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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第一章
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霊峰の隣人

本日投稿二回目。

 ルゥ兄ぃが昼ごはんを作っている隙を盗んで、俺…シュテンは我が家の外に出た。

 振り返ると、ドア扉の付いたぶっとい大樹がそびえ立っている。


 このいかにもエルフっぽいファンタジー樹木ハウスは、ハイエルフの種族スキルである生命魔法でルゥ兄ぃが建てた家だ。

 この霊峰オーエヤムの中腹には他にもルゥ兄ぃの建てた家が何件かあるが、隣にある小さな森(食料の宝庫)も合わせてこの集落のインフラを一手に支えている。そんな兄の優秀さが自分の事のように誇らしい。


 まあ…そんなお方の弟であり子でもある俺は只の凡人で、よちよち歩きのぽっちゃり三歳児なんだけど。


 小さなむっちりお手てに、ふっくら頬っぺ。まんまるお腹に短い手足。髪は一応金髪だが、ルゥ兄ぃの輝くような銀髪の前ではくすんだ小麦色でしかない。服は材料から全てルゥ兄ぃのお手製で、エルフっぽいファンタジー風のセンスなので結構気に入っている。

 今の俺の武器はこの幼さを全開にした可愛さだけだ。幼女のような薔薇色の将来性も無いし、ルゥ兄ぃのような神性(カリスマ)も無い。幼くして不老をゲットするためには幾つかの方法が考えられるが、”異世界記憶”+αを最大に駆使して世間を渡る必要がある。


「そして、+αといえば…まずは仲間集めなんだが…」


 俺はちらり…と隣(約50メートル先)にある別の大樹を見やる。


 そこには我が家と似たような樹木ハウスがあるのだが、その巨大な根っこに隠れてピコピコ揺れるアホ毛がいた。

 …ていうか、犬耳よりもアホ毛の自己主張が強過ぎんだよ!


「はぁ…アイツはあいかわりゃずだにゅ」


 気になるのに近付きたくない。けど、やっぱり気になる。そんな心情がありありと見て取れる行動だ。あの隣人幼女は…名をミュルンという。外見年齢はルゥ兄ぃと同じくらい。俺がここに拾われて来る前はルゥ兄ぃともそこそこ…十年近い隣人付き合いをしていたと聞く。さすが神獣と謳われる獣人の上位種だ。寿命も普通の獣人の十倍くらいあるらしい。

 ルゥ兄ぃが俺にかまけて以来疎遠になったというが、あの態度はそんな単純なものでないだろう。なんせ俺には前世…じゃなかった、人生の相談役とも言える”テンマ”の記憶があるからな。ルゥ兄ぃから様々な情報を集めた俺は、おおよそ彼女の心情を把握した。

 あれはいわゆるペットロスだ。なんでも俺が来る前に可愛がっていた小動物に死なれたらしく、それ以来あまり他人と関わらなくなったらしい。長寿種族あるあるだな。

 実は俺の参照元である”テンマ”もかなり犬を可愛がっていたらしく、うっかりその時の悲しみに触れてしまった俺は大ダメージを受けて寝込んでしまった事がある。だからこそ、ルゥ兄ぃに俺の所為で同じ悲しみや思いを味わわせる事が恐ろしくなった。


 一般的には時間が解決してくれると思うが、ミュルンに関しては俺の幼馴染第一号としてロックオンしているのだ。早々になんとかしたいのが本音だが、今のところ良い案は思い浮かばない。

 なんせ、近付いただけでびゅんと風のように逃げてしまうんで。



「とりま、おしゃななじみ計画はおいといて、まじゅは当面のもんだいからとりかかりゅかにゃ」


 俺は傍に落ちていた枝を拾い上げて正面に構える。

 意識のスイッチを切り替えると、俺にしか視えない緑色の魔力が全身を包んだ。


 これぞ、ルゥ兄ぃと俺の絆の証。その名を”加護”といい、人間世界では”祝福”と呼ばれることが多い。

 これはスキルシステムのようにきっちりした体系がなく、世間ではあまり役に立たないと認識されている神話時代の残滓だ。なんせ強者から弱者への執着がよっぽど強くないと起こらない現象のうえ、効果はほんのちょっぴり身体が丈夫になるだけなのだ。親が英雄レベルなら赤ちゃんの健康は安泰かもしれんが。

 ちなみに執着がマイナス方面だと”呪い”となるので、一般的には要らない子扱いの現象だ。


 たっだ~し!これが種族の垣根を越えた執着となると、ちょっと話が変わってくるのだ。実力差が天と地ほども離れていれば受ける加護も強くなるし、加護の種類も種族スキルや特性によって変化する。つまり、ルゥ兄ぃの愛情パワーに比例したハイエルフの生命魔法が、微量だが俺にも使用可能となるのだ。今の俺では植物の自在生長なんて出来ないが、少しばかりの体力や治癒力を持続回復できる。

 最近、コツを掴んだのもあり、やっと加護の扱いに慣れてきたしぃ…。


「くっくく…このみなぎるパゥワーで、きょうこそおみゃえにいんどうをわたしちゃる」


 タイミング良く…俺の殺気を浴びながら、我が天敵がふてぶてしくも陽光の中に姿を現した。


「しょせん、われりゃは相いれぬ天てき。きょうこそは討ちとってくれようぞ!いざじんじょうにしょうぶじゃ、コゴローッ!!」


 俺は宿命のライバルに啖呵を切って、棒切れを突きつけた。


「……ぷすっ。ふぅ~、なぁ~~…」

「なぬ!?」


 は…鼻で嗤ったうえ、盛大にあくびしやがった…だと?


 怒りで枝先がぷるぷる震える。

 幼児の心は傷つきやすいんだぞっ!もっと労わりをもって接しろよなッ!

 

 こっちを見上げてるのに見下ろしてるようなふてぶてしい敵は、この世界では既に絶滅したと云われる原種猫。そして、あっちの記憶では見慣れた感じの茶トラのデブ猫…。

 さらに言うなら…真名がコゴロー=モーリという、いかにも俺の疑心と神経を逆撫でするような存在なのだった。


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