくるねっ!!」

「お…俺も逝ってきます!」

「あ、こら…あたいにも戦わせろーっ!」


 ミュルンが昂る戦意を抑えられず城壁を飛び降り、下僕一号・二号もどさくさに飛び出した。


 ガーくんが羨ましそうに見送っていたが、俺への忠義を優先してくれた事に心から感謝するぞ!


『♪ 淡い陽ざしと 子守唄 ♪

 ♪ 赤子の眠り 母の胸 ♪

 ♪ 愛する日々を~ 戦い守る~ ♪

 ♪ WILL YOU LOVE ME TOMORROW ♪

 ♪ 闇を切り裂き 伸びゆく光~ ♪

 ♪ 輝き~満ちる~日はいつか~ ♪

 ♪ マ~ク~ロス マ~ク~ロス ♪

 ♪  マ~クロ~~ス ♪』


 ノリノリだった俺が歌い終わり、ルゥ兄ぃの名演奏も余韻をたっぷり残しながら終わる。

 この頃には、俺達の聴衆は将軍の爺ちゃん一人になっていた。


「まったく…我が王国の騎士団員まで飛び出していくとは思わんかったぞ。はぁ~、あやつ等にはたっぷり特別訓練を用意してやらねばのう…」

「あ…悪いな、爺ちゃん。作戦とか台無しになっちまったか?」

「かっかっかっ!なあに、かくゆう儂も魔力と身体が疼いて今にも飛び出したいくらいじゃ!あのサイクロプスへの警戒のために仕方なく残っているのじゃよ」


 後ろの台にずらりと立て掛けたぶっとい槍を指し示した。


 なんでも爺ちゃんの投槍スキルなら、ここからでも平地にいるトロールの頭をぶち抜けるらしい。ただ、そんな奥の手を警戒心の強いあのユニーク種に知られるわけにもいかないので、ここで泣く泣く待機しているとの事だった。

 

「そうか、そんな保険があるなら……俺達も安心して実践テストが出来るんじゃね?」

「おおっ!オヤビン、とうとうアレをやるんスね!?」

「ええっ、またミュルンが怒るよ!?……はぁ、しょうがないなぁ。あんまり無茶はしないでね」


 ルゥ兄ぃにゴーサインを貰ったことで、もう俺達を阻む者は無くなった。これから俺達がする事は誤解を招きやすいし、ミューの奴にもあまり歓迎されていないからだ。

 それでもやっちゃうけどね。


「爺ちゃん。間違っても俺に槍を投げないよう、これから起こる事をちゃんと見ててくれよ!」

「ほぁ?どういう意味じゃ?」

「ふっふっふ、俺達にも奥の手があるってことさ」


 俺はガーくんの肩によじ登って、肩車の体勢をとる。


「いくぞ、ガーくん!」

「ラジャー、オヤビン!」


 加護を授けた者と受け取った者、その双方向の繋がりがあるからこそ成し得る小さな奇跡。


「「魔力リンク!!」」


 そして、お互いの魔力を共有するという事は、俺の持つルゥ兄ぃの加護もガーくんに共有できるという事で……生命魔法を発動!

 ガーくんに植え付けたプラントマッスルが活性化し、予め調整された姿を象っていく。


 ただし……今回は先のモード”筋肉巨人(マッスル・ジャイアント)”とは別種のマンイーターを活性化させる。パワーを落として瞬発力と持久力を特化させた植物性筋肉(プラントマッスル)を使うのだ。

 

ゴリ、ゴキ、メキ、グシャリ…


 ゴーレムの身体をゴリゴリ鳴らしながら変形していく。体型はよりしなやかで流線形に、脚は細く、部分的には鎧の露出も許容しよう。

 ガーくんの赤い単眼をメインアイに、兜の赤いトサカを(たてがみ)に変形。俺の頭はガーくんの頭部の斜め下に配置だ。身体操作は運動神経の鈍い俺でなく、ガーくんを主とする。

 最終的な姿はミュルンの獣形態と対を為せるようにしているが、より禍々しくおどろおどろしい設定だ。そして…何よりカッコイイ!!


『人魔合身!カースド・ウルフェン!!』


「こ…これは!?な、なんと禍々しい姿じゃ…」


 ふふふ…自分でもちょっと厨二病が発症した自覚はある。

 だが、これは俺の歌唱スキルの新たな可能性でもあるのだ!


 デバフ特化型モード=呪鎧怨狼(カースド・ウルフェン)


 これは我が生涯(五歳)最高の自信作と言っても良い出来栄えだ。

 コンセプトとデザインが我ながら秀逸だと思う。これは描画スキルを持つ俺だからってのもあるが、なんかやけにイメージが捗ったんだよなぁ。

 まあ、モデルになった誰かさんには超不評だったけど…。


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