初めてのお買いもの
『お願いマッスル』で一夜にしてお金持ちになった翌日。
俺たち”霊峰歌撃団”は初めてのお買い物に挑戦する事になった。
まず第一に買うもの…それはガーくんの装備である。
全身甲冑でゴーレムのパワーと耐久力のあるガーくん(ガーグ)だが、まだ若過ぎて魔力が少ないので持久力に乏しく五歳の俺とタメを張るくらいに鈍足である。俺の歌で底上げしないと、D級くらいの総合戦闘力しかない。
しかし、逆に言えば伸びしろはたくさんあると思う。
今は身体を魔岩にて構成しているが、上質な素材になるほど魔力の消耗は減り活動時間も増える。またミスリルとかになると増幅効果も見込めるという。それに粒の大きな宝石であれば魔力を蓄える事も出来るらしいので、改造次第では夢が拡がりんぐなのだ。ガーくんの夢である合体ロボも、将来的には充分可能だと思ってる。まあ、技術的な問題も将来に丸投げだけど…。
そんなわけで現在、王都でも有名な武器屋に来ているわけなのだが…
「なんでこんなにバカ高いんだよーーっ!?」
俺でも片手で持てそうなミスリルの短剣の値札を見て、思わず叫んでしまった。
その値は白金貨にして30枚。
俺達が昨日稼いだ銀貨100枚=金貨10枚の三百倍の値段である。
ちなみに…鉄貨(パン一個相当)が10枚で銅貨。銅貨10枚で銀貨。銀貨10枚で金貨。金貨からは100枚で白金貨となり、白金貨が100枚で虹貨となる。
ついさっきまでお店まるごと買えそうなくらいお金持ち気分だったのに、今は現実の厳しさで頬を張り飛ばされた気分である。およそ、昨日のような稼ぎを一年間続ければ溜まる額だが、地道に稼ぐなんて俺達には到底不可能だ。王都に拡がりそうなマッスルブームを起こしといてなんだが、あのショーは三日で終わるつもりである。
楽しさ第一の子供はとても飽きっぽいのだ!
思いっきり落ち込んでいる俺の後ろで、仲間達は全然平気そうだった。
「まあ、こうなるとは予想してたけどね」
「相変わらず人の世は侘しいです」
「あの…オイラの買い物はまた今度でいいッスから…」
うん…所詮、一晩で稼げる金額なんて高が知れてるよね。
俺が舞い上がっていただけでした。
「なあ、お前等…用事が済んだら早く帰ってくれないか。何故かさっきから、ハンター達がお前等を見た途端に血相を変えて店から出て行くんだが…?」
武器屋の親父が怪訝そうに…ちょっと脅えた顔で言ってきた。
むぅ、解せぬ。多少のいざこざはあったが、昨日のショーで俺達は受け入れられたと思うのだが…。
「はいはい、大人でもヤンチャ坊主の相手なんてしたがらないもんだよ。特にボスはちょっとアレな子だから…」
「アレって、どういう意味だよ!?俺はそこらの幼児より断トツお利口なのが自慢で…」
「まあまあ、オヤビンは一周回って切れ過ぎる漢ッスから…」
「アハハ…お騒がせしました~」
半ば追い出されるように…ミュルンとガーくんに背中を押されて武器屋を出た。
もうちょっと…出来ればコゴローに対抗できる武器を物色したかったのに…。
あとルゥ兄ぃ…もうちょっと俺をフォローしてくれてもいいんだよ?
◇
「まったく初めての…おきゃいものが…もぐもぐ…んぐ…こんなのに…あぐっ…もぐ…」
現在、俺達は市場にある屋台にて串焼き肉をやけ喰いしていた。
せっかく、ガーくんのパワーアップ計画を立てていたというのに無期限延期である。遊びの一環での仕事ならともかく、地道に稼ぐとなると移り気な俺達には一気にハードルが高くなるのだ。今ばかりは、不平を言いながらも黙々とお仕事できる大人を尊敬しちゃうね。
串にかぶりつく俺の首には昨日と同じく首輪とロープが繋がれ、端をミュルンに握られている。
このエセ幼女は、こういう非人道的な事を平気でやるから恐ろしい。ほんのちょっと…道端で寝てた乞食の爺さんに少~しだけ本能がムズムズしただけなのに…。
「ぅぷ…もう喰えにゅ…」
ちょっとタレが塩辛く味の濃い肉に、ルゥ兄ぃの繊細な味付けに慣れた俺は串一本で満腹になってしまった。五歳児に大人用の串はさすがに重いのだ。
両手に持った串の左手側だけ丸々残ってしまったので誰かにあげようかと見るも、ミュルンも両手が塞がっているし、ルゥ兄ぃはそもそもこういう脂っこいのは好みじゃない。そして当然、ガーくんに食べる機能は無い。
更にキョロキョロと見渡してみると、十歳くらいのボロい服の少女が俺と同い年くらいの幼女を二人連れてとても餓えた眼で俺の串焼きを見ていた。
俺と…首輪で繋がるミュルンもトコトコ近付き、俺は左手の串を掲げて右掌を上に向け…
「お手」
ごちん!
光の速さで脳天に拳骨を落とされた。
「びえええ~んっ!?イジめられたあああ~っ!!」
「ボ…ボス!?」
俺は突然の激痛と敵出現にパニックになり、ミュルンの胸に飛び込んでわんわん泣き喚いた。
「わあああああああ~ん!!いだいよおおお~!!びぃええええええええ~ん!!」
ミュルンの胸で泣き喚くシュテンの後ろでは、ルシュルゥと貧乏少女のお互いが必死に謝っていた。
「ゴメンナサイ!!ゴメンナサイッ!!つい、反射的にぶってしまって…ごめんなさいっ!!」
「ゴメンナサイ!!ゴメンナサイッ!!ウチのシュテンが大変に失礼な真似をしましたっ!本当にごめんなさいっ!!」
そんな二人の脇ではシュテンに放り投げられた串焼きを空中キャッチして、どさくさに紛れてガツガツと胃に納める逞しい幼女達がいた。
それらを冷静に客観視していたのはガーグ一人だけである。
「うんうん、さっきのはオヤビンが悪いッス。人間の子にもそれなりのプライドがあるんスよ」
オヤビンには無いのかも知れないッスが…とは流石に口にしない。
悪気が無い善意でも、自分と同じ基準で行動しては駄目なのだ。そういう意味で何気に常識を踏み外しがちなシュテンの行動は、優秀な反面教師としてガーグの糧になっていた。アニソンによって心のエネルギー(熱血)を注入される以前の無機質な自分なんて、今では本当に生きていたのか自信が無いくらいである。
なのでシュテンはまさしく大恩人であり、その存在自体が無敵の合体ロボを目指すガーグの希望でありエネルギー源なのだ。
そんなわけでシュテンの舎弟として申し分ない日々を送っているガーグだが、もう一人の仲間にして姉貴分であるミュー姉には全く異なる行動原理があるようだった。
「はぁ~。ボスの泣き声はなんか…心が洗われるよねぇ~…」
頼れる姉貴分は泣き叫ぶシュテンの頭を撫でながら、なんとも言えぬ恍惚の笑みを浮かべていた。二人で一緒に紙芝居の台本をグフフ…と観賞する時と同じ顔である。
何故、あんなに清々しくも陶酔した表情をしているのか?
心が洗われるとは、いったいどういう心境なのか?
人の…それも少女のお気持ちなど複雑過ぎて理解を越えていた。
まだまだ人の観察と勉強が足りていないと、実感するガーグであった。




