鏡越し
鏡を見るのは嫌いだった。洗面所の鏡はひび割れ、破片が散らばっている。
いつだか割れたそれは長年放置されていた。
スリッパで破片を避けていると、耳からイヅナが出ているのに気づいた。
鏡にイヅナが映るのかは謎だが、片耳からイヅナが出て、うねっていた。
「ああ、また、」
尻尾をつかみ引きずりだすと、イヅナは慌てて逃げていった。奴らは小林 緑の使い魔だが、己の分身のようでもある。
口からでてきたり、勝手に冷蔵庫の物を食べていたり、様々な事をしている。
もしかしたら自分は小林 緑という肉体を動かしているイヅナではないか、と思う時もある。
人間は多分人間にしかなれないので、真偽は分からない。
「鏡、外してもらいますか」
三ノ宮に頼んでぐちゃぐちゃになった鏡面を撤去してもらおう。
洗濯機にタオルを放り込み、洗剤を入れる。
「ボタンが作動しませんね」
しょうがないのでタライと洗濯板で洗うしない。
「浸け置きしておくだけで…」
水を入れればまだいいだろうか。なら、また後でやろう。
「めんどくさい」
そもそもタオルなんて洗わなくて良かったのだ。居間に戻る事にしよう。