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あわいのタクシー

ある世界の緑さんとタクシー気取りの案内人さん。

 ()()()とは所謂、あの世への入り口だ──案内人はそう言い、緑さんを連れて摩訶不思議な世界を飛躍する。

「ワタシは案内人!今後ともよろしく!」

 万華鏡のような、サイケデリックな色彩に包まれ、背中越しに行き先を見る。見慣れた我が家が見えた。

「さっきからその案内人ってなんですか」

「シラナイホウガいいでスよ!知らぬが仏です!」

「じゃあ私は死んだのですか」

 あの世がこんなに明るくてしっちゃかめっちゃかな場所ならば早く来世に行った方がマシだった。いや、消滅した方がマシだ。

「ご安心ヲ!生きてるよ!サア!戻りましょう!」

「…。はいはい戻りますよ」

 相手にするのもめんどくさくなり、現実に戻る事に専念する。この女性はきっと魔法使いではなく、人ならざる者であろう。

 魔法使いには規格外な現象を起こせる者はいない。それは人間が誕生した瞬間から決まっていて、人ならざる者にならないと人智を超えた"魔法"は使えない。

 天狗になる者。または聖人になった者。

 しかしそうなると──二度と人の世界には現れない。

(この人も、人ならざる者と化してからも何かしらの職業をしているのかもしれないな)


「では…、迷子になるのはやめてくださいネ」

 地面に降ろしてもらい、案内人なる女性は笑顔のまま言う。

「迷子…私はm」

「シィー。アナタ、すーぐ興味持つ。悪い癖」

 幼い子供を窘めるようなジェスチャーをされわずかにイラッとした。

「ではお駄賃をイタダキます」

「あ?」

 ニヤリ、と彼女は意地悪い顔をした。

「タクシーと同じですよ。無賃乗車はいけません」

「…何千円ですか?今から持ってきます」

 諦めて財布を取りに行こうとするも腕を掴まれた。

「ノン。マネーじゃないです」

「…魂とか言うんじゃないでしょうね」

 やはり人ならざる者は容易に関わってはいけない。というより無理やり連れてこられたのだが…。

「いやいや。そんな物騒な!一つオキキします。貴方は何をお望みですか?」

「何を…そうですね。変わらない日常ですかね」

「現状維持デスネ?」

「まあ、そうともとれますが」

 うんうん、と案内人は頷いた。

「OK!ワタシは貴方の味方。ご安心を。──お駄賃はたくさんの可能性です!」

「は?たk」

「人にはたくさんの可能性があります。ある人は夢と呼び、ある人はタラレバと呼び、ある人は…叶わなかった世界、とも。貴方は現状維持を望みマシた。なので小林 緑さんの可能性を一つ、もらいます」

(ふむ。これまた壮大な…)

 自分自身には輝かしい夢はない。何かを目指したい、そんなカロリーを使うほどの生活はご勘弁である。それに可能性をもらうとは不明瞭で実感がない。

 この怠惰な日常が続くのならむしろ好都合なのではないか?

「良いでしょう」

「マイドアリ!」

 どこからかチャリーンとわざとらしい効果音がした。

「では、またのご乗車ヲ!」

 視界が白み、気づくとゴミだらけの居間で眠っていた。何時間寝ていたのだろう?

「…夢。都合のいい夢…」

 欠伸をして、夢オチかと肩透かしを食らう。あのオレンジ色の異界はただの悪夢であり、またサイケデリックな異空間を移動したのも連なった夢の続きだ。

「可能性、…なんて薄っぺらい言葉」

 緑さんは悪態をつき、また寝そべった。しばらく横になりぼんやりしているのが良さそうだ。

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