鏡越しのコミニケーション(探り合い)
ある世界の緑さんと手鏡。
「じゃじゃーん!ルックアットミー!素敵な鏡デショウ。気に入りました」
案内人が店先の古風な手鏡から語りかけてきた。手仕事のされた高値の物だ。ロココ調でありながらアラビアンな雰囲気を醸し出す、美しい装飾。
祖父の代から壁にかけられている。なんでも海外から渡ってきた由緒ある骨董品なのだそうだ。
「そうですか」
「貴方はワタシがいるとすぐコチラを見ますから、手鏡の中にいれば気づかれません。魔法少女はカワイイ手鏡──マジックアイテムが必須ナンデス!」
「それは売り物ですので」
椅子に座りながら新聞を読んでいた。コラムなどに目を通しつつも、イズナが邪魔をするので集中力が切れる。
「魔法少女にナルトキハ、呪文が必要デス」
「私は魔法少女になれる年齢じゃないでしょうに」
少女というには歳が外れている。二十代半ばではもはや純真な乙女ではないだろう。
ファンタジーに夢見る純真無垢な心も持ち合わせていない。
「でも魔法はアリマス。現実に」
「魔法は嫌いなんですよ。毒虫くさい、姑息なヤツらの使う力なんて」
「ナラ、アナタにぴったり!魔法少女はフツーの魔法とはひと味違う特別な力で変身できる、不思議なスーパーヒーローなんです!」
今ならこのうるさい輩を閉じ込めた手鏡を破壊して二度と会わないような怪力が生まれそうだ。
「マジカルなプリチーな魔法!アナタも使いたいでしょう!」
「絶望に転落しそうな気配がしますね」
「もう…せっかく営業シテルのに。ノリが悪いデスね」
プン、と彼女は子供っぽい仕草で拗ねてくる。実際、外見は中学生くらいだ。
「で、その手鏡で貴方は何をしたいんですか」
嫌々ながらも会話を続けてやると、案内人は一転してゴマをすってきた。
「憑依する際にお互いのルールをキメたいと思いマシテっ!魔法少女みたいに、変身の呪文を唱えて切り替わりたいノデス」
「あ?誰が憑霊するって?悪魔か?」
「もちろんワタシ。アナタ、ピンチの時、助・け・る♡」
ニコニコと満面の笑みで言うや否や鏡越しに肩に手をかけてきた。
「ワタシ、マホーのエキスパート。イズナもアナタより千倍、上手く操れる。だからデス」
「へえ。イズナを。イズナ持ちでない貴方が?」
「はい。ワタシの専科はイズナですから!」
(こいつイズナが巨大化した化け物じゃないだろうな)
自信満々に案内人は宣言するや、グリグリと頭を小突き始めた。もちろん鏡の世界である。痛みは無い。
「それは見てみたいですね」
「なら!変身魔法の呪文ヲ考えましょう!」
化けの皮が剥がしてみたくなり、わざと話に乗り騙してみたくなった。
「出てよ!──」
「初っ端から魔法少女じゃなくなってるじゃないですか」
「そうですかー。じゃア、アヅチの窓を展開す!出てよ、我が案内人!で、ドウデショウ」
「はあ…我が案内人?…それで良いですよ。で、イズナはどうやって使うんです?実演してください」
ム、と案内人はニコニコしつつも気配が変わる。
「ソーデスネ。緊急事態になったラ存分にお見せシマショウ」
(くそ。話を逸らしやがった)
「ご心配なく。ワタシはアナタの味方!信じなくテもごケッコー!しかしワタシはアナタを愛します」
ギュゥゥ〜と抱きつかれ、悪寒がした。
「きしょい!触るな!」
「実際に触ってオリマセンヨ?鏡越しデスので!」
緑さんって憑霊型の巫女素質ありそう。




