二階にいる人
「あの野郎…私が…ろしてやる!………この町のせいで………は!!」
二階から何かが暴れる音がして目が覚める。夜中の三時だった。
廊下で気絶するように寝てしまったらしく、小林 緑は痛む体を無理やり起こした。
ゴミだらけの廊下の、店先の手前。二階にあがる階段がある。
何かが暴れて、床や壁に物を投げ、地団駄を踏み、奇声をあげている。
「うるさいですよ。夜中に騒ぐんじゃありません」
階段を上り、封じられたドアを叩いた。
「近所迷惑ですよ」
「うるさいうるさいうるさい!!」
お返しとばかりに叩き返され、蹴られた。
「あんたが母さんとじいさんを殺したんだ!あんたが!!」
金切り声をあげ、何かは怒り狂っている。
「町に従ってるあんたがいけないんだ!破壊しろ!三ノ宮家を!町を!」
「私は、何も関与しませんから」
「ああああああああああああ!!!」
「はいはい。可哀想ですね。お神酒をあげますから、待っていてください」
盛り塩とお神酒を新しくて、ドアの前にお供えした。「では、私は散歩に行くので」
階段を降り、暗闇の中、どす黒くなった盛り塩を見つめた。
「めんどくさい…」
散歩に向かうため、支度をして裏口から家を出る。
外はシンとしている。あのうるさい家にいるよりはマシだ。
あの部屋には何があるのだろうか。幼い頃の所持品だろうか。それと、血染みと傾いた照明器具だろうか。
まあ、今の自分には関係ない。
月明かりだけの世界に溶けこみ、歩く。何だか腕が痛い。よく見たら傷があった。
そうか。
「コンビニに行きましょう。包帯を買って、それから、ああ、めんどくさい──」
ヨレヨレと進みながらぶつくさと文句を言う。「めんどくさいめんどくさいめんどくさい…」