いざ、戦へ!
ある世界の緑さん 平凡な緑さんの緊張する一コマ。
「試したい事があるので、可能性を今回はチャリーンしません。ご安心ヲ!」
後部座席で案内人がわざとらしくヒソヒソと言う。皆に見えていないのに、なぜ演技をするのだろう。
(怪しいな。…妙順の首をはねるつもりか?)
「アナタ、戦国武将ですかァ?ぶ、物騒なぁ…っ」
(お前に言われたくない)
稚拙なお芝居にほとほと呆れ、緑さんはストレスのあまり首の皮膚を引っ掻いた。
助手席には芽々子が座り、緊張した顔つきで梦妙が整備のなっていない国道を運転している。後ろにはカムさんの自家用車が追尾していた。
蛭間野町からは簡単に行けるが、真正面から突撃するのは愚行である。なので迂回路としての危険な道を選んだ。
「カムちゃんが偵察に行ったら…結界が張り巡らされていたの。魔法使いでしかできないはずの。私の弟は魔法を取得できなかったから、越久夜町の魔法使いたちがやったに違いないわ」
「何のため?」
「さあ…三ノ宮家が問題を起こしたと見なされたのかも…町の魔法使いたちは血気盛んだから」
憂いを帯びた口調で姉は言う。確かにこの地方の魔法使いたちは荒っぽさがあり、火がつくと止まらない。過去に何度か争いも起きている。
「大丈夫よ!わたし、くノ一をやっていたから必殺仕〇人みたいな事はできるし!首でも腕でも捻れるわ!」
「えっ、えー?!人殺しだけは止めてっ」
(この人たちだけで解決できるんじゃないか?)
「そこんとこは任せてオキマショウ」
(はあ、めんどくさい)
「おやおや?大切なコキョーが非常事態なのに、ソンナ反応ナンて!」
ヘッドライトが照らす範囲は意外に狭い。カーナビに表示されている道を頼りに、越久夜町へ走る。
緑さんはのっぺりとした闇を横目に月明かりすらないのかと場違いな感想を抱いた。
祖父と夜道を歩いた記憶。眩い月明かりが木々を薄らと発光させる。
「じいちゃん。あの光は何?」
「山の魔物が月見酒でもしているんだろう」
チカッと黒い塊の山に光るものがある。今思えば人工的な装置か何かだったかもしれない。
だが、祖父は半分からかってそう言ったのだろう。幼い自分は純粋であったせいか、半分信じてしまい、魔物とは夜になると宴をするのだと眠る前に想像していたものだ。
(魔物も酒を飲む…酒、か)
越久夜町はどうしても切っては切れぬ縁がある。霧錆 芽々子の自宅にいてもそれは途絶え無かった。
「タヌキのおやびんと月見酒シヤショーヤ」
(黙れ)
「緑ちゃん。貴方はこれを、使い方は分かるわね」
簡易な竹槍を渡され、眺めまわした。カムさんの旅館裏の倉庫に害獣よけの武器が置かれていたという。
「意外と頑丈なんですね。これ」
「竹だもの。あくまでも殺人はダメ。例え相手が凶器を持っていても」
「はあ。警察にはお世話になりたくありませんし」
「でしょ!相手に罪が被るよう工夫しましょ」
悪どい顔をした梦妙にゾッとするものがある。が、女性四人で何とかなるものだろうか。
越久夜町の結界があるという、橋の向こう側。久夜川までは四人で固まって渡る事にした。
5月の初め頃、私情で長野県の親戚の家に泊まりました。
夜に親戚たちと近くの温泉施設まで歩いたんですが、月明かりのみの中、山が黒いシルエットだけで威圧感があり、これは独りで歩けないや…とビビりました(感想文)。




