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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第二章
22/61

引き継ぎ


ウオオオオオオオオオオオ!!


 王都ハンターギルド北門本部の酒場。夜。

 講演三日目、最終日。

 半裸になったおっさんどもの声援の中、俺達”霊峰歌撃団”の講演『お願いマッスル!』は大盛況のまま終わりを迎えていた。


 周囲から投げ込まれた銀貨の大部分をルゥ兄ぃがスライム化した水魔法で回収し、取り残しをガーくんがせっせと拾い集める。未だ投げ込まれる銀貨はミュルンが電光石火で空中キャッチしていく。この余興だけでも客が沸いている。

 メインボーカルの俺は、中心で手を振って目一杯可愛らしく声援に応えるのがお仕事です。


 マッスルブーム伝説の始まりとなったこの講演は、ここにいるラッキーなおっさん達の自慢話によって後世まで語り継がれるだろう。

 無論、そのためにはこのブームを牽引する新しい後継者が必要なわけで…


「みんな聞いてくれっ!!

 今日で俺達”霊峰歌撃団”の講演は終わるが、このブームはまだ終わらないぞ!明日、東門支部で俺達の後継”マッスル聖女隊”と”弟妹合唱団”が講演をやる予定だ!もし暇があれば、是非とも彼女たちの美声を聴いてやってくれよなーっ!!」


 俺の言葉とともに、マルチャとプリモが手を振りながら前に出る。


「「「「「うぉおおおおおおおーーっ!!」」」」」


 おおう…思ったより反応がいいじゃん。

 まだまだこのマッスルブームに酔いたいおっさんは多いようだ。


 あっ、当然ながらアポは取ってないよ。まあ、邪魔する奴がいたらミュルンにぶっ飛ばしてもらうし、どうせギルド長が勝手に話をつけてくれるんじゃないかな?


「オヤビン、ほんとに明日あの子たちにやらせちゃうんスね」

「あたしはあの子たちがボスの影響で普通の人生を歩めなくなっちゃったのが不憫で…」

「おい、なんで過去形なんだよっ!?俺はいくつか歌を教えて、ちょっと小遣い稼ぎさせるだけだぞ。その程度で他人の人生が変わって堪るかい!ね…ルゥ兄ぃもそう思うよね?」

「えっとぉ…シュテンは自分の思う通りにすればいいよ。全責任は僕が………ち、力の及ぶ限り…なるべく精一杯…非力ながらも……頑張ってみる、ね」

「なんでそんなに歯切れが悪いのっ!?」


 俺だって毎回やらかすわけじゃないんだからなっ!

 あの弟妹たちには才能があるし、ナンチャッテ聖女達もやる気は充分なのだ。今日から始めた歌の特訓だが、マッスル聖女隊も弟妹合唱団も最後まで通しができるくらいにはなった。明日も朝からおさらいすれば、自分等の輝きだけで充分に観客を魅せられるようになるだろう。


「まあ、期待しててよ。俺達の後継者は思ったよりも出来る奴等なんだから」








          ◇







 翌日。夜。

 ハンターギルド東門支部の酒場。


 酒場の雰囲気は期待に満ちたおっさん等でいっぱいだ。

 昨日の宣伝が効を奏したのか、酒や料理を並べたまま俺達が出てくるまで時間稼ぎしているっぽいのもいる。そういや、正確な時間指定はしていなかったな…。


 今、俺達がいる場所はギルドカウンターの裏側の一室である。

 ギルドに入った途端、ハンターギルド東門支部長だとかいう爺さんにここへ連れ込まれたのだ。

 なんか、終始愛想が良くてジュースまで出されたんだが、これはギルド全体でマッスルブームを歓迎している証左なんだろう。こっちとしては場所代も払わず、勝手に騒いで派手にお金稼ぎしてる感じだったのでちょっと意外だった。


「よっし!客は満員御礼、お前等のデビューにはもってこいのシチュエーションだな。緊張なんかせず思いっきり愉しんで来い!」

「「「「「「イィィヤッハァァア~~ッ!!!」」」」」」


 欠片も緊張してなくて元気いっぱいな弟妹たち。なんて頼もしい奴等なんだ…。

 それに引き換え…


「な、はいっ!お師匠…ががが頑張りますぞ~ッ!!」

「しゅしゅしゅシュテンくん、ぜったいせいこうさささせるから…」

「あ、あれ?ひ、膝の震えが止まらないよぉ~…」


 こっちは駄目だな。魔物相手に殺し合いしてたくせに、情けない…。

 初日限定だけど、弟妹たちが一緒に歌ってくれる事に感謝しろよ。この講演のためにたっぷりお昼寝させたので、講演中にいきなり電池が切れる事はないだろう。


 こうして、俺の弟子たちの初ライブが始まった。


『♪ お願いマッソ~ めっちゃモテた~い ♪

 ♪ お願いマッソ~ めっちゃ痩せたいyes ♪

 ♪ お願いマッソ~ めっちゃモテたいから ♪

 ♪ ウー (キレてるよ!) ♪

 ♪ ハー (キレてるよ!) ♪

 ♪ 筋肉にお願い! ♪』


 マッスル聖女隊の二人をメインにして、バックダンスを踊る弟妹合唱団が元気を爆発させる。

 案の定、観客の七割は幼児達の方に庇護欲刺激されまくりだ。


 ただし、これが園児のお遊戯会と同じだと思ったら大間違いだ。

 短期の練習だったのに弟妹たちは不思議なほど息が合っている。

 アイツ等は無邪気で幼いが、笑顔の裏にプロの顔を隠しているのだ。あの齢でお金の大切さをよく理解していた。なんせ、自分の空腹を我慢して弟妹達にごはんを食べさせてくれる…そんなお姉ちゃん達の切なくて深い愛情をよく知っているからだ。

 

 今まで聴いたことのない歌と曲調。斬新な踊りと個性的なテーマ。そして、アイドルの卵である綺麗な少女たちと芯のあるショーを披露する幼児たち。

 これで人気が出ないはず無いだろ?

 本家の俺達もうかうかしていられないな…。


 かくして大盛況のままOPとEDを歌い切った幼児たちは、銀貨一枚と書いた箱をもって集金作業へと移行した。

 これは俺のアドバイスを元に彼女等が考えた集金方法だ。俺達の場合は俺達を恐れて金払いは良かったが、女子供ばかりだと出し渋るケチんぼがいるかもしれない。

 だから、良心と庇護欲に訴えろ…と。


「わあっ、こんなに!?ありがとう、おじちゃん♡」

「あいがとね。お姉ちゃん、大好き♡」

「ふ…ふん。ありがたく貰ってあげるんだからね!」

「よっ、兄ちゃん太っ腹だねっ!あんがとーっ♡」

「やぁん、そんなに撫でないで~!」


「………」


 みんな笑顔のおっさん等にぐりぐり頭を撫でられて、すっごく歓迎されてるんだけど…。 

 そいうや、俺の頭を撫でる奴なんていなかったなぁ…。


 幼児の王道をこれでもかと見せ付ける弟妹達を見て、何でか俺は大きな敗北感を感じた。


「ルゥ兄ぃ…俺、どこかで間違えちゃったのかな?」

「えっとぉ…」


 もうっ、何でまた目を逸らすのぉ!

 そして…こんな時、決まって揶揄ってくるのが…


「ぷぷぷ…ボスの灰汁(あく)の強さは元々だもんね。つまり、生まれた時から…」

「北斗一指拳」


 デリカシーの無いアホの丸出しお(へそ)に、人差し指をズボッと突っ込んでやった。


「んぎゃあ!」


 とても美少女が出すとは思えない悲鳴をあげて、ミュルンがお腹を抱えて倒れた。

 秘孔の威力か、しばしプルプル震えて動けないようだ。


「お、お、お…乙女のお腹に何てことを…。ぜ、絶対…いつか責任取らせてやるぅ~!!」

「ふ…それが辞世の句か?残念だが…お前はもう死んでいるッ!」

「おお~…ミュー姉、死兆星は視えるッスか?」


 なんてやってたら、何を憂いていたのか忘れてしまった。


「う~ん…」


 首を何度も捻るが、どうにも思い出せん。

 たぶん、大した事じゃなかったんだろう。



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