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夜桜のせい

ある世界の緑さんと異界への誘い。

 あれから数週間、淡い色が赤みを増した桜が散り、体の自由も平常に近づいてきた。

 霧錆 芽々子の自宅でたまにカムさんも加わり、世にいうお茶会をしたりして。越久夜町ではあまりしてこなかった他人との関わりに、緑さんも悪いものでもないと改めようと考えていた。

 夜になると、危険じゃない範囲で散歩もするようになった。夜桜を見に行ったり、芽々子から教えてもらった夜空が綺麗に見える場所へ行ったりした。

(…越久夜町に帰るのが面倒くさくなってきたな)

 散りゆく桜と若葉を眺めながら、緑さんは邪推して、あのけたたましい死亡フラグ警報がでないか身構える。

「…で」

 どこからか、人の声がして懐中電灯を向ける。

 誰かが喋っている。花見客だろうか?

 夜間のライトアップも終わったはずの夜に、見にくる輩がいるだろうか?いや、自分自身もそうなのだから──

 懐中電灯のライトがチラついて人がいるのが伺える。数人いる。

 嫌な予感がして身を隠そうとした。

「振り払っテハナリません」

「え?」

 いきなり案内人が背後から声をかけるものだから、振り払ってしまった。(悪手だろ)

「アーア。やっちまったナー」

「お前のせいだ」

「お前、ではありません。案内人さん、またはエドフリンさんとヨビナサイ」

 案内人が半月の双眸をさらに頭上へ向ける。どこからか薄ら寒い微風と霧が立ち込めてきた。

(事が去るまで息を止めていよう──)

 警告音が一つ。加えてダイアログボックスが表示される。それを皮切りにウイルス感染したパソコンのように、ダイアログの嵐になる。

「WOW!楽しみなセカイに呼ばれていますヨ!」

 手を手繰り寄せられ、息を吸う。案内人はこちらに触れていない──

 この手は。幼い子供の手が力強く、霧の方へ引き込む。

「やめろっ!」

 振り払おうとするも、湿り気を帯びた掌がやけに冷たいのに気づく。水浸しだ。

(人ならざる者だ)

 第六感を封じられていても、ありありと分かる異質さ。この者はただの魔物じゃない。

「お姉ちゃんもこっちにきて」

 子供だ。ただの人如きがここまで悪質な存在になり得ようか。緑さんは根負けして冷水へ引きずりこまれた。

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