無 縁
ある世界の緑さんと日常生活。
テレビの音で目が覚め、緑さんは眠っていたのを自覚した。寝落ちしたのがいつだか定かでないが、眠れたのは良かった。
「すんげーイビキでしたねェ!」
頭上からあの案内人の声がしてゲンナリする。あれから居座り続け、帰らないとぶうたれていた。
三ノ宮家は憑き物でないのなら、やはり精神的負担なのではないか?と過保護に心配してくれたが、正直に言うとありがた迷惑だ。
さすがにもう成人している。両親も親戚もいないが、服を着させられたり、ご飯を食べさせられるほど幼くは無いのだから。
「うわ、貴方、イズナに噛まれまくってるじゃないですか」
噛み跡だらけで現在進行形でイズナたちが彼女を齧ったり、追いやろうとアタックしている。
「嫌われ者ナンデすよ!ワタシって!」
「笑顔で言う言葉ですかそれ」
「イズナさん、可愛いからOK!犬臭いヤツはダメ」
犬を嫌うとはなんと妖怪めいた輩だ。
「やっぱり狐の妖怪なんじゃないですか」
「狐ぇ?ワタシが?いやいや、ワタシはそのようなモノジャァございませぬ。もし狐なら仙狐ですかねえ!」
芝居がかった言い草に呆れるも、彼女は「案内人は案内人ナンです」と言い切った。
「アヅチを案内人するだけのシガネエ、名も無きヤッコでありんす」
「あの世を案内人する…聞いた事がありませんね。仏さまならともかく」
説話によくある仏さまが地獄を案内する内容はいくつかある。だが、コレがありがたき仏には到底思えなかった。
「知らぬが仏。人生、知らない方が楽な事もありマース」
「それは否定しませんよ」
寄り道しないでおばあさん家に…。そんな童話があるように、悪い道に迷い込まなければやっていける。
「貴方は純真無垢デスから。悪い道に迷い込みやすいのです」
「私が?笑い事を」
「これまで貴方は他人に深く関わろウトシマシタか?外へ意識を向けマシタカ?──自分ノ気持ちを飼い慣らすコトができましたか?」
「…」
「貴方は幼い。なーンにも知らない赤ちゃん!」
ニコニコと笑われ、いい気持ちはしない。
「言いましたよね?私はずっとそれが良いと。それを望んでいると」
渦巻く感情を噛み殺し、平坦に言い放った。
「ええ。しかしココ、良くしましょう」
鼻を指さし、案内人は「悪い道に続く臭い。それ、分かるようにスる」
「やっほー♪」
正午。小林骨董店に来客があった。草目である。
「うわぁ、ほこりっぽ。三ノ宮さんに教えてもらったんだけどー。本当に骨董屋さんなんだ」
イズナたちがいっせいに毛を逆立て、フーッと威嚇音を立てる。緑さんはそれを横目に新聞を読んでいた。
「何を読んでるの?」
「新聞です」
「へー、アナログなんだー。いだだ。なんか噛まれてる。あだだ!いだい!」
「イズナたちが怒ってるんですよ」
イズナは普段、大人しく従順でありフヨフヨと空中を漂っているだけだが、やはり敵には牙を剥くらしい。
「いずな、あ、あー、オサキ?お姉さん、オサキ憑きなの?」
(コイツらをオサキとも言う地域があるとおじいさんが言っていたな…)
イズナは地域で様々な呼び方があると民俗の書籍にも載っていた。この細っこい人ならざる者を何と呼ぼうが魔法使い界隈ならさして失礼に当たらない。
「憑きもの筋ではありますね」
「憑依体質なんだ。そっか、へー…」
「憑霊体質?」
聞き捨てならぬ、と緑さんは顔を上げた。
「知らないの?アタシもそう。憑きもの筋はさ、生まれ持っての憑霊体質なんだよ。だから予防しないと色んなモンに入られちゃうワケぇ」




