言い伝えと現実
ある世界の緑さん 平凡な緑さんが荷巳巳村を後にする話。
「へえ、そうですか…」
「人も同じ状態が続くわけがないじゃん?人ならざる者もそう。彼らも不変ではない」
パネルには村の人々がどう暮らしていたかが、残され、一望できる場所から撮られたものもあった。
越久夜町より栄え、人口も多かった。産業遺産や様々な文化財もあった。
が、トンネルができる際に落ち目が訪れた。風蛇の怒りを買ったのかは分からないが、祟りではない側面もあるだろう。岩が硬いのと湧水が出やすい山だった、のだ。
トンネルの開通工事をする時代も悪かった。過酷な環境で多くの作業員が死んだ。それを隠蔽してしまう会社でもあった。
作業員たちも貧困に喘ぐ者たちが多かった。風蛇という神が起こした『障り』と決めつけるには少し無理がある。
──けれども人とは不条理に理由をつけたがる生き物だ。
神へ全てを押し付けた。不運が続くのは神の仕業であると。
「ここの最高神は不幸を起こしたとされ、村の人々は必死に鎮める儀式をしたんだ」
「それで、どうなりました?」
「無事開通できた。だけど、蛇がのたうつような形でしかトンネル工事は進まなかったらしい。…それこそ神の祟りだと、村も会社も匙を投げた」
そうして事故は起き、本当に神は怒り、村は沈んだ。
「アタシは神っていうか、最高神はさ、トンネルを掘ったから怒った訳じゃないんだと思ってる。自分に敬いもなく、厄介事を押し付けられてしかも落胆されたら、誰だってカチンと来るじゃん?」
「傍目に見ていて、そうされたら嫌な気持ちになりますね」
「まー、神のみぞ知るっつー奴だわな。荷巳巳村はたくさんの地域の一つの結末。そんだけさ」
彼女は笑顔で集合写真に写る若者たちを見やった。彼らは水底にいる。
「アタシには魔物も人も対して変わらんように見えてる。造りは違えど罪を被るか、なすりつけるか…または生きるか死ぬか、他も同じだ」
「はぁ、難しい思想をお持ちですね」
「なんだそのつまんなそうな目ぇ!!」
「いや、いつもこの目ですよ」
二人は慰霊碑に線香をやり、荷巳巳村を鎮めている神社へお参りにいった。
小さな祠ではあるが、定期的に手入れはされているらしい。誰かが供えた陶器の置き物がある。
緑さんが柏手を打った瞬間、鳥居の紙垂が音を立てて破ける。拒絶されているのかとやめようとしたが、草目が続けろと促してきた。
参拝を終え、国道へ降りた。するといつの間にか横に風蛇が佇んでいる。
「バイバイ」
神社に手を振り、少年は緑さんの手を握った。
「さ、帰ろうか」
知ってか知らずか、草目がバイクを指さす。
「ええ」




