変じる
ある世界の緑さんと、人外に変じてしまった人。
猟友会に加わり、緑さんは悪さをした獣を探す。越久夜町で猟友会がいる自体不自然では無い。
ほぼ山肌に阻まれた、裏寂しい田舎だ。
全国的な自然の不調により、野生動物たちが里におりてくるようになった。
悪さをしたのはイノシシで、何人かの人を轢いて怪我を負わせた。
「悪いねー。猟銃を扱えるのが若衆だと俺と姉ちゃんしかいねーんだわ」
ガタイのいい男がやんちゃな笑みを浮かべる。
「良いか、小林の怒りは買うなよ。アレには化け物が憑いてやがるからな」
小声で老人らが若者に注意している。
小さくため息をついて、ライフル銃をセットする。久しぶりの実物にしばし質感を確かめる。
祖父が教えてくれた、猟の仕方。獣を撃ち、捕え──イズナの苗床にするための下処理をする。
あくまでも真剣で、祖父は獣に敬意を表していた。
越久夜町の山肌は急斜面である事が多い。男どもが気を使いながらも木を頼りに、負傷したイノシシを探す。
「居たぞ!」
一人の老人が声を上げ、皆、そちらを見た。
(あれは…)
斜面に横たわっているイノシシの体から血まみれの猿が皮膚を突き破るように顔を出し、こちらを見ていた。
(魔物だ)
イズナと同列の人ならざる者。知能は高いか判別不可能だが、イノシシにとり憑き山から降りて来たのだろう。
(私が撃つしかないか)
猟友会の人々には見えていないようだ。なら、アレを仕留めるしかないのだろう。
人の血を覚えた人ならざる者は人に執拗な食欲を抱く。
「ひ、ひいっ!!イノシシから人の顔が!」
やんちゃそうな若者が慌てふためいた。それと同時に、反射的に緑さんはトリガーを引いていた。
どサリ、と弾丸に貫かれた猿が倒れる。そうして周りの人たちが若者が気絶したのに驚き、騒然としていた。
「この人ならざる者は…早急に、供養しなければなりませんね」
町の自治体に呼ばれ、魔法使いたちも集まってあの猿に似た生き物を取り囲んだ。顔は成人男性にそっくりでまるで、埋め込まれたかのようだ。
どこどこの誰々にそっくりだ、と魔法使いたちが話し合っている。数週間前に亡くなったとある家の男性そのものである、と。
三ノ宮 妙順が人ならざる者の死骸を確認し、数珠をもんだ。
「供養?人ならざる者に?」
こちらから願い下げだと、ヤツらは言うだろう。人間どもに説法されるものかと。
断絶された人と人ならざる者の認識を埋められはしない。
「ならざる者成りです。人間が人でないモノになったのです」
「はあ、そんなのが居るんですか」
「居るんですか、って他人事ですねえ」
「私はまだこの個体しか見た事ないので…」
若者はまだ正気に戻っていない。家族で看病しているが、治るかは怪しい。
(人も妖しい生き物に変じるのか…ならば、目の前の妙順も私も、なりうるかもしれないのか)
ほんのり不思議な怪談風味にしました。




