山体崩壊
ある世界の緑さんと魔物たちの戦い。
「ハハハ〜〜。笑ってシマイマース。ワタシたちはァ…最初から魔物ダッタと。どこまでモ報われませんネェ…」
悪鬼に成れ果てた蛇神に憑依され、走馬灯に支配されていた緑さんに案内人の嘲りが届く。
「なら、魔物ハ魔物らしくシマショウか。小林 緑、いいや、魔物。お前ノ本性ヲみせろ」
思考が鈍っているがために、理性の根底にいる『魔物』が反応し蠢いた。
「お前ガ一番輝き、命を燃やスのは何だ?ソレは破壊衝動ダ。全てヲ破壊しろ!化け物!」
牙を剥いた化け物が『型』を突き破って蛇に噛みつき、切断する。
「痛いよう!何で──」
ずっと奥で燻っていた諦めと絶望を食い、肥大化した化け物が大きな口を開け、雄叫びをあげる。
反抗的な咆哮が風蛇の生み出した幻を破壊し、トンネルにヒビを作る。トンネルの大崩落以来の地下水が滲み出て浸された閉塞された場から亀裂が走り、山体に幾重にも脆弱性を作り出す。
「やめて!やめてよっ!山が、僕の居場所が亡くなっちゃうよっ!」
少年が泣きわめく。しかし山は軋みをあげて徐々に山体崩壊を促す地すべりの準備を整えていく。
「ごめんなさい!嘘をついていたのっ!僕は風蛇でしかないんだ!どんなに記憶を反芻してもあの子にはなれなかった──やめて!僕の山を」
「嘘ヲつくとどうなるか、お分かりニナッタかな?マセガキ」
案内人がドスを効かせた声で問うた。
「我々はニンゲンにはなれない。どんなに模倣してモ、擬態しても。ワタシたちは魔物デシカナイのさ」
「た、助けて」
風蛇の中に残っていた少年の残香が手を伸ばす。それは案内人の体をすり抜ける。
「──あのさぁ。結界の壊し方、どうにかならな〜い?」
吊田崎 草目は隣りに佇む黒いマスクをした青年へ苦笑する。
「いやぁ、俺。それしかできないもん」
世にいう地雷系なるメイクをした目尻をニコリとさせ、彼は旧荷巳巳村をきつく封じていた結界の欠片を手に取る。それが彼の得意技であり、欠点でしか無かった。
眉唾物のよくあるオカルト話にある──地図から消された小規模の村とやら。
しかし最高神の怒りを買い、水没した村がある。それが荷巳巳村であった。術連なる魔法使いの組合たちが総出で怒り狂った蛇神を封じ込め、村人たちと建設会社がとり憑かれたように完成させた奇妙にくねくねとしたトンネルも閉鎖した。
もはや世間から忘れられたと思っていたが、三ノ宮 梦妙たちが慌てて術連へ連絡してきた。小林 緑が意識不明の重体になり、それから大香鹿町で蛇や水関連の厄災が続出したという。
反魂の魔法の応用でたどり着いた先は──すでに崩壊が始まっていた。
山鳴りが凄まじい。地面が擦れ、悲鳴をあげている。ああ、山が死ぬ。
草目は何度も最高神──山の神が死に、神が支配してきた麗しき森羅万象を失うのを目にしてきた。
いつ見ても悲しいものだ。神聖さも厄災も失われる無味乾燥な土地だけが残る。もうそこには精霊も悪魔も、何もいない。
「奇妙なオンナだよ。小林 緑」
「ね、ねえ?俺たち巻き込まれない?波がこっちに来ない?」
ヒョロい男子が地割れを目の当たりにして怯えだした。
「なるなあ!」
「ちょぉっ!逃げる!死にたくなーい!」




