鏡の家 爆散
ある世界の緑さんと鏡の部屋。
(はあ…面倒くさいな…)
悪態を堪えながらも鏡の部屋に侵入する。足元の鋭利な破片に気をつけながら、室内へたどり着くと──
確かに万華鏡のように鏡が配置されている。どのような仕組みで置かれているのかは上空から見なければ解明しずらいだろう。
時に人は奇妙な仕業をしでかす。
幾人もの自分自身が写り、居心地が悪い。
同じ形をした物体が数え切れないほど、この場にいるみたいだ。
辛うじて見える隙間から遺灰の入っている変わった形の容器──骨壷だろうか──と、遺影が伺えた。
「…」
知らない女性だ。
自身より歳を重ね、この家に住んでいたのかもしれない。
遺品整理業社として、ここは遺物を取り出さなければならない。緑さんは身を乗り出して手を伸ばした。
「見つけた」
いきなり若々しい女性の声がして腕を掴まれた。
(…!くそ!)
鏡に写る数多の自分が血にまみれたり、首を吊り、虚ろにこちらを睨んでいる。何だこれは?
「離せ!」
声をはりあげ、きつい握力で引っ張ってくる何かから抵抗する。しかし尋常でない。
人ならざる者か?
「助けてアゲマショウ!」
またもや追加で見も知らぬ明るい声がするや恨みがましく指を食い込ませている手を払い除けた。
「うっ!」
部屋に精巧な細工のように配置されていた等身大のガラスが一斉に割れた。ガシャンと大仰な音を立て、思わず身も守ろうと蹲る。
「大丈夫ですか!?」
市の役員が駆け寄り、粉々になった室内に唖然としている。「あ…」
左手首にかけられていた水晶の数珠が弾け、パラパラと音を立てた。
不吉なのか──こちらを守ったのか。
「あれ…あの、拝み屋の男性さんは?」
「え?え?そんな人いましたっけ?」
三十代半ばの市役所職員はポカンとして、粉砕した遺影と骨壷らしき物を見てさらに目を丸くした。
「何で──うっ」
「え」
白目を剥いて彼は脈絡もなく倒れてしまう。気絶したのかと思い、揺すってみるも反応すらしない。そこで男性が死に絶えたのだと認識した。
(いったい、何が)
訳も分からず弾け散った数珠玉の煌めきを眺めた。あの拝み屋は幻であったのか?
「気持ち悪い」
市からそこそこの謝礼金をもらい、事なきを得た…があの男性は生贄にされたかのようで釈然としないままである。
越久夜町に帰り、小林骨董店へ入る際に盛り塩から一摘み塩を肩にふりかけ魔をよける。
遺品は爆発してしまったのである意味ホッとしているが、ああいう珍妙な出来事は早めに忘れてしまった方が良いだろう。
「はあ…少しだけ、酒でも飲みますか…」
酒は周りからキツく禁じられているが今回ばかりはやってられなかった。




