アヅチの窓の案内人 エドフリン
ある世界の緑さんとエドフリンさん。
「──貴方の願いを叶えるタメには…そうしないと…」
ニコニコした作り物めいた笑顔を貼り付けたまま、案内人は素面に近しい声色でそう言った。素直に困惑する。
なぜそこまでして。
「…とても嫌なんですが。なぜそこまでして、私を──」
(──助ける?…いや、どうなのか…?利益を得るためだけなんじゃ?)
あの不気味な化け物に変じてしまった自分自身に追いかけられた際は、こちらを逃すための行動だろう。それは彼女にとってプラスになるものだったのだろうか。
誰かに依頼されている?
「貴方。今。詮索してル。知らぬが仏、そうイイマシタよね?知りたイのですか?どうなってもシリマセンョ??」
凄みを含ませて彼女はズイッと鼻先を近づけてくる。笑っているはずの口から獰猛な牙が覗いていた。
相手が人ならざる者だと否が応でも認識させられる。嫌な気分だ。
「や。えっと、小林さん?だっけー」
「うわあああ!驚キっ!」
ぬうっと物陰から現れたロッジで出会った"魔法使い"──草目が緑さんへ音もなく寄ってきた。
「あれー?誰と話してたの?」
「え…」
やはりこの厄介な人ならざる者は自身しか目視できていないようだ。
「くさっ!ナンデスカ?!この人、犬くさ〜いデース」
(犬くさい?)
「へー、そこに何かいるんだ?それが今回の原因かなぁ?」
ジロジロと案内人がいる場所をみやり、その周りをうろつき始めた。
「犬くさっ。くせえ〜〜鼻が曲がる〜」
(犬を嫌うという事は狐狸の類いに近いのか?)
「可視化できないってのは"疫"ではないんだろうけどぉ…」
「ああ、これは…心の病かもしれません」
緑さんは半分くらい確信している言葉を打ち明けた。
「私は元々精神的に脆いようなので、その現れである、可能性がある…かもしれません。私の中の別の人格とか…」
「ええ〜?そうかなぁ?」
首をガクリと傾げると草目はこちらを底なしの黒目で凝視した。おちゃらけているが、この人は何かを抱えている。
「なんかさ。禍々しい気配がするんだよねー。小林さんからさ。ソイツかは分からないし、また違う者なのかもだけどね」
「違う者?」
──見つけた。
鏡の家で手首を掴まれたのを今になって思い出す。スウェットから少しだけ傷だらけの手首を出して眺める。
うっすらと痣ができている気がした。鬱血している際の血の色ではない。まるで腐蝕されたような…。
「あー、そこからだわ!てか何?リストカットしてんの?悪い子ちゃんだね?」
「あ、いや、…」
「マーキングって言うんだよ、これこれ。悪いヤツがこすい手口で食い物にする動物に付けんの」
手首を握られ、痣をジックリと眺められた。人がキツく握ったか如く後が残っている。
「ではマーキングした人ならざる者がやってくるのですね。そして私を食う」
「だね!逃げらんないね!」
明るく断言され、複雑な心境になるが痣を案内人へ見せつけた。
「ワタシじゃなーい」
「そこにいる誰かさんもすんごいイヤな臭いがするって"この子"が言ってるからー」
──気をつけてね。
草目は真意の読めない目つきで、それだけ言いつけて消えていった。第二印象も最悪である。
「この子、とは。あの人にも何かが憑いている…」
「じゃね??くっさい野良犬デショ」
鼻をつまんだまま、案内人はペッペッと嫌がった。
「はぁ…一日が無駄に終わった気がします。えっと、何でしたっけ。貴方」
「失礼な!ワタシはアヅチの窓の案内人!エドフリンとモウシマス!よろしくう!」
握手を求められ、緑さんは表情筋を駆使してあらん限りの嫌悪を示した。
「WOW。恐ろしいカオ…」
「早く帰れよ」
エドフリンさんはfriendのアナグラムなので、全世界のエドフリンさんとは無関係です。
そして草目さんは本当は異なるのですが無理やり草かんむり的な形に目で「首」にしています。




