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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第三章
29/61

スタンピード


 俺達が北の砦に戻ってみると、既に戦闘は始まっていた。モンスターはゴブリン、コボルト、ウルフ、オーク等の雑魚ばかりなので、王国は討って出る判断をしたらしい。

 とは言っても騎士はおらず、まだハンターや傭兵ばかりだ。騎士団は強敵に備えて温存ってところだろう。


 ミュルンも人の姿になり、霊峰歌撃団はゆっくり戦場に近付いていく。


 正直、戦いに加わりたいとは思わない。

 弱肉強食の摂理が働くならば、それはそれで俺達が関与する事ではない。まあ…こちらに襲い掛かってくるから、ミュルンがいい感じにぶっ飛ばしているけどな。ついでに威圧もかけちゃうから、正気に戻って全力で森に逃げていく流れだ。こういう時は役立たずな俺だけど、ルゥ兄ぃとガーくんが護ってくれるから全然怖くないもんね。

 それに”子供ばかりだと侮っていたら最悪な絶望スポットだった”…って感じで狼狽える雑魚モン達を見るのは結構愉しい。雑魚モン達は生き残る可能性を得られるし、俺達もこの殺伐な戦場でちょっと愉快な気分になれるからお互いWINWINな関係だと言えるだろう。

 

 しかし、半ば娯楽になった雑魚モンホイホイは、知らず知らず戦場の真ん中へと引き寄せられていたようだ。

 真面目に殺し合いをしているハンターや傭兵に気味悪がられながら、俺達が次の遊び相手を物色していた時だった。


「こりゃーっ!お前等ぁ、子供が戦場で遊んでいいと思っとんのかーっ!!」


 砦の上から、聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。


 見上げると、あの将軍とか言ってた爺ちゃんが身を乗り出して今にも飛び降りて来そうだった。


「あ…俺、なんとなくあの爺ちゃん苦手…」

「アタシも。ガミガミ宰相の顔を思い出しちゃう…」

「善意のお説教は耳に痛いよね…」

「正論の暴力は、モンスターよりも怖いッス…」







          ◇






ガミガミガミガミ!!


 言葉として認識されない怒鳴り声が耳を通り抜けていく。

 脳味噌まで浸透しないとはいえ、騒音としては一級品だ。目の前で耳を塞がないだけ俺達は配慮ができていると思うね。


 第一次スタンピードを凌いで砦に招待された俺達だが、待っていたのは爺ちゃんのお説教だ。

 応接室のソファの上でルゥ兄ぃ以外の三人は、精神攻撃がクリティカル過ぎてフニャフニャのしおしおになっていた。


「こりゃあ!聞いとるのかっ!」

「聞いてねえよっ!」

「なんじゃとぉ!?」

 

 爺ちゃんと鼻をくっつけそうなくらいに睨み合うが、全然怖くないもんねー。

 ルゥ兄ぃやミュルンくらい大きければ拳骨の一つでも落としていただろうが、五歳の幼児には触れるのも恐ろしかろう?俺もオッサンの群れに囲まれると、いつ踏み潰されるかと気が気じゃないからな。ふふん…俺はちゃんと自分の弱さを自覚したうえで生意気な口を叩いているのだよ。

 俺が本当に恐ろしいのは、反射的に振るわれるアリア姉ちゃんの殺人拳だけだ。


「……ふーっ…言いたい事はたくさんあるが、開拓村を救ってくれた事は感謝している。よくやってくれた」

「最初から素直にそう言えばいいのに」

「…だね」

「…ッス」

「ぐぬぬぅ…」


 爺ちゃんの拳が震えるが、まさか俺の頭と同じくらいの拳骨を落としたりしないよね?俺、小さい幼児だよ?絶対、死んじゃうよ?

 可愛いアピールをしながら爺ちゃんをおちょくってやる。

 こういう高度な遊びは、良識のある人間にしか通用しないけどな。この爺ちゃんならこれくらい揶揄っても大丈夫だという安心感があるのだ。


 ジオニダス=ギネーブ将軍…というのが、この爺ちゃんの名前だ。

 この王国でも有数の武人で、騎士団長の経験もある軍の重鎮だそうだ。ミュルンも人間形態で喧嘩するとなると、勝てるかどうかちょっと怪しいらしい。


 しばらく俺を睨んでいた爺ちゃんだが、急に眉を寄せて首を捻った。


「なあ…お主、貴族か王族の落し(だね)だったりせんか?」

「はあ?俺は拾われっ子の孤児だぞ。強いて言えばルゥ兄ぃの子供と言えなくもない。だよねー?」

「うんうん…ちょっと照れちゃうなぁ。一応、世間的には弟の方が座りが良いんだけどね♡」


 ルゥ兄ぃが嬉しそうに俺の頭を撫でてくれる。


「ふぅむ。その金髪もだが、顔立ちが似ておるんじゃよなぁ…」

「んぅ…誰に?」

「それは…」


バッ!


 ルゥ兄ぃが右掌を向けるようにして、その先を遮った。


「ジオニダスさん…その先は後で教えて下さい」

「………うむ、分かった」

「…?」


 誰に似てるとかどうでもいい話なので、ルゥ兄ぃがさっさと話題を変えたようだ。


 俺もようやく目の前の茶菓子に手を付けられる雰囲気になったので、饅頭っぽいお菓子に齧り付いた。

 あっま~い!

 爺ちゃん、いい菓子喰ってんじゃねえか。


 あ…ガーくんの分、食べてもいいよね?

 ルゥ兄ぃもいいの?ありがと♡

 ミューは…(がるるる!)威嚇すんなしっ!

 ちっ…三十路過ぎても食い意地張りやがって…。


 そんな感じで俺達がまったりとし始めた頃、


バアアァン!


「ギネーブ将軍!第二次スタンピードがッ!」

「やはり来たかッ!」


 予想していたのか、爺ちゃんは然程驚いてはいなかった。

 しかし…


「そ、それが…オーガとトロールの群れの混成と…四本腕のサイクロプスが一体…」

「まさかッ!城壁崩しなのかッ!?」


 爺ちゃんは血相を変えて応接室を出て行った。


 俺達も…お菓子を口いっぱいに詰め込んで後に続く。


 城壁の上から見下ろすと、確かにオーガやトロールの群れが砦の前に集結しつつあった。

 そして、やや離れた遠方の木々の上に、頭を突き出した一つ目の怪物の姿があった。




 息を呑む騎士団の連中。

 休憩していたハンターや傭兵も、突っ立ったまま硬直していた。


 俺は…俺達の監視役にされた、気の毒な騎士の兄ちゃんに尋ねてみる。


「なあ(あん)ちゃん…”じょうへきくずし”ってなぁに?」


 兄ちゃんはへの字口でちょっと考えたが、最終的に客人対応と決めたようだった。


「……城壁崩しとは、ここ数十年我々を苦しめるサイクロプスの亜種です。奴は亜人種や巨人種の群れを誘導して砦や開拓村を襲わせるんです。成功すれば破壊の限りを尽くし、失敗しても配下を切り捨ててさっさと自分だけ逃げ延びる…悪賢くて最低・最悪なモンスターです!」


 最後には怒りの感情が篭っていた。

 騎士団としても、何度か煮え湯を呑まされた相手なんだろう。

 俺としては…あんな目立つ図体をしておいてファラ姐やガオルンのおっちゃんのような災厄に絡まれず何十年も生き延びているというだけで、ちょっと感心してたりする。

 俺の想像よりも、霊峰周辺の樹海や大森林は広大なんだと改めて実感した。


 それに…俺達はあのラスボスの存在にちょっとした感謝さえ覚え始めていた。

 最初…このスタンピードは俺達のやらかしだったかも知れないが、途中からコイツの悪意が介入したと知った事で俺達の罪悪感は急速に薄れてしまった。いや、もしかしたら俺達のやらかしがなくても今回のスタンピードは起こっていたのかも…いやいや、きっとそうに違いない!何者かの悪意が加わった時点で、責任の所在はそっちにいくのが筋ってもんだ。

 そう…俺達が一番求めていたのは、己の良心を納得させるためのロジックだったのだ。このロジックさえあれば、厄介なガーくんの良心回路さえ欺くことが可能だろう。

 その気になれば今からでも、この戦場からバイバイする事が出来るようになったのだ。


 俺とミューがにんまり顔を見合わせ、ルゥ兄ぃがやれやれと嘆息する。

 悪意に疎いガーくんは素直に小首を傾げていた。



 そんな…わいわいほくそ笑む俺達と違って、周りの人達の雰囲気はどん底に近い。

 腕に覚えのあるはずのオッサン等が、ところどころ絶望の翳を顔に貼り付けている。


 確かに人間より巨体なのに俊敏に動くオーガはとても一人じゃ相手できないし、それより倍の図体があるトロールなんか棍棒の一振りで城壁を抉っちゃうだろう。そんなのが群れで押し寄せて来たってのに、最後には悪名高いユニーク種で異形の巨人が控えているんだもんな。

 生死を懸けた戦いを前に、恐怖と緊張でガチガチになるのも無理はない。


 ふっふっふ…これは余裕とお気楽気分を取り戻した俺達が、元気の御裾分けをしてやらねばなるまいて…。


「ルゥ兄ぃ、一曲お願いしてもいい?」

「ふふっ…閃いたんだね?」

「ばっちり!」


 俺のセンスと第六感、それと”オタク”の知識がこの状況に最も適した曲を選んだのだ。


 ルゥ兄ぃは腰の巾着から四本の獣毛と植物の種を取り出して、生命魔法で植物を急成長させる。たちまちのうちに弦楽器(改造ギター)の形になったソレを、ギューン!と鳴らして魔力操作で調律を一瞬で完了させた。


「…で、リクエストは?」

「超時空要塞マクロス!」

「ほうほう、なるほど…勇壮で雄大な感じかな?」

「うん!さすがルゥ兄ぃ!」


 超時空要塞マクロス…それは後に幾つもの後継作品を生み出した名作シリーズの元祖だ。未知の巨人文明と遭遇した人類が、種の存亡を賭けて戦う話である。巨人種の群れを目前にしたこの状況によくマッチしているでしょ?

 えっ、アニソン知らない奴に聴かせても効果半減だって?

 それはある意味正論だ。しかし、それが全てでもない。

 一番大切なのは……


「お・れ・の~…歌を聴けえぇーーっ!!!!」


「「「「「…ッ!?!」」」」」


 城壁の一番上に立った俺に、脅えたオッサンどもの視線が集中する。


 そう…優先すべきは、俺が気持ち良く歌えるかどうかなのだ!


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