六逆純子が見せた場所 二
目的地はそれほど遠くはなかった。電車で10分ほど揺られた先にある、市内の公園だ。
緑冬自然公園。
ゴーカート。デイキャンプ。テニスコート。野球場。温水プール。その他諸々の豊富な設備を有する、緑冬市の市民なら必ず一度は訪れたことのある、憩いの場だ。私も子供の頃、両親と一緒に何度も遊びに来た。
「ねえ、そろそろ何処に行くのかくらいの教えてよ」
「行けば…わかる」
緑葉樹の連なる並木道を歩きながら、純子はそう答える。既に相当な距離を歩いていた。公園と言っても、面積は100ヘクタール以上もある。何処へ行くにも体力を削られた。
ちなみに、100ヘクタールは、人型ネズミがマスコットキャラクターを勤める、某有名遊園地と同じくらいの面積だ。
日頃の運動不足を後悔しながら、軽い足取りで進む純子の後ろをついて行く。華奢なわりに、純子は以外と体力があった。
「昔から幽霊が見えるの?」
私は歩きがてらにそう問いかける。
まだ信じた訳じゃないけど、無言で歩くのもどうかと思い、なんとなく聞いてみた。
純子はただ淡々と答える。
「うん…物心ついたときから見えてる。形の無い靄とか…皮膚の爛れた日本兵とか、交通事故で死んだ子供とか、色々なものが見えた」
「怖くないの?」
「怖い…と思ったことは無い。それが当たり前だったから。むしろ…普通の人との関わる方が…怖かった」
「…どうして?」
純子は歩調を緩めて、こちらを振り返る。
「昔は…人と幽霊の区別がつかなかった。小学生の頃、仲良くなった友達を…紹介したことがあるの。そうしたら…皆…私を不振な目で見始めた。その友達は…幽霊だったの。でも…その時の私には、死者も生者も同じだった。私に見えるから…皆見えている。そう考えてた。誰も…私の言葉を信じてくれないから、皆見えないふりをしていて、私を…騙しているんだと…考えるようになった。それ以来…人と話すことが苦しくなって、家の中に籠るようになった。その時の私は…生きている人間が一番怖かった」
私はその横顔を伺う。その瞳が微かに揺らいでいた。
「今でも人が怖い?」
純子はかぶりを振った。
「もう大丈夫。死者と生者の区別もつくし。無闇に…それを話しちゃいけないことも…分かったから」
純子は私に向け、微笑んだ。
「それに…千秋もいる。大切な人が…私を認めてくれる。それだけで…私は十分」
その言葉の意味は分からない。純子が私に、どんな感情を抱いているのか。どうして私を誘ったのか。これから何を見せようとしているのか。
一つも分からない。ただ少しだけ、その笑顔に懐かしさを覚えた。