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ダム底

「腐臭がすごいですね。申し訳ないですが、ウチでは受け取れません」

 孤独死してしまった家で、遺品整理の査定を頼まれた。

「そこを何とか…息子が好きだった蒐集品なんです」

「…私のような小さい店ではなく、他のきちんとしたリサイクルショップに行った方が良いと思います」

 小林 緑は淡々としつつも、途方に暮れた老人を見つめた。大学生用に貸し出されたワンルームだった。

 ロフトのある、日当たり良好の物件だ。

 死因は自死だった。

 蒐集品は曰くがありそうな木箱だらけだった。開ける気にもならない。


「…オカルトマニア、ってヤツ?」

 外で待っていた佐賀島 辰美が小さく呟いた。

「まあ、そんなものでしょうね。三ノ宮に送ればお祓いくらいはしてもらえるかもしれませんが」

「あの部屋、一人暮らしだったんだね」

 辰美が窓をみやる。

「前さ、あのアパートの大家さんがあの部屋に何か話しかけてたの見て」

「はあ」

「そしたら大人数の声で、こんばんわ!って返して来たから、変だなって」

 それだけ言うと彼女はまた窓を見た。

「てっきり家族で住んでるのかと思ってたよ」

「家族ですか」

 虚ろな暗がりがある窓辺には誰もいなかった。


 三日後。

 三ノ宮家から電話が来て、寺に向かうと、跡取り息子の三ノ宮 妙順が困り果てて迎えてくれた。

「家の前にこれが大量に置かれてまして…」

 客間に積まれていたのはあの木箱だった。

「ああ…」

「ヤバいって一目で分かるじゃないですか!なんなんですかコレ!」

「知りませんよ」

「お祓いするの手伝ってもらえませんかあ」

 怯えた様子の三ノ宮に呆れながら、一つ目の木箱を開けた。何か、写真の欠片が入っている。

「全部開けてみましょう」

「本気ですか?!」

「ただの写真じゃないですか」

「ええぇ…」

 二人がかりで箱を開けていくと、バラバラにちぎられた写真がそれぞれしまわれていたようだ。

 机の上で組み合わせていくと、二枚の家族写真だった。

 一枚目は母親と父親、そして女の子。どうやら自宅で撮った何気ない風景だ。

 二枚目は車の中で、無表情でこちらを見つめているものだった。

「これは、水中ですかね」

「ああああ。もう無理…泣きそう」

「町役場にこの人達の痕跡があるか問い合わせてみましょう」

「いや、だって、これ」

「事件かも知れませんし」


 町役場で例の写真を見せ、大いに困惑させていると一人の男性が家族写真の庭に写っている景色を見た事があると言い出した。

 大きなビワの木があるオシャレな民家だったらしい。だが、いつからか住人が居なくなったので町は困っていると。

 夜逃げではないかと噂されていたのだと言う。

 経緯を話し、緑は写真を渡し帰る事にした。

 帰りながらも家族たちはなぜ、水中で写真を撮ったのだろうかと考えていた。あれは生きていた顔なのだろうか。

 フィルムを現像したのは誰なのだろう。

 もしかすると上流にあるダムにまだ「居る」のかもしれない。

 小林 緑には関係ない。関与しない。してもどうにもできない。

「ああ、あの時、辰美さんは、家族を見ていたのですね」

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