可能性を削除しますか? はい いいえ
現実逃避。
もう少しだけ。許されるだろう。
「腕がかなり動かせるようになったし、筆談でもしてみる?」
だって。
「…」
緑さんはまだ多少強ばりのある指を眺め、首を横にふる。よろけながらも歩けるようにもなった。でももう逃げるだとか、探索する気もおきない。
その様子を見た芽々子は複雑そうな顔をした。
「そう。無理強いはしないわ」
「あの子。引きこもりがちなんです。部屋から出たがらなくなって、筆談もしたくないみたいで」
医者と話している声がして俯く。
気が塞いでいる訳ではない。自分は現実からひたすらに逃げているだけである。
(情けない。私らしくない…私らしい?って何だよ)
診察が終わり待合室で座っていると、声をかけられた。旅館を営む女将、カムさんだ。
髪型も顔色もかなり変わったとしても、彼女は見抜いてしまったようだ。冷や汗が吹き出して視線をさ迷わせる。
「あれ?緑ちゃん?どうしてここに?」
答えずに固まっていると、芽々子が戻ってきた。
「あら?お知り合い?」
「え?あ、私は緑ちゃんの知り合いです。貴方は?」
「緑ちゃん!?この人は緑、というの?わたしはこの人を保護している芽々子といいます」
二人は唖然としている。それを目の当たりにして、緑さんは他人事のように座るしかなかった。
「そ、そう。とにかく梦妙ちゃんを呼ぶから」
「う、ぅ」
止めてくれ、と声を出そうとするが無駄だった。そこで芽々子の腕を握る事にした。演技だ。
嫌だ、と首をふる。この人は知らない、と白々しい演技をしてみせる。
「あ、あ、えっと。どうしよう」
「ええっ〜??緑ちゃん?どうしちゃったの?」
「幼児退行みたいな?そういう感じなのかしら。よく分からないけど、精神的ショックが大きかったのね」
カムさんが梦妙とこちらを観察している。
「…緑さん?この人たちは怖い人たちじゃないの」
現実逃避。まだ。まだだ。
「現実逃避?現実の延長線上で?アナタ、無謀ニモ程があります」
どこからか声がして嫌な予感がする。あの幼い姿をした案内人がリビングの隅で佇んでいた。
(チッ。あれほど振り回しといて、いまさら!いまさら──)
「フリマワシタ、の、アナタとの約束のため!」
(…約束)
二人で交わした約束。何を…そうですね。変わらない日常ですかね。
現状維持デスネ?
「そうとモ!」
うんうん、と案内人は頷いた。
「ワタシは貴方の味方!ご安心を。──お駄賃はたくさんの可能性です!ソウイイマシタ!お忘れデスカ?」
(ならば、今、本来の日常とは大きくかけはなれている、と。現状維持…)
「可能性へ踏み出したのはアナタです!まァ、可能性は意地悪デスカラ足元をいとも簡単にスクイマスよ!お気を付けて!」
(…案内人。もしこの可能性へ従っていけば私は死にますか?)
すがり付いて目をつぶったふりをして、会話を続ける。
「ア?は、はは…ハハハ!アナタ!さすがです!自分だけがタスカレバ良いんですね??…ううん、と。対して支障はアリマセンね。ただ、巻き込まれ体質が付与されます」
「うぐぅっ?!」
吹き出して緑さんは痛む喉を抑えた。
「緑さん?!大丈夫?!」
「くっ…う、う」
大丈夫、とジェスチャーして必死に頭を稼働させる。
(巻き込まれ体質、なんて二次元な…いや、死なないだけマシなんじゃ…いいや)
芽々子さんは××子という適当な名前のつけ方をしました。
最近 心身共にズタボロで人生が迷走していますが、なんとか小説は書きたいです。




