滅びた荷巳巳村へ
ある世界の緑さん 平凡な緑さんが旧荷巳巳村へ向かう話。
「草目さん。人ならざる者はすぐに契約を結びたい生き物なのですか」
草目がバイクを走らせ、荷巳巳村へ向かってくれた。ヘルメットを着用はしているが2人乗りなので警察に出くわさなければいいが…。
「あー、種類にもよるんじゃん?妖精とか精霊とか、可愛い奴らはそんなんしないけど悪魔とか悪神とかへんちくりんなのは契約ありきだね」
「なるほど。契約なんてやけに西洋風ですね」
風を切りながら、流れる景色を見やる。どこまでも山々で人里から離れているのが分かる。
「契約内容を細かく提示してくるのは西洋の悪魔の類いが多いね。文化的な?日本は口約束みたいな、曖昧で厄介なのが困る。人次第で解釈が異なるとめんどくさい事態になるし」
「草目さんは物知りです」
「いや、別に。色々関わってきたからさぁ」
笑い飛ばし、国道をかっ飛ばしていく。
「緑は変なモンに契約されてんの?」
「まあ、そんなものです。イズナで手一杯なのに」
「解約すれば?そういう魔法使い紹介するよ」
そんな生業の魔法使いもいるのか。
「違法だから料金はかかるけど」
「…はあ、捕まりたくはないんで遠慮しておきまさす」
術連の支配下で悪事を働くと、界隈から村八分に近しい扱いを受ける。村十分かもしれない。
所属するのが苦手な緑さんは術連が大嫌いだが、魔法使いは無理やり加入しないとやっていけないのだ。
(魔法使いなんて、辞められたらやめてやる)
「緑に憑いてる守護霊。あれは相当にヤバい輩だから祓えないと思うわぁ」
「そうですか」
案内人のニヤニヤ顔がよぎり、嫌になる。
「普通の人ならざる者じゃない。たまに居るんだよ、アレ。どこの異界にも属さない化け物」
「どこの異界にも」
「式神は式神の。低級の魔物は低級の異界。そんな感じでさぁ、住む世界が区切られてんのよ」
たまに道路に落石やら、整備されていない証が現れた。彼女は巧みな運転で避けながら進む。
山道ではさして珍しくはない。ただこの先に村や人の生活圏がない事を示唆していた。
「ああいうヤツをアタシらはインベーダーってよんでるよ」
旧荷巳巳村は湖畔になっていた。ダム湖と見間違えそうなほどの水位だ。
展望デッキのような場所に慰霊碑とモニュメントがあり、ほぼ廃墟と化した資料館がある。雑草が生えた駐車場にバイクを停め、二人は辺りを見回した。
「荒らしにくる人もいないか…」
くたびれた資料館を見て、彼女は呟いた。




