資料館
ある世界の緑さん 平凡な緑さんが資料館を見学する話。
いつから閉館したのか、荷巳巳村歴史資料館は年季を重ねていた。風雨に晒され、砂が付着し、くすんだガラスが物悲しく、蜘蛛の巣や虫の蛹がついていた。確か越久夜町のダムにもかつて沈んだ村があるために資料館がある。小さな公民館ほどのものだが、まだ人が管理していた。
「どうやって入るんですか」
「裏口の鍵は借してもらったから、そっから」
鍵を見せつけると草目は歩いていった。
自然にできた湖とは思えぬ光景に、ふとトンネル内の遺体を思い出す。あれは幻か実物か。
定かではないが、湖底には村が沈んでいるのだ。
「…開いたよー」
呼ばれて資料館へ向かうと、埃くささが押し寄せてきた。術連の管理下にあるのか、護符が不自然に貼られている。
「荷巳巳村に住んでいた人がもう絶えちゃったから、なかなかね」
「術連の方は?」
「気が悪いとこには居たくないんだと。笑うわー」
事務所はつい昨日まで人がいたかのように、デスクには書類がつまれていた。
「じゃあ。資料館の職員の代わりに説明いたします。荷巳巳村には奇石があって、それが中心になって信仰を展開していたらしい。大風岩と呼ばれてた」
資料館はまだパネルやらが残され、昔の写真が並んでいる。その中に巨大な岩が写されているものがある。
「村を守る役割があったんだ」
「なるほど…」
世に言う磐座信仰という部類だろう。岩にはしめ縄が巻かれ、周りにはそれを強調するかのように──緑さんの地域では『フセギ』と呼ばれている──護符が施されていた。
フセギとは本来、道の辻や村境に置かれる呪術的な施しだ。
(この岩は村境にあった)
「これ、後ろ側が山っしょ?トンネルがある山から落ちてきたんだ。だから山の一部な訳」
「じゃあ大風岩は山の神の体だと」
「そうそう。それに、このパネルには書いてないんだけど。これ」
事務所からファイルを拝借したのか、いつの間にか草目が文化財指定物と題されたファイルを抱えていた。
「こんなものが岩に埋め込まれてた。いつのかは分からない。荷巳巳村の古老に聞いたら江戸よりずっと前からあった、と言い伝えられてる」
写真には四速の、謎の獣がまるで岩が粘土でグニャリと埋めたかの如く密着していた。
「調査関係者は鎮墓獣ではないか、と結論づけたんだ。それと、これ」
ページをめくると、顔料が付着している岩肌がある。
その紋様を強調するように石彫りがなされている。蕨手文と呼ばれるものに類似されていた。
「村の人なんか紋様が何なのか知らなかった。だから蛇かなんかだと勘違いして、蛇か何かの怪物が掘られた奇石だって思ったらしい」
蕨手文と三角紋が基調である。かつては古墳に応用されていたのかもしれない──
そんな文章が書かれていた。
「これが風蛇の正体」
「人ならざる者を人が創り出す、人が変化させる事例もあるんだってね」
風蛇くんについてものすごく練っていた時期があったので、それを少し出力できて良かったです。




