越久夜町での非常事態発生
ある世界の緑さん 平凡な緑さんのいきなりの出来事。
霧錆 芽々子に拾われて数ヶ月、身体の強ばりもとれて本調子である日々が増えた。
こちらの心身の様子を鑑みてか、そろそろ越久夜町へ戻ってみたらどうだ、と芽々子が提案してきたのが発端である。
「寂しいけど貴方には梦妙さんやカムさんがいる。これっきりで、ていうのは耐えられないから…前に言ったように町へやってきていいよね」
「ええ。レストランや喫茶店もない、ド田舎ですが」
「…わたしは貴方の味方だから」
抱きしめられ、まるで人生最後の別れのようでないかと驚いた。
「私、…死にそうに見えますか」
「いやいや!別れを惜しんだだけよっ!」
慌てた面様になり、苦笑いしながら否定すると彼女はスマホを見た。「あら、梦妙さんからだ」
「はあ」
「実家の弟さんと連絡が繋がらないみたい。それと、町で長期の停電が起きてるって」
(変だ。停電だなんて、町だけで起きる訳がない)
心配性ではあるけれどあの凄惨な事件を彷彿させる。最初、犯人は電気系統を遮断した。
周囲からの断絶。戦法として序盤の手法だ。
「越久夜町に向かいます」
「え、いまから?!まずは梦妙さんたちと合流しましょう?ね?」
必死に止められ、やむなし。緑さんは深呼吸した。
「…すいません。嫌な予感がして」
「そうだよね。…わたしも越久夜町へ行くわ」
部屋で緑さんはベッドに腰かけ、三ノ宮 妙順の安否を考えていた。生臭坊主でビビりな奴だが決して悪い人ではない。
犯人に危害を加えられ絶命していたら…常に快活に振舞っている梦妙も耐えられないだろう。
「アナタ、ワタシの存在、忘れてる…、……」
ヒソヒソと耳元で囁かれイラついた。「案内人」
「越久夜町へ秘密でシンニューしましょー。ワタシ、手伝う」
「どうやって?」
「忘れました?ワタシはアヅチの窓を使えル。ワープするのです」
ニヤニヤと真意の読みとれない表情に胡散臭さを覚えるが、頷く要素しかなかった。己が瞬間移動できるのならとっくのとうにやっている。
「わかりました。見に行くだけです」
「さぁスが!!ワタシのベスト!フレン〜〜~ド!さあ、Let's go!」
案内人が奇妙な印を組むと、その向こう側にサイケデリックな空間が広がっていた。覚悟を決めて指を入れると浮遊感に襲われ、視界が回転する。
アヅチの世界に連れていかれる。
あちら側の、得体の知れない異界へ。
(頼む。案内人、案内してくれ)
声には出せないが案内人へ頼み事をする。調子に乗った顔を見たくないからだ。
案内人としてのプライドを見せて欲しい。
緑さんはサイケデリックな色彩に目を焼かれながらも、案内人の手を探した。




