能ある鷹は爪を隠す師匠
案内人さんの第2のお師匠さんが登場。
鏡張りの家で、案内人は自らの髪型を直している。髪の毛とは意識しないと跳ねるものだ。
静かな空間で何も動かない鏡面で、自らの身なりを正す。少しでもいいから身なりはちゃんとしろ、と言われた。
だからたまに気をつける。
例え仮初の姿でも。
「鏡だらけの空間なんて気がおかしくなるよぉ。知らないの?」
「あらァ、チー・ヌー。久しぶりデース」
「防護服なのに身なりを正すなんて、綺麗好きなの?」
「怪しまれないタメです!」
自慢げに胸を張るも、チー・ヌーは盛大に吹き出した。
「へぁぁっ?!存分に怪しいじゃん!?まずそのニヤニヤ顔からやめたらぁ?」
「すいません。コレがワタシの、定めたキャラクターなのデ」
鏡張りの空間には数多の自分と美麗な子供が映る。そうしてその中にニンマリと笑う猫が混じっていた。
「…今日は珍しい事バカリ起きまース」
「え?」
「これが、これがあんたの初めの師匠かい?何だか頼りないねえ?ねえ?」
小馬鹿にした声色にチー・ヌーがギョッとする。
「誰?」
「ミャオン。猫さんだよぉー」
「うわっ、なんだっこれ」
「おいおい。この内面ブスがあんたに戦闘威力を授けたのかあい?ミャオはゲンナリしてるぞ」
鏡からニューッと現れたのは年齢不詳の猫耳人間だった。
「内面ブス?このわたくしが?」
「今さら取り繕っても遅いにゃあぁ。ガラクタ。元気にしているようで良かったなぁご」
チェシャ猫の如く、その猫耳コスプレ人間はニタニタ笑う。
「師匠。お久しぶりデス。どうしてワタシの元へ?」
「アトラック・シンシア・チー・ヌーとやらと仲良くしているからだにゃん。復縁したいのかぁ?」
「マサか!ワタシを鍛えてくれたチー・ヌーさんはシニマシタよ」
談笑する彼女たちを前にして、チー・ヌーは聞き捨てならない言葉に眉間に皺を寄せた。
「死んだ?僕がぁ?何それ?聞いてないし」
「ええ。まー、良いじゃないデスカ。ワタシにとって唯一無二の師範デシタから!」
「ふぅーん。宇宙の数ほど、色んなのがあるから気にしないけどさあ」
「さすがです!で、彼女はワタシの師範、ニャオム・ミャオーンウ師匠デス!」
胡散臭い名前にさらに呆れたのか、チー・ヌーは疑心な視線をよこしてきた。名や外見年齢は40歳くらいだろうか。人外に年齢など意味のないものではあるが…。
「内面ブス。おみゃえだってテキトーな名前の癖に」
「まあね。にゃ、何とか師匠?はなんで来てくれたの?」
「寄り道にゃあ。ガラクタが元気にしてるか見に来たのみゃ」
猫耳コスプレ人間はニヤニヤしたまま、鏡を見渡した。
「平和で良かったにゃ〜お」
「ワタシのおかげですよ!」
「ガラクタの事だから秒でぐちゃぐちゃにしてると思ってたにゃあ。えらいにゃ」
「わぁい!アリガトーございます!」
師匠はウンウンと頷くと、どこからか木箱を召喚した。それは美しい細工が施され貴重な品だと一目で分かる。
「"辟邪の箱"を渡しておくにゃお。何かあった時に使いなさい」
彼女はしばしあれこれ世間話をして、またどこかへ旅に出る。定住しない人であるのは変わっていないらしい。
案内人は箱の不可思議な輝きを放つ宝石細工を眺めていた。
「あの人、結局は何の師匠なの?」
「自分をいかに無害に見せるための演技を教えてくれマシタ。要するに芝居屋デス」
「はー。そんな生業がいるんだ〜〜」
「ワタシは頭が悪いので、簡単に命を壊してしまえるノデス。ですが無害になる努力ヲして、人間に触れたり、世界に溶け込メルようになったノデス」
努力。案内人は嫌いな言葉の一つをわざと口にした。
頭が悪いのは自覚している。だからひたすらに教えられた技術が身につくまで学んだ。努力は身を結ばない。
チー・ヌーは隣りで半信半疑な顔をする。"天才"の彼には分からないだろう。
「欲望の赴くままに壊すのが、僕たち干渉者じゃないの?つくづく変なヤツだよ」
「はは。それは最後の最後にとって置きマス」
辟邪の箱を触る。パンドラの箱。これは人類側からしたら辟邪ではない。
(意地悪いひとデス)




