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人外論

ある世界の緑さん 平凡な緑さんと人外たる心得。

 風蛇はとにかくこちらにべったりで、隙あらば手を繋いだり、寄り添ってくる。子供とはそのような仕草をするか…過疎化した町に住む緑さんには見当がつかない。

 甘えたい時期のまま止まっているのなら、それはそれで可哀想だ。彼は人ならざる者。成長するものなのか?

 拒絶できず過ごしていると、案内人はウンザリと言った様子で眺めている。だが、とやかく言わずただ監視している。それがお決まりであった。

 人間のように一緒に生活サイクルを送ってみたり、テレビを見たりとまるでごく普通の少年のようだった。

 緑さんは何も知らずにいた。人外も、人間も。

 風蛇が眠ったある夜、ベッドで読書をしていた。芽々子がおすすめしてきたアウトドア派な雑誌をパラパラと見ていると──案内人が近くに佇んでいた。

「アナタ、ショタ好きナンデスカア?ぺドフィリアとは思いマセンデシタ」

「ショタ?何ですかそれ。ぺドフィリアな訳ないでしょう。彼は人ではありませんし」

「はは!笑っちゃいマス!人なら何でも許されルトでも!まーいいです。マセガキの言いなりにならないよう気をつけてくださいネ」

 お灸を据える、みたいな言い草だ。心外だ、と緑さんは内心毒づいた。

(お前の言いなりにもなりたくないけど)

 彼女はシャーッと蛇の真似をする。

「彼は魔物。どんなに子供のスガタをしていても、中身はチガウ。人ならざる者は人間を利用シマス、そういう生き物ですよ」

「…そうですか。それは私にも該当しますか」

 人ならざる者は人を利用する。肉体を持った魔物は周囲の者を騙すのか。

「アナタ。まさか、まだ引きずっテイルんですかぁ?」

 片眉をあげ、案内人は笑顔のまま言う。

 はた、と無意識に引きずっていたと自覚する。ウジウジ悩んでも仕方ないと言い聞かせたではないか。

「そーですねえ。化かす、魅了する、誘う。それは人ならざる者の特権デショう?アナタはそれをずるく賢く使えばいいんです。Let's ポジティブシンキング!!」

「…はあ…」

「我ながら良い案を思いつきマシタ!風蛇という少年から学びなされ。人外論を」

「何ですかそれ」

「アナタの武器です。諸刃の剣からランクアップしマスヨ」

 脳裏に海辺での会話が蘇る。

 砂浜が広がり海が唸っている。曇り空の下、たくさんの武器の残骸。あれは破壊されてきた自分の意思、防御、敵意──夢でないのなら自分自身はまだ脆い木刀しか持ちえていない。

(涙は女の武器というが…。人外にもそんなものがあるんだろうか…)

「現状維持の役に立つのなら」

「契約成立デスね」

「は?いつお前と契約した?」

「魔物との会話には気をつけナサイ。お嬢さん」

 ニヤニヤとしつつも少女は消えていった。あれも釘を刺したつもりなのだろうか?

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