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イズナ使いの虚誕 ~2人の緑さん関連の漫書〜  作者: 犬冠 雲映子
ろ(開闢軸の緑さんとある世界の緑さん 混合)
31/105

ほつれたぬいぐるみ

ある世界の緑さんと水子供養の祈祷師。

「遺品をお清めいただきありがとうございます」

「まあ、僕たちができるのはこれくらいしかないし…」

 三ノ宮 妙順が子供の遺品を眺めながら言う。その眼差しには陰がある。

 悲しい経緯で死してしまった子供のぬいぐるみ。それを小林骨董店が買取り、寺でお経をあげてもらった。

「子供の魂も浮かばれているだろう」

 対照的に明るく言い放つ──隣にはまさしく子供のようなナリをした、魔法使いが佇んでいた。

 "水子供養の専門祈祷師"である。三途の川の渡し船とも呼ばれている界隈の一つだ。

「現世で虐げられた子供らはあの世で輪廻へ渡される。それまでには苦しみもあるが、こうして供養された者には力がつくのだ」

「は、はあ」

「何だ?その疑った目は」

 ムスッとされ、その顔に緑さんは内心ホントに大人なのかと不安になる。修行として孫を寄こす者もいるが…。

「ちゃんと成人してるぞ!」

「は、はあ。そうなんですか」

 幼女のような外見の祈祷師はヤレヤレとわざとらしく、こちらを見あげてきた。

「ふん。獣臭いヤツらはこれだから頭が悪い…」

「ええっ、僕もじゃないですかあ!!」

 獣臭いのを自覚しているのかと、横目に薄汚れたウサギらしきぬいぐるみがちょこんと竹籠に座っているのを確認する。薄汚れてほつれている。

 虐待死された子供が大切にしていた遺物。

 遺物は祈祷師により何度も浄化され、やがて水子供養された魂へ寄り添うという。

(魂…そんなものが実際にあるのか?ならこの子はあの世では幸せに暮らせるのだろうか)

「イズナ使い。無用な同情はよせ。憑かれる」

「…同情」

「未完成の者に寄り添うのはこのような品物が丁度よい」

「はあ」




 三ノ宮や水子供養専門師と別れを告げ、自転車の鍵を差し込みながら緑さんは考えた。

(未完成の者、か)

 七五三さんがあるように、子供はある歳まで人ではない。未完成とも言えるだろう。神であるかも。または人ならざる者かも。

 鍵の形がふいに懐かしみをまとう。いつだかこの型の鍵を手にした事が…あるような?

(デジャヴ…?)

 頭の隅に既視感というのが、あるかもしれないのだ。


(私の中にそれらしい記憶があるの…?)

 カチャリと音が鳴ったのを聞いて、サドルに座り込んだ。

(私にも変わってしまっている部分がある?)

(自分ってなんだ…?)

 我思う、故に我在り。──意識する自分の存在は疑うことができない。大先生がいうように。

(私は私でしかない)

 辰美はどうしようもなく辰美であり、この世界に存在する人間であるのは変えられない。そうだと、思いたいのだ。


(──今、誰かの記憶が…)

 緑さんは鍵から手を離し、呆然とした。

 この前、変な夢を見てしばらく気分が良くなかった。悪鬼か妖狐か、それに蝕まれたかのような小林 緑が脳裏から消えずらかったのだ。

 あまりの悪夢の連続に精神的にイカれたのか?

(さすがに病院にかかった方がいいのだろうか…)

 病院は小さい頃から苦手で、重体にならなければ行かないほどである。

(三ノ宮家に聞いてみよう)

 とりあえず妖しげな話題は同業者に尋ねるのが一番だ。

 ──未完成の者に寄り添うのはこのような品物が丁度よい。

 辰美という女性は未完成のような境遇だと、あちらの自分は認識していた。なら、取り憑かれたのだろうか?

 だからああなっている?

「夢は夢。くだらな…」

 舌打ちをしたのに、ほつれたウサギのぬいぐるみが蘇る。

 ぬいぐるみは虐待されている子供に何もしなかった。何もしないのに寄り添うのか?

(ああ、思考するだけ無駄。帰ってぼんやりしよう)

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