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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第二章
16/61

秘密基地

 ヘイアン王国・王都ルタンバにはギルドと呼ばれる組織が二つある。

 それがハンターギルドと傭兵ギルドだ。

 神話時代の伝説には冒険者ギルドなるものがあり、それが二つのギルドの前身だと云われている。それは霊峰オーエヤムを中心に三つに線引きされている各国とも共通だ。


 ハンターギルドは主に樹海のモンスターを狩る者たちのギルドであり、初心者からベテランまで幅広く受け入れている組織である。対して、傭兵ギルドは”ダンジョン”にて異世界から侵攻してくる異形どもと戦う者たちだ。こちらは主に各国の軍隊やハンターの中でも、色々な意味で極まった者が対処している。尚、侵攻を完全に抑えられなかった結果が、現在の樹海の生態系とされている。

 そして、ある程度生態系の確立した樹海よりも、常時侵略者が湧いてくるダンジョンの方が殺意が高い。必然的に傭兵ギルドの方がハンターギルドよりも強いし、イカれた者も多い。スキルを使った戦いを極めた者、または戦いに取り憑かれた狂人の集まりと考えれば凡そ間違いではない。




 そんな国家組織の片方…ハンターギルドの長であるハーゲンは昨日の後始末で夜が遅かったこともあり、欠伸をしながら一階のギルド長室から出て来た。


 ここ王都ルタンバのハンターギルド本部は、ヘイアン王国のハンターを一手に束ねる重要拠点だ。登録人数だけで言えば二千人を超える。北正門の近くに本部があり、他三つの支部が東西南の門近くに設置されている。

 そんな本部の建物は大きめながらも老朽化が進み、そろそろ建て替えを考えねばならなくなってきた。しかし、正直そんな金はない。


 酒場と一体化した昔ながらの吹き抜けスタイルに、二階の半分は資料室や宿泊室が十室ほどある。一階に実務の全てが集中しているので手狭な感はあるが、今更酒場を無くすような真似は個人的にも容認し難かった。


「ふわあぁ……昨日は散々だったが、ウチに将来性のある若者が増えるのはいい事だ。傭兵ギルドがしょっちゅう逸材を引き抜きやがるから、なかなか高ランク依頼が片付かねえんだよなぁ」


 欠伸が溜息に変わり、いつもの愚痴をこぼす。


 正直、あの子供パーティの実力と将来性は抜群なんだが、危険度と扱い難さもトップクラスである。精々その幼さを利用して、ゆっくり懐柔していくしかないだろう。


 そんな皮算用をしながら、ちょっと身体を動かそうかと左隣の訓練場へと目を向けた瞬間…ハーゲルは思わず全力で叫んでいた。


「なっ…なんじゃこりゃあああぁーーっ!?!?」







 訓練場の片隅に巨大な大樹?が生えていた。

 大きな根が絡まったような風体。今にも動き出しそうな躍動感。

 訓練場の三分の一を埋めたその大木の胴体が、ギルド建物の二階の角と融合していた。そして、その部屋が、例のヤンチャ過ぎるパーティに貸した部屋だと思い出した時…


 ハーゲルはぴしゃり!と己の額を叩いていた。


「かあ~っ…どこまで自由なんだッ!誰かアイツ等に常識を教えてくれ~っ!!」


 おそらくそれは自分の役目なんだろうが、同時に自分には絶対無理だな…と確信してしまう。

 世間からすれば元Aランクで国でもトップクラスの組織の長というエリートだが、あの子供達の推し量れない器の前ではどうしても自分がちっぽけな存在に思えてならなかった。


「おーい、ハゲのおっさ~ん!」

「ハゲじゃなくてハーゲルだっ!!」


 突然呼ばれて思わず叫び返したが、その声は例の部屋と融合した部分にある窓からだった。そこから、あの超問題児シュテンが手を振っていた。


「おいこら、てめえ等には聞きたい事がたっぷりあるんだ!今すぐさっさと降りて来やがれっ!!」

「おーう、今すぐと来たな?お望み通りすぐ行ってやるぜい!」


 直後、隣の穴からシュテンが飛び出し、枝のような根のようなレールを凄いスピードで滑り降りて来る。レールは何度も折れ曲がり、そこを通る度シュテンがきゃあきゃあ騒いでいる。シュテンから少し時間をおいて、他の問題児たちも次々滑り降りてきた。


 はっきり言って…いい歳したハーゲンも滑ってみたいと思った。


 五十メートルは有りそうな滑り台の終着点で、シュタッと降り立つ五歳児。


「ふふん…」


 どうだ、羨ましかろう?

 …とおもちゃを見せびらかすようなドヤ顔に、ハーゲンは拳骨を落としたい衝動を必至に抑え込むのだった。









           *******************







ガミガミガミガミガミ…


「%#”’&#%”」

  

 ギルドの酒場で頼んだ朝食を食べながら、俺達は何やらガミガミとお説教をされていた。

 どうにも喧しいのだが、隣家のおっちゃんで耐性を鍛えている俺達には完全な無効化も可能なのだ。尚、内容は少しも脳内に入ってこない。


 ルゥ兄ぃの膝で朝ごはんを食べさせてもらいながら、俺は今日も幸せを噛み締めていた。

 ただ…ルゥ兄ぃのごはんに比べると、味が数段落ちるのがちょっと残念だ。ガオルンのおっちゃんの漢料理に慣れたミュルンは美味しそうに食べているし、そもそも何も食べられないガーくんの前で食事の味に文句なんて言えるわけも無いが。


「……はぁ、はぁ…お前等、俺の説教を全然聞いてねえだろ?」


「そんな聴いてますよ。……僕だけは」

「さすがルゥ兄ぃ!って…何が?」

「あ、BGMが止まってるね」

「オヤビン、代わりにおいらが歌うッスよ?」


「ぐぬぬぬ…」


 俺の正面に座ったハゲのおっちゃんが、何やら唸っていた。


「おっちゃん、あまりストレスを抱えるとハゲるぞ」

「元凶であるお前だけには言われたくねえわッ!!それより、あの大樹は何なんだよ!たった一晩でとんでもない事しやがって!!」


 何かさっきから同じ事を言われてるような気がするが、そろそろちゃんと受け応えてやらないとおっちゃんが泣いてしまいそうだ。


「ふふ~ん、あれは俺達の秘密基地一号なのだ。カッコイイだろ?」

「はあっ!?あれのど・こ・がっ・秘密なんだよ!!」

「やっぱ第一号は立派なのを作りたくて、つい…」

「もう伝説の世界樹と言っても信じるくらい立派過ぎるわっ!!こんなもん王家や貴族に知られたらどんな難癖付けられるか……すぐに撤去、出来るんだよな?」


 不安そうなおっちゃんの表情を見て、俺はルゥ兄ぃの膝から下りてミュルンの膝に移動した。

 幼児の俺が言うより、エルフのルゥ兄ぃが説明する方が信じてくれるだろう。


 ミュルンが喜んで俺に食べさせる料理を吟味し始める中、代わりにルゥ兄ぃがおっちゃんに説明を始める。


「ここのギルド本館ですが、だいぶ老朽化が進んでいましたね?」

「ん、まあ…この辺じゃ一番古いかもな」

「長年の雨漏れで柱が数本腐っていました。ちょっと強い風が吹けばポッキリ折れてしまうくらいに。倒壊は一瞬でしょうし、その時は間違いなく人死にが出てましたね」

「なっ!?まさか…あ、いや…」


 どうやら思い当たる節はあったようだ。


「腐った柱の代わりをあの大樹が支えているので、大樹を消したらこの建物も崩壊待ったなしです」

「ぐむう…」


 おお…悩んでる、悩んでる。


「訓練場は多少せまくなりましたけど、枝葉の屋根が出来たので今後訓練する人も増えると思いますよ?ここは王都ギルド本部の新たなランドマークとしてアピールした方が…」


 さすがルゥ兄ぃ、説得上手!

 それも、無条件で信用される人柄ゆえだと思うね。


「ぬぬぬ~~……納得したくないが…呑んでやる!秘密基地一号も、これ以上浸食しないなら文句は言わねえ。それでお互い貸し借りナシだ!」

「ヒュ~ッ、おっちゃん太っ腹ぁ~。おっとなだぜ~い!」

「ヒュ~ッ、大将さすがッス~!」

「やかましいわッ!こっちは今から、上の連中にどう言い訳するか頭が痛いってのに…」


 散々吠えて少しは発散したのか、げんなり顔のおっちゃんは頭を抱えながらも事務裏に引っ込んでいった。



 

 朝食も終わって、俺達にドン引きした顔を向ける擦れたおっさん共をおちょくったりしてまったりしていた頃…ルゥ兄ぃが今日の予定を話題に挙げる。


「資金の方はとりあえずミュルンが集めてくれた素材を売ったお金がしばらくあるけど、これからは本格的にお金を稼ぐ必要があると思う。あ、一応言っておくけど、僕の能力で薬草無限増殖とかはやらないからね」

「まあ、チート能力使っちゃ面白くないもんね。ズルっ子なボスが益々調子に乗っちゃうし…」

「ズルっ子ってなんだよ!俺はいつも良い子だろうが?」

「オヤビンは抜け目がない漢っスよ」


 ガーくん、それいまいちズルっ子を否定してない気が…。

 しかし、過保護なルゥ兄ぃがこう言うという事は、これも俺への試練(教育)という事なんだろう。

 ならば、全力で応えるのみッ!


「まあ、それに関しては俺に計画はあるんだけど…皆、ちょいとお耳を拝借」

「「「…?」」」


 周囲に聞かれてはマズイので、皆の耳を寄せて囁く。


「っ…へえ、それいいね!やろう!やってみたいっ!」

「僕も賛成です。シュテンらしいですね」

「さすがオヤビン!今夜が待ち遠しいッス!」

「ふっふーん…なかなか良いアイデアだろ?」


 五歳でお金を稼ぐ初仕事としては、我ながら気が利いてると思う。

 こうして皆も大賛成してくれるし。

 問題は夜に決行するとなると、お眠になっちゃう可能性がある。充分にお昼寝をしておかねば。


 それにしても…王都に出て来てからは何かと忙しい。

 昨晩は”秘密基地一号”の設置の所為もあるが…子供はやりたい事がいっぱいあり過ぎるのだ。

 ご近所の子供達とも遊びたいし、王都の街を探検もしてみたい。初めてのお買い物にもチャレンジしちゃうぞ。ハンターの仕事もちょっと興味があるし、傭兵ギルドとやらにもいずれお邪魔してみるつもりだ。

 無論、それでもお昼寝は絶対に忘れてはならない。

 

 俺は我侭な霊峰歌撃団のリーダーだが、皆を楽しませる義務もあるのだ。


「さあ、今日も目いっぱい遊ぶぞーーっ!!」

「「「おおーーっ!!」」」


 拳を突き上げる俺達を、擦れてくたびれた大人たちが羨ましそうな顔で見つめていた。



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