表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュテン童神  作者: 追川矢拓
第二章
17/61

お願いマッスル

(お願いマッスル)



 深夜にハンターギルドに大樹を生やした翌日。

 午前中は近所の子供達と遊びまくった。

 何せ突然ハンターギルドに生えた巨大樹を多くの人間が見物に来たのだから、そこから子供を引っこ抜くなんて簡単だ。そして、一緒にハンターギルドに突入して、二階の角部屋から滑り台で滑り降りるという行為を延々と繰り返した。

 御蔭で数十人の子供達とすっかり呼び捨てで笑い合う仲になった。

 無論、途中でいちゃもんを付けてきた荒くれなおっさんが幾人かいたが、ミュルンの関節技とガーくんのぶちかましでK.Oしている。


 昼食の後は、夜のイベントの為にたっぷりお昼寝した。


 午後はギルドのお仕事を受けてみた。

 ペット探しという、いかにも子供ハンターにぴったりの仕事だ。対象は主に子犬やうさぎ、時々スライムなどもあるという。猫の原種が絶滅してしまった(噂)原因は伝染病等いろいろあるが、主に魔物が押し寄せた際に逃げずに隠れる事を選んでしまった所為だと云われている。


 ペット探しにおいては俺が大活躍した。

 変身して獣人になり、クンクン鼻を利かしてペット達の居場所を突き止めた。ちなみにミュルンには断固拒否されたけどな。

 ただ…俺が雰囲気の良さそうな壁や建物の角にオシッコしようとすると、決まって止められてしまう。終いには首輪とロープで繋がれて、すっかりワンちゃんのお散歩みたいになってしまった。

 解せぬ。


 そうして、日が暮れ、仕事時間の終わりがやってきた。

 俺達のペット探しなんて大した稼ぎにはならず、せいぜいお腹一杯イマイチな夕食が食べられるくらいだった。

 やはり、霊峰歌撃団の本格稼働は、今夜の計画が本命となるだろう。

 

 現在はハンターギルド内も正規業務を終え、酒場の方が盛り上がっているのが聞こえる。


「さぁて、いよいよ俺達の出番がやって来たぜい!」

「オヤビンの歌を布教するチャンスっスね!」

「あれはインパクト抜群だもんね。紙芝居が無くても充分通用すると思うよ」

「それじゃ、そろそろ行きましょうか?」

「「「おーっ!!」」」


 元気な掛け声をあげた俺達は、駄目な大人どもの空間へと殴り込んだ。










 俺達が酒場に入っていくと、こちらを見たおっさん共が静かになり、ざわざわと動揺する。


「お、おい…何で鬼畜童児が…」

「大人の時間だから安心してたのに…」

「あの大樹の元凶って話だが…」

「ほんとか?午前中、ギルドはほとんどパニック状態だったんだぞ」

「実行犯は近所の子供を連れ込んで遊んでたけどな」


 俺等が酒場の中心に着く頃には、ざわざわが罵声へと変わっていた。


「帰れーっ!!」

「ここは大人が唯一安心できる場所なんだぞ!」

「子供はもう寝る時間だろうが!」

「出てけーっ!!」

「ウンチたれーっ!!」


 二階席を含めて百人余りのおっさん共に罵声を浴びせられる事は覚悟していたが、一つだけ許せない事があった。


「今、ウンチたれって言った奴誰だっ!?地獄火炎茸投げんぞッ!!」


 俺の言葉にガーくんがトサカに手を近付けると、一気に場が静まり返った。

 やがて、ひそひそ囁き始める。


「ま…まさか、ハッタリだよな?」

「地獄火炎茸って、街中に持ち込んだだけで死罪だぞ」

「阿保か!他人様の顔面に脱糞するような奴だぞ」

「クリーバスはもう廃人同然だとか…」

「一晩であの大樹を生やすんだ。茸の千や万くらいは…」

「通報しても、王都が炎上する未来しか…」

「あ…納得…」


 何やら俺達が冷血漢みたいなこと言ってるが、昨日のあんちゃんはルゥ兄ぃの治療を受けて既に全快しているんだぞ。まあ…今はトラウマだか何だかで引き篭もってるらしいけど…。

 ここはさっさと行動に移させてもらおう。


「え~、本日は俺たち霊峰歌撃団の突撃ライブをやっちゃうぞ!もし、気に入ったら銀貨の一枚でも投げ込んでくれよなっ!!」


 俺が自分でも傍迷惑と思う口上を述べると、案の定、様々なツッコミが飛んできた。


「ふざけんなーっ!!」

「帰れ!」

「誰が金なんぞ出すかーつ!!」


 カウンターの向こうではハゲのおっちゃんが茹蛸になって、こっちに向かって来る。


 くくく…こんなアウェーこそ突撃ライブの醍醐味なんだぜい!


「そんじゃ、みんなあ!『お願いマッスル』ミュージックスタートッ!!」

「「「イェーッ!」」」


 未だ進化が止まないルゥ兄ぃのギターテクが酒場に響き渡ると、うるさかったおっさん共の喧噪がピタリと止まった。吟遊詩人のスローな音楽しか知らないこの世界の奴等には、異次元の音に聞こえるんだろう。

 そして、俺の歌やミュルンとガーくんのダンスもな!


『♪ お願いマッスル めっちゃモテた~い ♪

 ♪ お願いマッスル めっちゃ痩せたいyes ♪

 ♪ お願いマッスル めっちゃモテたいから ♪

 ♪ ウー (キレてるよ!) ♪

 ♪ ハー (キレてるよ!) ♪

 ♪ 筋肉にお願い! ♪』


 これはアニメ”ダンベル何キロ持てる?”の主題歌”お願いマッスル”だ。

 ボディビル・ジムに通う少女たちの人間模様をシュールなギャグで盛り立てる作風だ。まあ、こういうのは俺の紙芝居には起こし難いが、このアニメは歌だけでも超面白い。


「「「「「………!」」」」」


 さわりだけで既におっさん共が惹き込まれている。筋肉しか取柄がないおっさん共が、それを長所にしてモテたいとか言われたら共感性MAXになるのも当然だ。

 あ、ちなみに歌の中の絶妙の掛け声(合いの手)は、ルゥ兄ぃの美声である。


『♪ ヒップレイズ!サイドベント! ♪

 ♪ (腹筋6LDKかい!) ♪

 ♪ ダンベルカール!ハンマーカール! ♪

 ♪ (二頭がいいね!チョモランマ!) ♪

 ♪ プッシュアップ!ベンチプレス! ♪

 ♪ (大胸筋が歩いてる!) ♪

 ♪ (仕上がってるよ!仕上がってるよ!) ♪

 ♪ (筋肉本舗!はいズドーン!) ♪』


 ミュルンとガーくんが交互にトレーニングを実践して魅せている。

 正しいトレーニングの教育としても優れた歌なのである。


 俺たちを止めに来たハゲのおっちゃんも、うずうずしたままその場に立ち尽くしていた。

 酒場中のおっさん共がそわそわして落ち着かなかった。


 くくく…筋肉が疼くんだろう?普段、婦女子から聞く事のない筋肉賛美の歌だ。漢の人生を肯定されたみたいで嬉しいんだろう?俺だってもし夢破れて大人になるなら、マッチョを目指す。そりゃあ、男の夢だもんな。

 まあ…身近な幼女にも勝てない筋肉に、どこまで存在理由があるのかちょっと疑問だが…。


『♪ 理想の自分を思い描いたら ♪

 ♪ 今すぐ始めよ!トレーニング!(イエス マッスル) ♪

 ♪ ヤバめの現実 何とかなるはず ♪

 ♪ ダンベル片手にフリーウェイト!(ナイスマッチョ) ♪』

 ♪ 焦りは禁物 無理しちゃ沈没 ♪

 ♪ 負荷のかけ方を調節!(そう筋肉!) ♪

 ♪ 限界10回ギリギリ全開! ♪

 ♪ 3セットしたらオーライ!(ナイスポーズ!) ♪


 皆で振り付けを練習しといて良かったぜい。

 進化形紙芝居(アニメモドキ)でなくとも、それに匹敵するインパクトがこの歌にはあるのだ!

 そして…俺の歌を聴いて心が奮い立たない奴なんていないのだッ(断言)!!


『♪ 辛いこともある筋肉道(筋肉道) ♪

 ♪ モテモテボディがほしいの! ♪

 ♪ 綺麗なワタシに大変身(大変身) ♪

 ♪ 見てなさい!(さい?)さい!(さい??) ♪

 ♪ (はいサイドチェストーッ!) ♪』


 幼女とチビ甲冑が行う横向きのポージングに、酒場の漢たちも一緒にポージングしていた。


 それからは次々と上半身を脱ぎ始めるおっさんが増えていき、ミュルンやガーくんの動きを真似してポージングや筋肉を魅せ合い始める。

 俺達とハンターのおっさん達との間には、奇妙な一体感が生まれていた。


 女性のハンターにはちょっと居心地が悪くなったが、それで席を立つ女性はいなかった。それは俺達のパフォーマンスを楽しんでくれている事と、この歌が女性視点で歌われていることに共感してくれているからだ。どの世界の女性も、より美しくなろうと陰ながら努力しているのだ!


 第二パートでは筋肉を造る秘訣を歌い、肉体派のおっさん等を唸らせる。

 女性でも美しいボディラインを約束しちゃうぞ!


 そして、第三パートは…さあ、皆で一緒にトレーニングだ!


『♪ いくよ! 今から私とトレーニング! ♪

 ♪ 足を肩幅分開いたら 両手は頭の後ろにあげて ♪

 ♪ 片足を軽く上げたら準備はOK ♪

 ♪ it’sセットポジション! ♪』


 今はもう、男女問わず酒場の皆が、ミュルンやガーくんと同じパフォーマンスをしていた。

 これは俺の歌唱スキルの影響もあろうが、娯楽に飢えた大人だからこそ”楽しい”には貪欲だ。人生が楽し過ぎる幼児の俺にはまだよく判らないが、”テンマ”の記憶では大人になると人生が少しずつ色褪せてくるらしい。

 ならば…俺はおっさ…お兄さんお姉さんに子供の頃みたいな”楽しい”を提供してあげよう。

 異世界風味の”楽しい”に貪欲に喰らいつくがよい!


『♪ 上げた(足と) 逆の(肘を) ♪

 ♪ くっつけるように腹筋を 収縮!(収縮!)収縮!(収縮!) ♪

 ♪ できたら戻して逆側も! ♪

 ♪ 足と(足と) 逆の(肘を) ♪

 ♪ くっつけるように腹筋を 収縮!(収縮!)収縮!(収縮!) ♪

 ♪ できたら戻してもう一回! ♪

 ♪ 足と(足と) 逆の(肘を) ♪

 ♪ くっつけるように腹筋を 収縮!(収縮!)収縮!(収縮!) ♪

 ♪ 筋肉にお願いだ! ♪

 ♪ (はいサイドチェストーッ!) ♪


 お兄さんもお姉さんもいい汗かいてるね!


 ♪ お願いマッスル めっちゃモテた~い ♪

 ♪ お願いマッスル めっちゃ痩せたいyes ♪

 ♪ お願いマッスル めっちゃモテたいから ♪

 ♪ ウー (キレてるよ!) ♪

 ♪ ハー (キレてるよ!) ♪

 ♪ 筋肉にお願いだ! ♪』


 これだけの人数を相手にショーをするのは初めてだが、この一体感はなんかヤミツキになりそうなくらい楽しい。ルゥ兄ぃやミュルンとガーくんもやけに楽しそうだから、俺と同じ気持ちなんだろう。


 しかし、そんな楽しい時間も終わりはある。

 散々盛り上げまくったが、曲の終わりは確実に近付いていた。

 

『♪ ベントオーバー! ラットプルダウン! ♪


 ♪ (背中に世界を背負ってる!) ♪

 ♪ (仕上がってるよ!仕上がってるよ!)♪

 ♪ (頑張るあなたは美しい!) ♪


 ♪ お願いマッスル ♪』


 クライマックスの一体感を引き連れたまま、『お願いマッスル』は終了した。


「「「「「ハァ、ハァ……」」」」」


 初めての見様見真似なトレーニング&ダンスに軽く息切れする者が多かった。

 だが…今だけは擦れたハンターではなく、生き生きとしたお兄さんお姉さんの笑顔がそこにあった。

 こんな笑顔がすぐに哀愁に染まるところなんて、俺も見たくはない。

 だから、出し惜しみはナシだぜい!


「よっしゃあ!気持ちイイからもう一曲歌っちゃうぞっ!!

 曲名は『マッチョアネーム』だ!!」


「「「「「うおおおおおーっ!!」」」」」


 わはははっ!盛り上がってこうぜい!


『ハロー、マッスル

 君はもうばっちり筋肉育てたかい?

 たっぷり追い込んだ君もまだまだのキミも

 筋肉の歓びに貴賤はない!

 一緒に筋肉を分かち合おう

 まずは筋肉の名前からいってみよう!


♪ マッチョアネーム? ♪

♪ イッツマイ三角筋 ♪

♪ マッチョアネーム? ♪

♪ イッツマイ僧帽筋 ♪

♪ マッチョアネーム? ♪

♪ イッツマイ上腕筋 ♪

♪ マッチョアネーム? ♪

♪ イッツマイ大胸筋、OK ♪』


………………

…………

……


 こうして俺達の突撃ライブは大盛況のまま終わった。

 ノリノリの歌で大勢の観客とダンスする夜の宴は、俺達にとっても新鮮だった。

 これ以降、ハンターギルド本部に筋肉ブームが到来して、ギルド員の実力向上にも貢献することになる。俺達、霊峰歌撃団との関係も格段に良くなった。


 そして、この日…酒場にいたお兄さんお姉さん(約百人ほど)から銀貨一枚ずつ貰った俺達は、一晩で大金をゲットする事に成功したのだった。


 くふふ…明日は初めてのお買い物♡

 何を買おうかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ