「霧幻のとんねる」
「トンネルにいるコドモ」と繋がっております。
その時にいる緑さんは開闢軸の緑さんなのですが。
魔物の怪力に負け、気がつくと水中にいた。周囲を数人の水死体が浮遊している。屍蝋化しているのか生々しい。
幻覚に放り込まれたのか──人ならざる者のテリトリーへ連れ込まれたのか。
確かな明かりはなく、暗がりに軽自動車のヘッドランプの光線が凍てつく水を照らしていた。
「息をしてください。水だとはオモワナイデ」
(無理だろ)
「とりあえず息ヲ吸ってミテ」
空気だと暗示しながら口を開き、深呼吸してみる。意外にも無重力な世界は苦しくなかった。
「おお、不思議な感覚」
「無重力空間もタノシイでしょう」
確かに体の重たさも、怪我の後遺症の強ばりもない。
「ここは」
「トンネルの中デス。アナタを掴んだダレカの」
「トンネル?ああ、地面が背中にあるのか」
車線を表す白線が真下にある。頭上はトンネルを表す半円形であろう天井だった。
何台か玉突き事故を起こしたのか、大破した車体のものが置き去りにされている。だが浮いている人たちは車の数より多い。
暗くて、よく分からないがまるでマネキンをたくさん集めて並べたようにゆっくり動いていた。
「電気をツケマスカ?」
「どうやって?」
「アチラに」
トンネルの整備を行うであろうドアがあった。緑さんはクルリと回転し、仕方なく脳内で重力をイメージする。
何とか着地すると、一気に現実味が降りかかる。煙臭さとガソリンがもれ、クラクラした。アスファルトに亀裂や瓦礫が転がっているのを知る。もしかするとこの場は事故現場なのか。
どこからか水が漏れる音がする。今は電気をつけてみよう。
「あの子供はどこに行ったのだろう」
「気にナリマスカ」
「人ならざる者にしては人間らしい幼さがあった…」
「フム…アナタはそう、思っタのですね」
笑顔のまま、案内人は静かに言う。火事が大事になる前にあの扉を開けてしまおう。
近づくと非常口と書かれている。なるほど、これはとんだ見当違いをしてしまったらしい。
非常時のための電話ボックスがあり、それを利用させてもらおう。警察に電話すれば救助が来るかもしれない。
(いや、この世界に警察なんているか)
緑さんは何とかドア横にある公衆電話へ歩み寄り、110番を押した。
「もしもし。電気をつけてくれませんか。停電しています」
「霧幻のとんねる」は単発で書こうとして5回以上頓挫した話になります。




