自分よりも年上
ある世界の緑さんと案内人さんの会話。
「オッットぉ失礼ぇ。ワタシは小林 緑の第二の人格デース。どうも〜」
勝手に憑依され、緑さんはジタバタもがくも体はビクともしない。
「貴方がイズナ、なの…?」
温厚そうなイメージから一転、芽々子は敵意をむき出しにし、魔法を繰り出そうと構えた。
「アー、いえ。ワタシ、エドフリンと言います。イズナなんて下等な生き物と一緒にしないでくださーイ」
「エドフリン?変な名前」
「フレンドのアナグラムです!ワタシは小林 緑の味方!唯一無二の親友ナノです!」
自信満々にニヤニヤと卑下た笑みを浮かべているのだろう。彼女は困惑し、斜め上の推測をした。
「み、緑さんを守るために生み出された人格なのねっ」
(ええっ、そうなるのか?)
「はい!先程、小林 緑は危険な思考にタドリツキそうになりました。ノデ、ワタシ、出てきた」
(いや、うるさい死亡フラグの警報が出てなかったんだが…)
「まあ…なんて可哀想に…」
「いえいえ!ワタシがいる間は大丈夫!」
(大丈夫じゃねえ。変われ!)
(お黙りなサーイ。食べちゃいマスよ)
底知れぬ冷たい風が足元をさらうような、不気味な感触がして、緑さんはイメージとして肩の力を抜いた。
「お互いツライことは秘密にシマショウ。緑さんは小林家で用意してもらった子供部屋で自殺未遂ヲした。首、手首、切って、たくさん睡眠薬ノンダ。デモ三ノ宮 妙順に助けられた」
「そう。なら子供部屋はちょっとキツかったわね。ごめんね」
「大丈夫。まだ、この人は何もシラナイんですから。ショック、少ないです」
(何も知らない?おい、案内人)
半月の目で案内人はズイッと顔をちかづける。シーッ、とジェスチャーをするとニカッと笑った。
「めー子さん。貴方も、しまってオキタイ事がある。お互い秘密、守りましょウ」
「う、うん」
「めー子さん。アナタにはとぉ〜っても感謝、シテイマス。ワタシもアナタに出会えれば何か変わっテいたかも!」
「エドフリンさん…」
緑さんは案内人も自分自身であった時期があったのだと、ぼんやり思い出す。彼女はどのような経緯を辿り別人にまで変貌したのか。
佐賀島 辰美がどのくらい干渉したのか。きっとこの世界の小林 緑には分からないだろう。
「貴方も緑さんよ。悲しい顔をしないで」
「エッ。笑ってマスよ!」
中庭で久しぶりにぼんやりと時を過ごす。芽々子はお風呂に入っているのだから、邪魔せず上空の風の音を聞いていればいい。
「お前。私の体を借りる時は鏡で合図すると約束したはずだ」
「お前!お前ですって!イヤーッ!」
殴ろうとしたがスカッと頭を拳が通り抜ける。奴は実体がないのだ。
「アナタ、煙草吸うんデスカ」
「…少し。はぁ、私なんだから知っているんだろう」
拝借した煙草を一本、吸ってしまった。酒とタバコに溺れるな、と散々梦妙に言い聞かされているのに。
「いや、何億光年ぶりに地球に来ましたカラ、自分の生態ナンてほぼワスレマシタ」
何億光年ぶり。規模が大きすぎて、空を見上げるしかない。夜空は春のもやで煙って星があまり見えない。
「あんたも故郷を捨てたのか。皮肉だよ」
「故郷?越久夜町ガ?故郷?!ハハハッ!!」
「いや、地球」
「地球。ソウデスネエ…佐賀島 辰美から逃れるために夜逃げシマシタ。駆け落ち、ともイエマショウカ」
駆け落ち。また自分とは無縁なワードが飛び出した。
「チー・ヌーの手を取って、逃げまシタ。お互いタイクツで一発食らわしてやりたかったから」
くつくつ、と意地悪い笑いを堪え、案内人は目を開け、こちらを見やる。
少女らしい姿でニヤニヤしているばかりで、そうやってアルカイックスマイルを浮かべるのは珍しい。ように思えた。
(コイツは私よりたくさんの経験をしたんだろうな。ムカつく)




