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梅雨明け
小林 緑はあぜ道を歩いていた。ただ、歩いていた。
遠くで雨が降っているらしく、雨の匂いがした。こうなると時期にこちらにもやってくるだろうか。
カエルが鳴いている。夏を知らせる、カエルが。
水をはられた田んぼは空を映し出していた。カエルはうるさいほどに、合唱して、たまに跳ねる。
嫌では無い。稲穂がざわめく台風の前より、この時期の田園風景は美しい。
電車の音がした。鉄を擦りながら走る音が、近づいてくる。風に乗ってたまに遠くの音がやってくる時があるのだから。
大した事じゃない。
だが急行並みの音を響かせ、何か、電車に似た物が向かってくる。
空気が走った。
あれだけ騒いでいたカエルが一斉に鳴き止んだ。
弱々しい風だった。ただ、ふんわりと頬を撫でていった。カエルは知っているのだろう。
電車が通過したのを。