食卓の会話
ある世界の緑さんとその場しのぎ。
(他には変な機能が付与されないだろうな?)
「ええっ、ワタシ、便利なAIじゃない。ソウデスネ。夜目がちょびっと効くようにナリマスねえ。後は死亡フラグがちょびっとだけ可視化されます」
(おいおい。何だそれ。私はゲーム機か何かなのか?)
「変わりないデショ〜」
芽々子がにっこりと微笑んできて、罪悪感がわく。もしこの可能性をなかった事にしたら…彼女の、娘の傷を癒すささやかな日々は──
「記憶喪失なのかも?頭が切れて中身が見えてたから」
「ヒィッ!緑ちゃん。それで歩いてきたの?体力お化けよ…」
「…いや、私には緑ちゃんは記憶もあるし、きちんとした意識もあるように見えるわ」
(チッ)
鋭い梦妙の眼差しに内心、悪態をつく。
「今悪態をついたわ。緑ちゃん、悪態をつく時はわずかに右の歯を食いしばるのよ」
「こえ〜〜~!ナンデスカ?!あの女!」
案内人がヒエッと怯えて、家具の横に隠れた。
(お前が怖がるのか…)
「どうとあれ──」
立ち上がり、こちらを連れ戻そうとした姉役を担ってきた彼女の腕を掴んだ。そのまま手繰り寄せる。
「え?」
「あ、あらあ。緑さん、どうかした?」
(案内人。この可能性は消さない)
「チェ〜ッ。お金が…まぁー、良いです。ある意味、佐賀島 辰美から遠のいたのでヨシです!」
動作確認、ヨシ!と謎のポーズを取ると案内人は一時的にかききえた。
三人で夜ご飯を食べる。カムさんは自営業の旅館がある為に、戻らなければならなかった。そうして残されたのは着の身着のままの三ノ宮 梦妙である。
「──諸事情あって、友だちの旅館に身を寄せていたのよ。緑ちゃんも探したりしてここ数ヶ月は嵐のようだったわ」
「そんな…本当にごめんなさい。知らずに」
美味しいスープを食べながら、緑さんは黙々と味を確かめる。
「いいえ。感謝しなければならないのは私です。治療費などを後々返しますので…」
「いいの!わたしが好きでやった事だから。あの…一つ聞いていい?緑さんの傷は虐待などでついたものなの?」
「ああ…リストカットとかの跡は…彼女が自分で付けて。虐待は…分からない。けれど越久夜町では里親さんの家で幸せに暮らしていたし、その時はとても大事にしてもらって」
するとわずかに安堵した様相で彼女は頷いた。
「そう。里親さんに幸せにしてもらっていたのね。良かった。憑き物の家で苦しんでいた子をたくさん見てきたから…」
「あ、ああ…そうねえ」
曖昧にはぐらかした笑いで梦妙は難を逃れようとする。
「梦妙さんは魔法使いなの?少し臭うのよ」
和んでいた食卓が一瞬で凍りついた。さすがの緑さんも仲裁に入ろうかと、したが寺の娘は首を横に振る。
「魔法使い、というよりは憑き物筋に近い家だったのだけど。もう私はお払い箱になったから何でもないわ!わぁははは!」
「ええっ、お払い箱?!」
「だからこうして家出少女みたいな事をして、緑ちゃんと偶然〜。まあ、こういうのも悪くないわぁ〜」
スープを食べながら、彼女はあっけらかんとしていた。
(梦妙さんらしい割り切り方だ…)
「苦労人ばかり集まってきちゃうのかな。いや、でもどうするの??生活費とか」
「昼間は旅館のお手伝いをしていたから、住み込みバイトみたいな感じ。明日になったら旅館で働くの」
「緑さんはどうしましょう…」
二人を眺めながら、芽々子はしばし考える。
「大丈夫よっ。私も車を運転できるから、見に来るわ。その様子だと本調子じゃないみたいだし…申し訳ないけれど、彼女をつかの間でも良いから貴方の家で安心させてあげたいの…」




