息抜き
ある世界の緑さんと息抜きの提案。
緑さんはたまにとんでもない発作に見舞われる。アルコール依存症になった経験があるために、過度なストレスがかかると酒が飲みたくなる。
とある事態に陥り、異変を察知した三ノ宮家によりどこかの精神病棟に入れられた事もあった。その時は錯乱してまったく覚えてはいないが…あれから薬の処方も病院にも行っていない。
治ったフリをして過ごしているだけだ。
飲酒禁止が辛くなるのと並行して首の痣や手首の傷をガリガリと引っ掻き、緑さんは舌打ちする。自傷癖と世では言われているみたいではあるが。どんどん引っ掻くのが酷くなっている気がした。
この前の鏡の家の下りから酒をたくさん飲み──三ノ宮家にお世話になって以来、彼らが心配している。それに変な夢を立て続けに見ていた。
また入院するなんてなったら、小さな田舎町では白い目を向けられるだろう。やはりあの家には何かが憑いている、と。
どんなに取り繕っていても恐れや嫌悪の視線は隠せない。
だが緑さんは存じている。誰かしらに何かが憑いている事を。
「…さん…緑さん!」
三ノ宮 妙順の声に我に返り、首の痣から血が出ているのに気づいた。自宅の居間で久しぶりのまとまったご飯を食べている。それなのに上の空になり、自分自身が何をしているのか分からずにいた。
「やはり病院に行きましょう。最近の貴方は変ですよ」
「はあ…病院は嫌いなんです」
「でも」
「イズナがいるから大丈夫です。私はイズナに感情を消費されています。だからもう酒に手は出しませんよ」
「それにしたって。首の引っかき傷、ひどいじゃないですかあ。手首も唇も、傷だらけで、クマもひどいし」
「…」
三ノ宮がオドオドしながら反論してきた。同時にそんなに人を観察しているのかとも感心する。
「それに…お風呂に入っていますか?」
「なんですか?私が臭いって言いたいんですか」
「えっ!いや、それはっ」
(寄ってたかって臭い臭いって。お前らこそ毒虫くさいくせに)
「あ、そうです!僕たちで旅行に行きませんか?」
「は?」
いきなりの提案に、思わず眉をひそめた。それを見た寺の跡取り息子はまたビクビクしている。
「姉さんが行きたい所があるって…」
「へえ」
「近年流行りのサウナです。越久夜町周辺でもキャンプ場やサウナ施設が続々とオープンしてるみいで」
「ああ…奥多摩や秩父で、たまに番組がロケをしていますね…」
空前のアウトドアやサウナブームとやらで山場でキャンピングやサウナを楽しむ人が増えた。テレビでもよく紹介され、スパ銭も人気だ。
「完全個室のサウナ室らしいんです。それなら緑さんも安心でしょう。僕は湖で釣りでもします」
(サウナ…あまり入った事はないが…)
「水死体とか浮いてたら嫌ですね。白くなった人間が…」
「やめてくださいよぉ〜!」
謎に心霊スポットやお化け屋敷やらが怖い三ノ宮はまた騒ぐ。生活の近くに人ならざる者がいるのに。
「考えておきます」
それだけ言っておけばなあなあになるだろう。そう考えて緑さんはまた無意識に傷をひっかいていた。




