息抜き その3 終わり
ある世界の緑さんと帰り道。
「ええ。多分…他殺でしょうね。それで、警察に連絡してしばらくしてね、訳あって小林さんの娘さんの親戚だって分かったのよ…」
娘の親戚、という事は母方だったのだろうか。緑さんは平生を装う。
彼女は嘘をついている?真相なら、なぜ?今なのだろう?
「警察もためらうほどの何かが絡んでるのか、うやむやになってしまって。町のお巡りさんからもこれ以上は関わると危ないって心配されたの」
「え、カタギの血が流れているんですか?」
「さあ。緑ちゃん、貴方にこれを話したのはね?」
何となく言いたい事は分かる。
「調べませんよ。安心してください」
「…おじいさんもホッとしているわ──」
そういうや否や外から妙順の情けない喚きが聞こえた。
「なにぃ?釘でも踏んだのかしら?」
慌ててサウナとシャワーを済ませて旅館に戻ると、妙順が顔面蒼白で震えていた。溺れたわけではないらしく、彼は椅子に座って付き添われている。
「どうしたんですか?」
「釣りをしていたら、その…」
なぜだか女将さんも歯切れが悪い。
「お、女の子が…湖に立ってたんです。不思議な服装をした女の子がっ」
「え!お化け!」
まあ、と姉が驚いたのかからかっているのか、的はずれな感想を口にした。
「多分、日仏村の長寿池に封じられた神さまよ…神さま、というのも変なのだけど」
見たら危ない類なのだそうで、旅館にある神棚へ皆で参拝した。池に再び出向かなければ良いとの事で今日はお終いにしよう、となった。
「サウナ、すごく良かったわ。塩で肌がツルツルになったのよ〜」
「ありがとう。ごめんなさいね…弟さんを怖い目に合わせちゃって」
「いいのいいの。修行が足りない証拠よ!また何か試したい事があったら連絡してね」
二人で話しているのを横目に、車の中でションボリしている妙順へ歩み寄った。
「なぜお化けが怖いんですか。死体よりいいでしょう」
「だ、だって、違う景色が見えたんです…周りは森だったのに…温泉街みたいな建物があってっ…池が血みどろで…」
「はあ…」
「日仏村って何が」
「知らぬが仏ですよ」
ふいにあの胡散臭い案内人が脳裏をよぎる。知らぬが仏、彼女もそう言っていた。無責任な言葉ではあるが知らない方が地獄を見ないのかもしれない。
「み、緑さんらしくないですね…なんかぁ」
「なぬ」
「二人とも、そろそろ行きましょうか!」
場を仕切られ、話はお開きになる。三人で別れを告げ、越久夜町へ帰った。
「いい?絶対に振り向いちゃだめだから」
運転していた姉が緊張した声音で忠告してきた。黙りこくっていた弟が何か言おうとしたが、頷いただけで俯く。はて、と緑さんはカーブミラーへ視線を向けようとした。
もし振り向いた自分としなかった自分の、辿る顛末は変わるだろうか?片方は下手したら命を落とすのだろうか?
曖昧な選択肢が転がっている。
両方が見れたらさぞ面白いだろうに。
「緑ちゃん。今、笑った?」
「へえ?!あの顔色悪すぎ鉄仮面が!?」
「なんだと」
「ギャーーーーッ」
足を思い切り踏むと妙順が情けない悲鳴をあげた。
お姉さん、カーブミラー見てませんか??(自分で言う?)
きっと何かが追いかけて来てたんでしょう…。




