驚愕
「ナタリー。少しだけ待っていてくれないか。一緒に王宮へ行こう。」
入学式とオリエンテーションを終えたら、今日は午前中にもう解散だ。
午後は王宮でミハイル様とジャックに、ユーグ様を加えて、ささやかな入学祝のお茶会をしようと約束していた。
ジャックはさすがに王子の馬車に同乗しないようだが、ナタリーは婚約者候補という事で許される。
もちろん2人きりではなく侍女も同席してだ。
「先生に呼ばれていてね。」
「かしこまりました。あちらのガゼボで待っていてもよろしいですか。」
教室の窓から遠めに見えるガゼボを指さす。
とても気持ちがよさそうだ。
木の葉の間から陽の光が差す庭園はナタリーの好みだった。
「分かった。出来るだけ早く切り上げていくね。」
「いいえ、私のことはお気になさらず、ごゆっくり、なさってください。」
先生との用事を切り上げるというミハイル。
本当にさっさと切り上げかねないので、ナタリーは念押しした。
ガゼボは思った通り、とても素敵な場所だった。
さすが王国一の学園の庭園だ。
木立があり、色とりどりの季節の花々あり。
それらが絶妙なセンスで配置され飽きることなく眺めていられる。
どの季節でも素敵だろうが、春先の今は特に豪華絢爛だ。
「はーるがきーたー
はーるがきーたー
どーこーにーきたー」
気分が良くて思わず口ずさんでいた。
今日は1年生しか学園に来ていないし、入学式の日に残っている人も他にはいない。
小さな声で歌っていても聞く人もいないだろう。
「とーりがなーくーとーりが・・・・」
バッタンッ!!
気持ちよく歌っていたら、突然大きな音がして、反射的にそちらの方を向く。
「お・・・・お前。」
そこにはガゼボに上がる少しの段差で躓いてこけたまま、驚愕の表情を浮かべて固まるアレン様がいた。
痛そうだ。
「お前、日本人・・・・・か?」
今度はナタリーが、驚愕する番だった。