夢路を走る
ある世界の緑さんと案内人さんが夢みたいな世界を旅します。
「命日…なにを」
突拍子のない言葉に緑さんは一気に戦意喪失した。
「そうでーす。梦妙さん??はあの日、中腹にある墓地の墓石が倒れたと聞いて見に行ってしまったんです。ホントはそこで犯行を目撃して殺害されてしまうはずだったのですが、私がおびき寄せて免れました。殺害されるはずの女子も山火事で犯人ともども保護されましたよ」
早口でセリフを朗読するかの如し棒読みで、はあ、とため息をつく。
「そのせいでペナルティを食らって動けないんですよ〜」
「…梦妙さんの名前すら忘れているなんて」
「ええっ、何万億光年前の記憶なんてありませんよっ」
なぜかギョッと驚かれ、こちらが呆れた。ふんぞり返ったまま案内人はジロリと眼球だけでこちらを見る。
「防護スーツなしで美味そうな魂の匂いを嗅ぐのはキツいものがありますねええ」
「案内人。私の魂を食うために現れたんじゃないだろうな?」
木刀を構え直し、距離を置いた。適うはずのない化け物へ武力攻撃するのは愚行だが、人としてのプライドがある。
「まさか。そこまでお下品で低俗な輩ではありませんよ。現れた理由はもちろん秘密です」
(…。…あそこまでかけ離れていると他人として受け入れられる…逆に良かった)
「魂を食うのは低俗な者だけです。人ならざる者で人を食えるのは稀なのです──」
彼女曰く人体を食っていけば知能も得られ、力も増していく。魂や血液を好むのは人ならざる者(低級な人外) の回復アイテムだからである。
人を形づくる現実的な血液では無い。気を含む血である。血を食う人ならざる者たちは人間の人口ほどいるという。
活力なら血。
魂なら心臓。
知識や人格、記憶なら脳。
魂だけでは足りないのだ。人間の物質的な物まで食べてしまうのが、人ならざる者の強者であった。
「私は一万年、そのくらい断食をしていますから」
「断食って一万年できるんですね…」
人ならざる者とはいえ規模が違いすぎる。これは無難に、逆らわずにいた方が安全かもしれない。
「あ!そうです!そうそう!さあ、少し旅に出ましょう!梦妙さんに謝りにいってもいいですよ!これは詫びサービスです」
「旅?」
「詫びサービスはペナルティ軽減処置らしいので、ご安心ください」
無理やり腕を捕まれ、不確かな地面を歩かされる。次第に駆け足になり、緑さんは焦りつつも歩幅を合わせるしかなかった。
「人ならざる者の世界をご案内しましょう!」
「ちょっ、何を──」
暴風に見舞われるや視界が開け、眼前に幾重にもトレースされた景色が飛び込んでくる。ガラスか、電子パネルか、立体感のない異形たちが人界の風景に貼り付けられていた。
切り取られた景色。アルバム帳のようだ。
「まずは〜〜低級の世界、イズナたちの住まう世界です!」
小林骨董店のイズナたちがこちらを見る。
「良かった、生きていたのですね」
彼らはどうして緑さんがいるのか不思議そうにしている。
「忘れてしまったのですか?」
「親身な梦妙さんよりもイズナの方が心配だったのですか?酷いですねえ」
彼らは忘れていませんよ、と付け足され、グイッと引っ張られた。
「何をするんだ!」
「次の世界です。次は〜飢餓の世界、貴方たちに一番近い可哀想なお友だちがたくさんいますよ」
風が吹き荒れ、眼下に破損した人間の群れが歩いていた。なさながらゾンビ映画であった。
「案内人。あれはゾンビですか?違う世界の現実なんです──」
「…貴方もこうなりたくなければ、私に案内人されるべきです」
半月の目に捉えられ、脳のシナプスがぐちゃぐちゃにされる。さっき問うていた言葉が思い出せず、さらに手首を掴まれた。
「おっと、力量を間違えました。さあ、梦妙さんに会いに行きましょう!」




