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シュテン童神  作者: 追川矢拓
第一章
10/61

ハイオークジェネラル

連日投稿3日目の投稿二回目です。

「ガーくん、身体の方は大丈夫なんかい?」


 三体のハイオークと交戦した今のガーグは満身創痍だ。

 頭の魔核(モノアイ)さえ無事なら死ぬことはないが、強度が落ちれば身体が崩れることもある。ゴーレムの特性は魔力リンクといい、己の魔力を浸透させた砂粒子を集めて魔岩を形成する。身体の修復も魔砂粒子で埋めて魔岩に同化させるため、そこそこ時間がかかるのだ。


「はいッス。攻撃で欠けた分を拾い集めれば案外早く治りそうッス。いつかオイラが合体ロボになったら、パーツ交換だけで戦闘継続できるッスよね?」

「あ、ああ…うん。いつか……ね」


 うぅ…穢れの無い赤い魔核がキラキラ光ってる…。

 昔、幼馴染二号に迎えるために、結構調子の良いこと言っちゃったんだよな。ちょっと後悔。

 いつか…ドワーフの幼馴染を見つけて相談に乗ってもらおうと思う。


「あの、あの…ルシュ君…。あの子たち大丈夫だよね?」


 ミュルンが起き上がって来ないハイオーク達を心配している。一方通行の関係とはいえ、ミュルンから見れば喧嘩友達だもんな。死んでしまわないか心配なのだろう。


「ガーグのモーニングフィストで致命傷になるものは一つもありませんでした。普段の君の方が、よっぽどキツイのをかましてると思いますよ」

「えへへ~、そ…そうかな?」

「今のは誉め言葉じゃないんだけど…」


 ルゥ兄ぃなら致命傷でも治せるので、俺達も殺生の心配もなく戦えた。

 俺たちのパーティ”霊峰歌撃団”はハンター登録を予定しているが、殺伐とした血生臭い生活は似合わないと思うんだよね。なんせ皆まだ子供だから…。

 どうせなら、進化形紙芝居(アニメモドキ)で稼げたら最高なんだけどね。


 それにしても……何だろう?

 倒れたハイオーク達を見てると、どうにも尿意をもよおしてくるような…


「ハッ!?!」


 その時、ミュルンが突然、全身の毛を逆立てた。


「ボスッ!!やばいヤツが来た!」

「え、やばいって…誰よ!?」


 森の奥から草原へと…威容の凄まじい巨漢がのしのし歩いてくる。


「あれは…ハイオーク・ジェネラルじゃないですか!ハンターギルドでは総合戦闘力:Aの超危険モンスターです!」


 ルゥ兄ぃが慌ててる!?なんかマジでヤバそう…。


「………あたし…今までアイツに挑戦して六連敗してるんだよね」

「ん?なんどもよく逃げられたな…」

「神獣化したらいつでも逃げられるしぃ」

「フェンリルでは戦わないッスか?」

「チートで勝ったって嬉しくないもん!」

「「「………」」」


 命が懸かってるってのに、これだから天然の戦闘種族は…。


 俺達の呆れをよそにミュルンが拳を鳴らしながら、前へと歩んでいく。


「でも…ボスの支援がある今日なら、なんとなく勝てるような気がするんだよね」

「おいっ!ちょっとまて…」


 ヤバくなっても、足の遅い俺達じゃ逃げ切れないんだけど?

 当然、戦闘狂なロリっ娘がそこまで考えているわけがなく…とっても猛々しく笑う横顔が見えた。


「………ふ~、ここは霊峰歌撃団として見守ってやる場面なんかな?」

「ったく、前衛が単独プレーに走るなんて……後で教育が必要ですね」

「オヤビンとルシュ兄はオイラが命に代えても護るッス!!」


 パーティ登録もまだなのに、仲間想いのメンバーばかりで誇らしいね。

 いざという時は必ず助けてやるから、全力でぶつかって来い!


「ルゥ兄ぃ、デジモンアドベンチャー”Butterfly”いっくよー!」

「オッケー、盛り上げていくよ!」


 ルゥ兄ぃがハープを改造した楽器ほぼギターで、ギューン!とロックな伴奏を始める。


『♪ ゴキゲンな蝶になって~ きらめく風に乗って~ ♪

 ♪ 今すぐ~ 君に会いに行こう~ ♪』


 突然歌い出した俺達にハイオークジェネラルが警戒感を剥き出しにするが、近付いてくるミュルンを見た途端、雄叫びをあげて戦意を爆発させた。


「ウゴォオオオーッ!!」

「ひゃあ…お互いゴキゲンだね~!」


 やはり、獲物に六回も逃げられると、フラストレーションも相当なものなんだろう。

 あの威嚇にも効果がありそうだが、声の威力なら俺だって負けないぜ!


『♪ 余計な事なんて~ 忘れた方がマシさ~ ♪

 ♪ これ以上~ シャレてる時間はない~ ♪』


 このデジモンシリーズは熱いアニソン名曲が多いので、戦闘にも登用しやすい。特にこのシリーズ最初のオープニングは最も有名だ。冒険に向かう少年少女の勇気を奮い立たせるのに、最も効果的な名曲だと断言しよう。”真っ赤な誓い”も良いのだが、続けて聴くと感動が少しずつ減少してしまうのがアニソン視聴あるあるでもあった。


「今のあたしは誰にも止められないッ!」


 一迅の風になって間合いを詰めたミュルンが、フェイントを掛けながらジェネラルの膝に飛び蹴りを入れる。普通のハイオークならそれで膝関節が外れるのだろうが、ジェネラルはビクともしない。

 そして、戦斧が振ってくるタイミングで後ろに飛び退る。


「ほっ!」

「ぬがっ!?」

 

 すぐさま飛び出して爆風のような戦斧の上を駆け上がり、頭にひと蹴り入れてくるんと着地。


 身長差三倍という圧倒的なフィジカルの違いをどう克服する気なのか、ひやひやして歌が中断してしまいそうだ。


『♪ 何が WOW WOW~ この空に届くのだろう ♪

 ♪ だけど WOW WOW~ 明日の予定もわからない~ ♪』


 あっ、今度のフェイントは失敗して戦斧とタイミングが合ってしま…

 一歩踏み込んで、ガン!と辛うじて柄の部分で受け止める。


『♪ 無限大な夢のあとの 何もない世の中じゃ ♪

 ♪ そうさ愛しい 想いも負けそうになるけど ♪』


ドガン!


「んぎゃっ!?」


 丸太のような蹴りを受けてミュルンが吹っ飛んだ。

 すぐに起き上がるが、ダメージが大きいのか口から血を吐いている。


 駄目だっ!攻撃パターンを読まれているぞ。

 そりゃ、何度も戦えば小さい方が勝機を失っていくよな…。


 俺が歌いながら打開策を考えた時だった。


 ジェネラルと俺の眼が合った。


「…?」


 そして、ジェネラルはミュルンを無視して、俺達へとドスドス駆けて来た。


「なっ、なんなんスか!?」

「………意外とハイオークもお利口さんだったようですね」


 俺の歌が煩くてイラつくって理由ならまだいいが、戦略的思考でこっちを選んだのなら俺は奴を見直さねばならないな。


「ボスぅーッ!?」


 ふらついたミュルンが駆け付けようとするが…全然、間に合わないなぁ。


「………ルゥ兄ぃ、曲を変えるよ」

「何でも弾いて魅せるとも!」


 危機的状況なのに…ほんと背中が頼もしいぜっ!


「オイラもガンギマリッス!!うおおおおーッス!!」


ガッギイィンン!


 飛び出したガーグの盾とジェネラルの巨大戦斧が激突し、一撃で盾が粉砕された。


『すぅ~……♪ ハーッ!リーッ!ケエェーン!ポリマーッ!! ♪』


 俺の雄叫びを聞いて瞬時に曲調が切り替わる。

 ミュルンならこの意図に気付くはずだ。


 ガーグの鉄製メイスがひん曲がり、右腕が打ち砕かれた。


『♪ 風切る鉄拳 パンチ!パンチ!パンチーッ! ♪

 ♪ 地獄の悪魔よ 受けてみろ~ ♪』


 あっという間に両腕を失っても、ガーグはジェネラルの前に立ち塞がっていた。


「死んでも…ここは通さないッス…」

「グゥゥ…」


 生意気なっ!とでも言いたげな表情でトドメの戦斧が振り下ろされ……直前でピタリと止まった。


「…ゥ%!#?&ッ!!」

「ふふっ…やっと気付いたみたいですね。そう、それは森の嫌われものナンバーワンの地獄火炎茸です。こんな至近距離で破裂させたら、かゆみと激痛でショック死するかもしれませんね」


 演奏中なのによく通る声でルゥ兄ぃが言う。

 ルゥ兄ぃの生命魔法は、菌類が一番生長速度が速い。風魔法で俺達の安全は保障されるとはいえ、ガーグのヘルムに生えた真っ赤なトサカにジェネラルが気付かなければ大惨事になるところだった。なんせ生態系まるごと裸足で逃げ出す、特級呪物クラスの嫌われものなので…。


「どうしたッスか?この通り、オイラは隙だらけッスよ」

「グヌヌウウゥ…」


 がら空きの胴を晒すようにガーグが一歩進むと、気圧されたジェネラルが思わず後退った。

 実力差はあれど、気迫はガーグが圧倒していた。


「ジェネラル破れたりぃーっ!!」


ドガァッ!「ゴハッ!?!」


 側頭部を蹴られたジェネラルが真横に吹っ飛んでいった。


 着地した獣人幼女が、照れ隠しなのか顔を見せず背中で語る。


「………ボスの言いたい事、分かったよ。アタシ、ちょっと力み過ぎてたみたい…」

「ウゴオオオオーッ!!」


 ジェネラルとの戦闘が再開された。

 しかし、曲調のようにミュルンの動きが変化していた。戦斧を避ける動きをリズムと一体化させるようになったのだ。楽しそうに…。

 そう、これがミュルン本来の戦い方なのだ。


 あん時は俺も超苦労したなぁ…。

 最初に魅せたアニメモドキの影響か、何故かミュルンは必殺技マニアという嗜好を開花させてしまったのだ。破裏拳ポリマーを演じた時なんか必殺技(ロマン技)を細かく説明させられ、似た動きとして口を滑らせてしまったブレイクダンス(うろ覚え)までレクチャーさせられた。

 まあ、そんなロマン技を本当に再現してしまうんだから、俺もめっちゃ興奮したけど…。


 俺の歌も第二パートに突入する。


『♪ 嵐の叫び イェーッ イェーッ イェーッ ♪

 ♪ 地獄のけだもの 吠えてみろ~ ♪』


 殺気が抜けてぎゅるぎゅる回って踊るミュルンに、ジェネラルの攻撃タイミングが悉く外されている。そして、戦斧が地を穿った隙をついてミュルンが足元に滑り込む。

 片足に手をかけてぎゅるんと回り、焦ったジェネラルの戦斧を誘導してまた地を穿たせる。


『♪ 空に舞う 独楽か竜巻 ♪』


「ウグォウ!?」


 巨体の表面に纏わりつき、真の狙いを気付かせぬよう這い上がる。

 そして…最終目的地である巨大戦斧と手首に蛇のように絡みつく。


『♪ 必殺ッ 真空片手… ♪』


「真空片手独楽ぁーっ!!」


 タイミングを合わせやがったな。まあ…名前だけで技は別物だけど。

 ロマン技には妥協も必要だし、実はこっちの妥協案の方がかなり有用だったりする。


「ゴキャア!?」


 一瞬で武器と右手首を極められ、戦斧が宙を舞う。


『♪ 敵をあざむく 影 影 影~ ♪』


 ジェネラルが戦斧に左手を伸ばすが、今度は…


「回転片手独楽ぁーっ!!」


 地に片手を付いた回転キックに、ジェネラルの巨体が掬われる。

 あーあ、こっからは俺達が開発した超必殺・破裏拳コンボだぞ。思わず敵に同情するね。


『♪ 俺は破裏拳 破裏拳ポリマー ♪』


 ミュルンは更に二周目の回転片手独楽で巨体を引っ繰り返す。


「グオッ!?」

「いっくよー!天空蹴りーっ!!」


 倒立しながらの一回目の蹴りで巨体を天へとカチ上げる。

 そして、腕ジャンプからの二回目の蹴りで巨体をぎゅるんと回転させる。

 天地の平衡感覚はこれで完全に失われただろう。


「ア…アアゥ…!?」

「必殺ッ!反動三段蹴りぃーっ!!」

 

 空中でくるんと翻ったミュルンの足裏で金のオーラが凝縮すると、踏み台となって加速し巨体を天へと蹴り上げ(一回目)、更に同じ要領で前後不覚のジェネラルを天に蹴り上げる(二回目)。

 これぞ空を駆けるフェンリルの固有能力の一つである。

 そして、天へと昇り切った巨体が十メートルほどの上空で重力に捉われる瞬間、天空から回り込んだミュルンが急降下してジェネラルの喉笛に膝をぶち当てる(三回目)。

 そのまま断頭台の如く地面に激突して、超必殺・破裏拳コンボはコンプリートした。


「ゴボァ…ぶくぶく…」


 泡を吹いて白目を剥いたハイオークジェネラルには、ご愁傷さまとしか言いようがない。まあ、生きてるけど。これくらいの必殺コンボを決めないと、Aランクの魔物なんて倒せないって事だ。


 立ち上がったミュルンはダメージも疲労もあるだろうに、こちらへ最高の笑顔を向けた。


「ボスぅーッ!やったよ、ついに初勝利!くふふふ…次やる時も協力してね♡」

「連敗を取り返すまでやるつもりかよっ!?」

 

 俺達、男三人は大きな溜息を吐いて呆れ返るしかなかった。






          ◇





「……………」


 俺は今、ハイオークジェネラルの死た…じゃなくて気絶した敗者の前で、とある欲求に抗っていた。


 物凄くオシッコしたい…。


 最初はヘルムのバイザーがガーくんに似合いそうだったから、戦利品として徴収しようとしたんだよ。だが、ヘルムを取ってでろんと舌を出したジェネラルの顔を見ていたら…こう俺の犬派でチワワな本能が雄叫びをあげ始めたんだよ。

 敗者へのマーキングを行うのは勝者の特権じゃね?と。


 いや、倫理的に駄目なのは分かってるんだよ?でも、今回の勝利は俺の御蔭でもあるんだし、喧嘩の弱い俺が勝利の快感を味わえる事なんて滅多に無いわけで…。

 …てか、幼児ってのは自制心が弱くて当然だよね?ルゥ兄ぃも俺が俺であるなら、何でも許してくれるし。ハイ、論破ぁ!


 自分の説得に成功した俺は、一瞬で服を脱ぎ捨てた。

 先日、とうとう俺はミュルンから加護を受ける事に成功したが、その真価が今、試される時なのだ。


「神獣化(微)!」


 俺の身体を金のオーラが包み、ぞわぞわと白く短い体毛が生えてくる。

 狼の耳と尻尾もぽん!と出現した。


 あいにくと…俺の神獣化はここまでである。獣化にしても中途半端なコスプレ感が残るのは、これが加護である所以だ。ちょっと鼻が良くなるくらいで大した能力も無いが、変身が出来るという一点で俺は超気に入っている。


「ちょっ!?ボス、なんで変身してんの!?」

「強いて言うならば獣の本能ってヤツさ」

「はあ?」


 本家のくせに判んないのかよ?

 いや、正道を歩む”陽キャ”ゆえに判らんのかもな。


 俺は四つん這いになって、クンクンとハイオークジェネラルの匂いを嗅ぐ。

 ほほう、なんと濃厚な…勝者である俺の自尊心をくすぐる敗者の匂いだ。


 充分に気分が良くなった俺は、ジェネラルの胸の上でくるくる位置決めを行い…ぴーんと片足を上げた。


「えっ!?そんな…まさかッ!!」


ジョ~ジョロロ~~


 ハイオークジェネラルよ。神妙に”敗者の証”を受けるがよい!


「ああ…あああ~…」

「ひえ~、オヤビン…容赦無しッス」

「ぼ、僕は何も見てないので…」


 皆が言いたい事は分かる。だが、これは抗えぬ野生の本能なのだ。弱い個体が精一杯の虚勢を張るべく、希少なチャンスを生かしてマウントを取っているだけだ。


「ふぅ…爽・快・感!」


 弱者として何ら恥じることの無い行動を終え、俺はいそいそとパンツを穿き始める。


「ボスのおバカーっ!何てことすんのっ!敗れた戦士に対してあんな事するなんて…」

「さっきは俺も殺されそうになったんだから、報復する権利はあるのだ。それに、これはフェンリルの加護を得た獣の本能ってヤツで…」

「風・評・被・害ぃーっ!!フェンリルにも狼にもそんな習性はないからっ!」


 チワワならやりそうな気がするけどな。

 とりあえず自分に正直に行動した結果なので、俺は大満足だ。幼児は我儘なくらいが可愛いって、普段からルゥ兄ぃも言ってくれるし。


 そんな事より、これで霊峰歌撃団は充分ハンターとしてやっていける事が証明された。

 いよいよ、人間の街に遠征する時がやって来たのだ。


 あとはお山の保護者たち二人をどうやって説得するか…なんだよなぁ。


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