ワタシは案内人!
開闢軸の緑さんに追い詰められる緑さん。
緑さんは例によってまた夢の中にいる。今回は走っていた。あまりにも舗装されていない国道を、馬鹿力で。
息を切らしながら人類が滅亡したかのような景色に戸惑う。廃墟化したガソリンスタンド。錆びついた標識。朽ち果てた車体。生い茂る草木の匂い。蒸し暑い夏の空気。
夢にしてはリアルで、悪趣味だ。
ただの夢ならば興味津々で世界観を探索しただろうが──
凶器を手にした己に追いかけられている以上、逃げるしかないだろう。
相手は自分だ。しかし身体能力が人のそれでは無い。まるで獣のようにすばしっこく、すぐさま回り込んでくる。
「くそっ!」
陥没した道路の窪みを見落としたために滑落し、沢に落ちる。夢想の世界のくせに痛覚がある。岩や砂利にもまれ、口に血と砂の味が広がり、気道にも入り込んだ。
「ゲホッゲホッ…」
土埃が上がり、緑さんは何とか体が繋がっているか確かめる。滑落すると肢体がもげる事があり、自分も危うい。
節々は痛むが、まだマシな状態ではあった。
空が不自然なオレンジ色だ。まだ昼だと言うのに、おかしな時空だ。
そうこうしているうちに鋭い気配がして…緑さんは相手を睨みつける。牙を剥き、般若の如き様相の自分。髪を垂らしたままの、ボロボロの衣服で、血まみれの手にはナイフ。
人ではない鋭い牙から血が滴っている。何かを食いちぎったのか。
アレは本物の自分なのか──
ギラついた黄緑色の瞳がこちらをじっくりと見定める。わずかにその相貌が獣びて見えた。
口が裂け、牙がズラリと覗き──まるで血に染まった妖狐だ。
「ヴあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
口からは唸りのような、叫びのような奇妙な音が出るだけであった。しかし緑さんの耳には不思議と言語として頭に入る。
──憎い。憎い。憎い。お前を食ってそっちの世界に行ってやる。憎い憎い憎i
「う…いてえ…」
ここまでか、と覚悟した際に、数名の足音がした。
「そこのミドリサン。こちらです」
いきなり真横に知らない女性がいる。細身の色白な人である。ひょい、と担がれ、彼女が指を複雑に交差させた。世にいう物の怪を見破る印に似ていた。
「緑さぁーん!どこー!危ないよーっ」
「辰美さん。あそこにいるわ」
夢に度々出てくるおぞましい佐賀島 辰美と、あの人間離れした妙齢の婦人の呼ぶ声がする。
「さ!元の世界に帰りましょう!案内シマスヨ!」
「貴方は誰です?この前も、鏡の家で助けてくれましたよね?」
「覚えてくれていたんですか?嬉しゃすです!」
猿か人外のような動作で木を飛び移りながらも、指の合間に不可思議な世界が広がっているのを緑さんは目撃した。
曼荼羅のような、言い表せない複雑な世界。
「ワタシはアヅチの窓の案内人!どうぞよろしく!」
案内人さん登場回。




