表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュテン童神  作者: 追川矢拓
第二章
23/61

とある下僕の憂鬱


#クリーバス視点



『『『『『♪ ピーヒャラ ピーヒャラ おどるポンポコリン ♪

 ♪ ピーヒャラピー お~なかが減ったよ~ ♪』』』』』


「………ハァ~…」


 鬼っシュテンの歌声に合わせ、後ろを歩く弟妹合唱団の元気な声が街中に響く。

 聴いたこともない不思議な歌・意外なほど巧い子供達の歌声に、すれ違う人たちは必ずと言っていいほど目を丸くして振り返っている。

 そして…そんな子供達の後ろを歩くのは、もはや完全に下僕扱いの俺である。


 情けなくて泣けてしまいそうな俺だが、それでも彼等の珍妙な歌を聴くのは愉しかった。テンポが速く軽妙な歌詞に心が躍ってしまう。この斬新な歌の数々をあの鬼っ子が作ったというのだから、改めてその才能に感心してしまう。そして、その軍門に降った自分の選択は間違っていなかったと改めて確信する。

 引き篭もりから強引にサルベージされた俺だが、この五歳児について行けば(哀れみの目を向けられはするが)残酷な揶揄いを受ける事はない。”鬼畜童児”(二つ名)の機嫌を損ねた時の報復が恐ろし過ぎて、誰も関わり合いになりたがらないからな。


 昨晩、酒場のショーの引き継ぎも大成功に終わり、子供達は朝から御機嫌だった。

 俺の気も知らずに…。


「あの…若様。やっぱり、お仲間に何も言わずに外出したのはマズイんじゃないですか?アンタに何かあったら、俺…今度こそあの人達に殺されてしまうんですが…」


 無駄とは思いつつ、もう何度目かになる諫言をしてみる。

 ちなみに若様というのは、なるべく貴族令息と護衛っぽく見せて余計なトラブルを避ける工夫だ。


「ダイジョブ、ダイジョブ。みんなそれぞれボランティアの仕事で忙しいし、それにコイツ等には昨晩頑張った御褒美をあげないとな。お兄ちゃんとして!」

「「「「「「イヤッフゥ~~ッ!!」」」」」」


 いかにも頭が空っぽな感じで、陽気な幼児どもが叫ぶ。

 コイツ等も、どっかズレているんだよなぁ。

 昨日の稼ぎを「お姉ちゃん達の服を買ってあげて♡」と全額孤児院に献上したくせに、朝食を食べた後に「午後まで待てないから、今すぐオヤツを食べさせろー!」とアホな直談判をしていた。

 お前等、隠れてオヤツを買うという発想は無いのか?


 まあ、そんなズレたところが合うのか、鬼っ子がアニキ面して「お姉ちゃんにはナイショで串焼きをごちそうしてやるぜい!」と言い放ったわけだが…


「な…なにぃ!休み…だと…」


 いざ市場に行ってみると、休みなのか時間帯が悪いのかいつもの場所に串焼き屋は居なかった。

 

「「………」」


 おそるおそる振り返ると…幼児たちのほとんどが目に涙を浮かべてぐずり始めていた。


「お…おい、下僕くん!この辺から一番近い食事処は?」

「え?ここから近いのは傭兵ギルドくらいですが、少し歩けば…」

「よしっ、傭兵ギルドに行くぞ!」

「はあっ!?待ってください!あそこはハンターの中でも上澄みの命知らず(バカ)が集まるところで、万が一絡まれたら俺でも護れるかどうか…」

「そんな事より俺の面子が大事なんだよ!ぐずぐずしてっとまた地獄火炎茸を…」

「ひいぃぃっ!わかりましたぁーっ!!」


 ……おかしい。

 今はあの理不尽な仲間もいないし、あのおぞましい茸も持って無い。

 それなのに…命令に逆らえない。

 寧ろ、この傍若無人さに安心するというか、従うのが当然のような…。


 ま、まさか…これが”敗者の烙印”の効果なのか?





 

          ◇         






 傭兵とは…迷宮に潜り、異界から来た魔物と戦う者たちの総称だ。異界の侵略者に送り込まれた魔物は、地上の魔物にくらべ明らかに殺意が高い。迷宮の魔力を喰って繁殖こそすれ、地上へ脱出しなければ未来は無いと本能的に知っているからだ。

 迷宮が魔物で満ちぬよう、半ば国に雇われる形で傭兵は殺戮者となる。魔石や魔力の濃い部位は金になるし、迷宮の餌を減らして成長の妨害にもなる。将来的に迷宮が決壊するのは確定しているが、その際は神々より使命を受け継いだ”守護者”が侵略者を迎え撃つという伝説がある。

 あの傍迷惑な獄炎竜ファラネールも”守護者”の一人だという噂もあるが、アレが関わると被害が倍になるというのが大方の総意である。



 ぐずり始めた幼児等を抱えて飛び込んだ建物は、ハンターギルドによく似た造りをしていた。

 ぎょっとした顔で見つめてくる荒くれ者を無視して、酒場へ直行した。


 傭兵どもの顔色など知ったことか!

 幼児たちに泣かれる方が大問題だ。そして、鬼畜な五歳児の癇癪は傭兵との喧嘩より恐ろしい。


 子供達を椅子に座らせてウェイトレスに注文する。


「とりあえず、ジュースを七つとエールを一つ!あと子供でも食べられそうなツマミを出してくれ」

「は、はい…」


 勝手に注文したが、鬼っ子は「よきにはからえ」と腕を組んで頷いている。やはり、傍若無人でも根は単純なので、上手く持ち上げておけば何とかなりそうだ。


 キョロキョロと傭兵を指差してはしゃいでいる幼児たちに”お願いだから大人しくしてくれ!”と祈りながら、周りの反応に注視する。静寂を好む傭兵達は不快な顔をしているが、あえて絡んでこようとするバカは早々いないだろう。子供に泣かれたら悪者になるのは判り切っているしな。

 おまゆう…なんて言わんでくれ!心底反省してんだから!



 とりあえずの危機は脱したと思うのも束の間、一人の傭兵が立ち上がった。


「おうおう、ずいぶん場違いな連中をつれて来たじゃねえかよ。クリーバスちゃんよぉ?」


 チッ、面倒臭いヤツがいやがった。


「てめえの噂は聞いてるぜ。子供のパーティーにボッコボコにされたんだってなあ。砕け散った自尊心をこんな餓鬼どもに慰めて貰ってんでちゅかぁ?」

「………」


 この中年野郎はBランクのゲッツだ。若くしてBランクに上がった俺に嫉妬してよく絡んできたが、逆に煽り散らかしてやったら傭兵ギルドに逃亡した経緯がある。喧嘩なら俺が勝つが、コイツは絶妙に手を出し難い距離感を心得ているからタチが悪い。


 俺がどうやってこのバカをあしらおうかと考えた矢先、視界に入った光景に目を瞠った。

 ゲッツの斜め後ろにいる鬼っ子さまが、パチンコらしきものを目一杯引いていた。


「天誅だぜい!」


バシィッ!


「ぐわっ!?ゲホッ!ガホッ!胡椒か!?め…眼が痛えっ!?」 

「わっはっは!惜しい…唐辛子も混ざってるぞ」


 掟破りの先制攻撃…だと…

 どんだけ喧嘩っ早い幼児なんだよ!?


 俺が唖然としてる合間に、ドワーフ幼女(ロロップ)木の椅子(スツール)を振りかぶっていた。


「ちょんわ!!」


ボキャアッ!


 ゲッツの向う脛で頑丈な椅子が砕け散った。


「んぎゃあああッ!?」


 大の傭兵が足を抱えて転げ回る。


「シュテン兄ちゃんと弟達はあたちが守るっ!!」

「んぇ!?ロロ姉ぇ、妹は…?」


 可哀想なウサ耳幼女が涙目になった。


 暴力のプロが幼児に甚振られる光景は、実にスカッとするのだが…

 ……うぅ、頭が……あぁ、胃も…


「ぐおおお……く、くそ餓鬼どもぉ…ぶっ殺してやるっ!!」


 面子を完全粉砕されたゲッツが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらナイフを抜いた。


 同業者の前でこんな恥辱を受けたんだ。元凶を殺して全てをなかった事にしたいのだろう。

 俺に比べたら全然大した事ないんだが…。

 

 俺は剣を抜きながら、不敵に次弾を装填する鬼っ子の前に出る。

 忠実な騎士のごとく、上司に媚びを売っておかねば。


「ゲッツよ。世の中には関わってはならない人間がいるんだぜ。まあ、幼児の擬態をした鬼子ってのは、流石に凶悪過ぎると思うけどな」

「おい…俺は正真正銘の可愛い五歳児だぞ!」

「………」


 とりあえず聞こえないフリで。


 しかし、俺が主に献身を見せる前に、横合いから乱入した何者かが出番を掻っ攫った。


「下衆めが!貴様は万死に値するッ!!」


ゴッガァアアッ!!


「ぎゃひぃ!?」


 乱入者に凄い力で殴り飛ばされ、ゲッツは真横に飛んで壁に激突した。

 一発で失神したゲイツの奥歯は…ご愁傷様です。


「…清らか…妖精たち…刃…許せん……」


 乱入者はなにやらブツブツ呟いているが、確実に怒っているのだけは判った。

 ただし…何故か、凄い目付きで子供等を睨んでいる。

 病的なまでに子供が嫌い…なのか?


「な、なんで…アンタが…」


 正直、組みし易いゲッツの方がまだマシだった。

 俺なんかじゃ、どうやったって彼女には勝てないのだ。その立ち姿を見るだけで、猛獣を前にしたかのように俺の身体が震える。

 獅子獣人である彼女は、数多の傭兵から畏れと憧れを向けられる王都のカリスマだ。通常はハンターギルドでランクを上げてから傭兵として迷宮に挑むが、彼女は新人からソロで迷宮に挑み続けてAランクに駆け上がった。

 誰が付けたか、その二つ名が全てを物語っているだろう。


「”殺戮女帝(マーダークイーン)” マゼンダ…」

 

 鮮血が生える美しき猛獣。

 王都にて最強との呼び声も高い女傑であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ